ヨレヨレ日記 某月某日(PART7)      高嶋 宏尚

                             
 某月某日 土曜日 晴れ

 友人に奨められてプレイステーション版の「ドラクエW」のソフトを買いに秋葉原まで出掛けた。ゲーム・ソフトを販売している店は秋葉原に多いが、いずれも大繁盛で、土日は混雑の極みである。日本人の若い人ばかりではなく、外国人の姿が実に多く、真っ直ぐ歩くのに骨が折れるほどである。いくつかの店を比較して安いところやサービスのいい所など、その道の通の常識もあろうが、小生には混雑の中で店舗巡りをする根気はない。ゲーム・ソフトを買うときには大型店のSと決めている。

 人でぎっしりの店内であったが目指すゲーム・ソフトは直ぐに見つかり、支払いの列に並び順番を待っているうちに、キャッシャーの後ろに「プレイステーション2」が山積されているのに気付いた。ゲーム用の最新のハードウェアであり、最近多少値下げされたとはいえ高価なものである。我が家でも、これを購入したいとの話をしていた矢先なので、予定外だがこの際買って行くことにした。ただ、「プレイステーション2」の分までは現金の持ち合わせがなかったので、クレジット・カードで支払うことにしたのだが。

 自分の支払いの順番になり、クレジット・カードを差し出した。店員がオペレーションをしたところ、「取り扱い不能」でリジェクトされたとのことである。随分前に、決済口座に残高を置き忘れたため、クレジット・カードを取り扱い不能にしてしまい、大恥をかいたことがあった。それ以後、口座には十分残高を残している筈だし、何故「取り扱い不能」となったか思い当たるフシはない。店員に聞いても「判らない」と言う。ただ、コール・センターに連絡して「承認番号」を貰いますとのことである。結局コール・センターから「承認番号」を貰い商品は手に入れることが出来たのだが納得がいかない。カード会社に電話をし説明を求めた。回答は、「最近、盗んだカードによる被害が続出している。盗まれたカードが使われる頻度の高い店は決まっており、そこの端末からのオペレーションは一旦停止させ、コールセンターで吟味のうえ承認を与える手続にしている」とのことであった。店員からは事前にそのような説明がなかったし、数年前には財布を掏られ、中のクレジット・カードがすぐさま使われ、エライ目にあったこともあった。事情が明らかになるまで「何かおかしな事が起きているのではないか。また事故や被害に遭うのではないか」など苛々すること夥しい。

 確かにカードは便利な物ではあるのだが、弱点も持っているし、新たな問題が起きたりもしている。今更時代遅れと笑われてしまいそうだが、本当に必要不可欠なものだろうかとも思う。「便利なものは不便である」と言ったのは寺田寅彦だったかと思うが、寅彦の言ったことが良く分かる気分だ。

 
 某月某日 月曜日 晴れ

 事務や庶務的作業のため人材派遣会社は随分利用しているのだが、人材派遣会社や派遣社員にもいろいろあり、いちいち怒ったり呆れたりしていては身が持たない程のものがある。

 3ヶ月ほど前、コピーやファイリングなどの事務をお願いできる人をある人材派遣会社に頼んだ。すぐさま25歳の元気のよさそうな人を紹介してくれた。半年ほどカナダに留学していて帰国したばかりとの事だった。留学する前には証券会社に勤務し、本人の弁では新人賞を貰うなど活躍したとのことである。依頼する業務内容を具体的に説明したが、得意(であろうと思うのだが)の英語を生かせるわけでもないし、ご本人の才覚からすると向かないかも知れませんよと申し上げたところ、断りの返事を頂戴した。

 ところが、断りの返事をもらった翌日になって、派遣会社から「断った訳ではなく、担当営業の手違いで・・」との連絡を受けた。これまでの経験では、このように立ち上がりにおかしなことがあると大体結末もおかしなことに成りがちなのだが。そもそも、高等数学のような解を求めた訳ではなく、事務作業をやるかやらぬかである。間違うこと自体が考えられぬ。本人と派遣会社の間で何かの不明朗な経緯があったものと思われた。ただ、本人から改めて「本当に来たい」という言葉があったので、来てもらうこととしたのだった。

 面談での様子からはしっかりした人のように見えたのだが、実務をやらせてみると相当お粗末であった。依頼された仕事のレスポンスは速いのだが、中味はズサン極まりなく、間違いだらけ。後始末をする位なら頼まないほうがいいほどのものである。なかなかに人の能力を見抜くのは難しいものだ、と思わざるを得ない。

それでも1ヶ月ほどは真面目にやっているように見えたのだが、そのうち勤務時間中に居眠りを始めたり、リクルート誌を読んでいたり、おしゃべりも目立つようになってきた。始業時間に遅れるようにもなり、注意したら「遅刻していない」と言い張る。体調不良などの理由で突然休むようになる。連絡も管理者にではなく担当者にしてくるなど、非常識な様子が見られるようになってきた。派遣会社に状況を説明、改善方要請しても何等誠意の感じられぬ対応である。そろそろもっと凄い理由などで出てこなくなるな、と思い始めていた。

 担当者も「もう来てもらわなくていい」との評価をするようになってしまったのだが、派遣法のしばりで雇い入れ側が業務終了を通知するのは1ヶ月以上前でなければならない。やれやれと思いつつ、1ヶ月後の契約期限が来るまでは我慢することとしたのだったが、本日「休暇中に交通事故に遭い、しばらく出勤できません」との連絡を受けた。思ったとおりである。親族の大病、本人の大事故など、これまで随分の人の大病や大事故に遭って来たことになる。筋書き通りといおうか、またかと苦笑を禁じ得ない。派遣会社や派遣社員は変われども、雇用側への不義理の言い訳は判で押したように同じである。

 今回のことも、派遣社員本人は帰国したばかりでありとにかくお金が欲しかった。また、派遣会社も誰かを送り込んでしまえば口銭が稼げる。とまあ、こういった事情があったのだと思う。気に染まぬ仕事だけれどもとにかく口説いてやらせる。そのうちに別な仕事を探そうと言うことだったのだろうと読んでいる。他の気に入る仕事が見つかったのだろうと思う。派遣社員の交通事故に遭った様を見せてもらいたいものだ。

 
 某月某日 水曜日 雨

 雨が降ってきそうだし早く退社しようと思った。まだ大丈夫だろうと傘を持たずに会社を出たが、外はすでに小雨が降っていた。傘を取りに帰るのも面倒だと、そのまま駅に急いだ。少し濡れて日本橋駅に着くと、中央線の事故の影響を受け東西線にも遅れが出ているとのアナウンスだった。ついてないなと思ったが、5分ほどの遅れで電車は到着した。雨の日の電車では、濡れたままの傘を無神経に他人に押し付ける人がいたりした鬱陶しいのだが、幸い一番隅に立つことができたので、壁に寄りかかりながら本を読んで帰ることとした。

 順調に電車は走ったのだが、行徳駅を過ぎたあたりで急ブレーキがかかり止まってしまった。9時を少し回った頃だった。程なく車内放送があり、人身事故が発生したのでしばらく時間がかかるとのことである。車外には絶対出るなのアナウンスも繰り返し行われた。どうもこの電車に飛び込んだ人がいたらしい。警察や消防の現場検証などが行われるとのことだが、騒然としている車掌室の様子が車内アナウンスのたびに聞こえてくる。

乗客の中には携帯電話を取り出し、家族や友人などに遅れる旨の連絡をしている人が随分いた。小生の後ろにいた若い女性は5分置きぐらいに車中の様子を家族に報告しているようだった。余り気持ちの良くない事故であるし、いつまで混み合った電車に閉じ込められることになるのか見当もつかない、では不安になるのではないか。家族に電話することで不安な気持を紛らわせていたのだと思う。しょっちゅうゴソゴソ動いて背中にぶつかられたり、足を踏まれたりしたのには閉口したけれど。長い時間閉じ込められると、生理現象や体調不良などで具合の悪くなる人が出るのではないかと心配されたが、自分も含め周囲には幸いそういう人はいなかった。どうせ長期戦だと腹をくくり、本を読むことで気を紛らわせることとした。車内の温度が上がりはじめたが、外気の温度が低いためクーラーが効かない。窓を開けると、車外を車掌や保線区の人たちが走り回っているのが見える。

 このままでかなり時間が経った。そろそろ何とかしないと騒ぎが始まるのではないかと思われた頃、「電車は検証のため動かせないので、最後尾の車両から一人づつ降りて行徳駅まで歩いてもらいます」とのアナウンスがあった。ただし、行徳駅に着いても交通手段はないとのことだ。きっと奪い合いになるだろうタクシーを待つかJRか京成の駅まで歩くか、それにしても傘がない、その前に腹ごしらえが必要だなど、瞬時に様々なことが思われた。

 順次乗客が車外に出ているようだが、一両に200人程度は乗っている。仮に一人3秒で降りたとしても、200人では10分かかる勘定だ。自分の車両は後ろから数えて7両目である。どんなに早くてもこれから1時間以上かかることになる。全員が降り切るのに実際どれだけの時間がかかるのだろうと思った。これしか他に方法はないのだろうかとも思った。

 また30分ほどが経過した。隣りの車両を覗いて見ても人が動き出す気配は全くない。線路脇の通路も一人づつしか通れないので時間がかかっています、とのアナウンスがあったが、相当てこずっている様子である。次第に我慢の限界が近くなってきているように感じられた。送電を切るなどして、ともかく乗客が車外に出れるようにしないと耐えられなくなるのではと思い始めた時、電車を動かすとのアナウンスがあった。初めは行徳に戻るとのことだったが、すぐに、先の妙典まで行くと変更された。

 車両やモーターの点検などがあってから電車は動き出した。やれやれ、と言う感じである。その後も小刻みに乗り継ぎが必要だったものの、まあなんとか下車駅に帰り着いた。最後はタクシーで帰宅したのだが、事故のため1時間半ほど立ち往生していたことになる。滅多にないことを経験したとも言えるが、余り有難くはなく、「ほんに今宵は仏滅かぁー」と歌舞伎の科白をもじりたくなる気分だった。帰宅して暦を調べたら本当に今日は仏滅であった。

 
 某月某日 日曜日 晴れ

 久しぶりに同期会のゴルフに参加した。同期生には数名のシングル・クラスから、自分のようにむしろやらない方がいいほどの下手までいるのだが、毎年2〜3回和気藹々と楽しんでいる。大概ビリかブービーにしかなれないので、恒例のように反省の弁を皆の前で言わせられることになるのだが、毎回「優勝を狙っている」と大法螺を吹きながら参加していたのだった。ところが膝を痛めてしまい、ドクター・ストップがかかってしまってからは参加すら思うにまかせず、本当に久々の参戦となった。

 天気に恵まれ絶好のゴルフ日和であった。ゴルフ場で久しぶりに顔を合わせた同期生は異口同音に膝の加減を気遣ってくれた。なんとか18ホール歩き通せればいいとの気持ちでスタートした。同期のゴルフでは、実力により概ねA〜Dの4クラスにわかれるのだが、わがパーティはBクラスのS君、K君、CクラスのA 君、言うまでもなくDクラスの小生である。ハンデキャップも30と小生は最大の数字をもらっている。

 もともと下手なのに加えこのところ全く練習もしていない。午前中はいつもどおり、ダフリ、チョロ、OBの連発で64のスコア。打順は終始4番目、例によって惨めなものである。ところがなんと、午後になったらガラリと様子が変わってしまった。

 午後の2ホール目、395YDのミドル・ホールで、午前中42のスコアだったS君と小生の2打目は共に140 YD残すだけとなった。小生は9番アイアンで先に打ったところ、まぐれでグリーンに乗ってしまった。S君は7番アイアンでのショットだったがグリーン脇の深いラフに打ち込んでしまった。このホール小生は運良くパー。ラフにてこずったS君はなんとトリプル・ボギーとなってしまった。ここからあろうことか、小生は6ホール連続してオナーになってしまったのだ。

Dクラスの小生にオナーを取られたことで皆の調子が狂っていったのは確かだった。膝に負担をかけまいとリキまずにスウィングするようにしたのだが、午後になってから、なんとなく力を抜くコツが身についたような感じであった。ただ、最終ホールはハーフのベスト・スコアのチャンスとリキんでしまい、池ポチャ、OBを打ってしまい9だった。それでも後半のスコアは49である。いつもの自分からすれば夢のような成績であった。

 タラ、レバは言ってもしょうがないのだが、もし前後半とも49で回れたとしたら98である。ハンデの30を差し引くとネット68となり、アンダーパーでのぶっちぎりの優勝となる勘定である。プレー終了後の懇親会で、「これまで同期会ゴルフコンペのお荷物として散々迷惑を掛けてきた自分であるが、次回は優勝候補の本命としてマークして頂きたい」と派手な啖呵を切ってきた。愉快な一日であった。

 
 某月某日 祝日 快晴

 本当に久しぶりに競馬場に出掛けた。毎週のように重賞競走を中心に馬券は買っているのだが、全て電話投票である。便利になったとは言えるが、一方でやや物足りなくもある。粋がるつもりはないけれど、競馬場はやはり鉄火場。サラブレッドが猛スピードで駆け抜ける中で、現金のやり取り(当方は取られっ放しではあるのだが)をするのには、確かに血を沸かせるものがある。

 本格的な競馬シーズンが到来し、競走馬たちは間近に迫ったオークスやダービーに向け最後の挑戦権争いを繰り広げている。鮮やかな緑のターフを、汗に濡れた肌を光らせながらサラブレッドが疾駆する様を見ているだけで、なんとなく幸せな気分になる。うっかりしていると手に持った競馬新聞が飛ばされそうになる程風が強かったが、初夏を思わせる日差しの中にいると強風もむしろ心地よいくらいであった。

 メイン・レースは1マイルの GT「NHKマイルカップ」であるがまだまだ時間がある。競馬場に到着した丁度そのとき、「間もなく6レースを締め切る」とのアナウンスがあった。事前に予想はして来ていないのだが運試し、大急ぎで窓口に駆け込み、人気のない馬の組み合わせを幾つか買ってみた。この調子で穴馬券が取れるのならこんな楽な事はない。買った馬券はかすりもしなかった。このような事態を作家の石川喬司は、「飛び込み自殺」と皮肉っている。

「よーし、リターンマッチ!」と意気込んで、続く7レースにも手を出してみたが、結果は6レースをコピーしたようなもの。あえなく返り討ちにあって連敗。些か頭に血が昇りかかってきて、8レースは無理を承知で無印の穴馬を5頭ピックアップしてみた。選んでみたところで悪魔の囁きが聴こえた。「無茶したらあかん。ここは一番、落ち着きが肝心でっせ(何故か関西弁)」と。その通り、今から熱くなっていてはいけない。8レースは休むこととした。競馬場に居て馬券を買わずにレースを見ているのは、実は相当の苦痛なのである。せっかく出かけて来たのだからとの気持ちと、もしかしたら大儲けできるかもしれないとのスケベ根性を抑え込まなくてはならないからだ。6,7レースと予定外の損を計上してしまったのだから、これ以上無駄な馬券を買わずに勝負レースを待とうと殊勝な気持ちになったのだ。

 ところが8レースは大波乱。なんということか、選んだ5頭のうちの3頭が、1,2,3着に入って来たのだ。馬連は380倍、ワイドでも90倍、100倍の配当となった。驚きを通り越し、自分の勝負弱さに発する言葉とてない。こんなチグハグはなく、勝利の女神に弄ばれている感じだ。これ以上競馬場に居るととんでもないことになりそうだ。メイン・レースの前売り馬券を買い、早々に競馬場を後にした。

 家に帰り着いてテレビで「NHKマイルカップ」を見た。今年の3歳馬は、「桜花賞」も「皐月賞」も大波乱となったように、真に信頼の置ける馬がいない世代だと感じる。従って、人気とは関係なく思い切った穴狙いに妙味がある。調教での走りっぷりに迫力を感じた7番人気のカフェボストニアンを中心に選び、これから5頭に流してみた。いずれも相当の穴馬券である。

 最後の直線では各馬とも芝の好い、コースの内側に殺到したため、ごちゃついたレースになった。かなり不利を被った馬もいたように思う。我がカフェボストニアンは、ゴール前1ハロンのあたりで馬群を抜け出し一旦先頭に立ったものの、もう脚色に余力はなかった。結局ゴールした時には7番手に落ちていたが、1着から4着までは相手に選んだ馬ばかりであった。馬連は48倍の好配当である。そこそこのところまでは迫れるのだが、あと一歩のところで幸運の女神の後ろ髪を掴まえることが出来ない。こんな調子で、今年の累積赤字も既にかなりのものになっている。そろそろ謹慎せねばなるまいか。

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