「経営と情報通信」研究会(第14期第3回)記録
文責: 辻 淳二
9月25日(火)に開催、出席者12人、2次会参加5人で、今回は直前に亡くなられた勝亦研二さんを追悼する会でもあったので、ゆかりの深い人がやや多かったようで、会への貢献者だった故人のためにもこれからも「活気と暖かさに満ちた場」として継続を図って行こうとの思いを新たにした一夕となった。
この回の話題提供は安藤博さん(東海大学教授&轄\造計画研究所)で、『情報公開とITによる日本再興との関わり』のテーマについてこの4月に法制化されるまでの経緯紹介と論点の切り出しをして頂き、それを受けて自由に討議を行なった。
質疑&討議の要旨は次の通りだった。
上野: 本質を突いた話で、勉強になった。
新田: 「請求すれば知れる」のは良しとして、“原則公開”と言いながら「それが、政府側からどこまで積極的になされるか」には疑問がある。アメリカでは、ホワイトハウスのレポートで「国民ヘのサービスの一環」と前向きなのに、日本では「積極的には出さない」ように見える。樋口さんなど経済界の人が中心になった委員会が答申した「経済再生提言」に対して政府の反応が鈍く、都合のいいように利用しようとしている官僚の姿勢を見せつけられているから、そう思ってしまうのだが。どうしたら、こういう姿勢のギャップをアメリカ並みにできるだろうか。
安藤: 20年間法律制定のための市民運動をやってきて、お話のような場面にもいろいろと出くわし、「明治以来の官僚国家」体質が根深く残っていると感じている。要するに、アカウンタビリティ(説明責任)に関する意識の問題だろう。例えば、情報公開法第一条は、その目的として当初案では「政府の活動を国民に説明する責任が全うされるようにするとともに、国民による行政の監視・参加の充実に資すること」となっていたのに、成立した法案では官僚が書き換えて“監視・参加”を削ってしまった。こうしたことごとを見ても、心配されているようなことは今後もあり得る。4月に法制化されたので、市民運動も「公開を促進する」方向に切り替え、使いながら不備をついて行くことにしたい。
浜田: 「適用除外」事項について期間はない?
安藤: 外交関係だと、確かアメリカは25年、日本も30年、30年経てば一般的には“開示を拒否する理由”が解消するとの判断による。ただ実際には、この基準に沿って全てが公開される訳ではない。例えば、日米安保体制に関する事柄などは、日本の外交関係者は“アメリカ大事”で隠すことが多い。漏れる時は常にアメリカから漏れるが、それは向うから見れば対日関係は“マイナーな秘密”との意識だからだろう。
浜田: 日本は、行政の情報の質量はまあ揃っているのでは? 少なくとも最低限のレベルには達していて、歴史家などにとって役に立っているのではないか。例えば、「・・の時、天皇が・・を食べた」といった奈良朝時代の情報も残っていて、情報を大事に扱う姿勢はあったように見える。一方のアメリカでは、建国時の情報はない。どうも、蓄積はできているのに開示がなされない国のような気がする。いま、狂牛病で大騒ぎだが、「日本は危険度3のレベル」と欧米から入って来て、国内から「北海道で何十頭」という情報が開示された。
安藤: 官僚の生理とも言えるようなトレードオフがありそうだ。「開示する」ということと「隠し持って民を支配する」ということの兼ね合いで、官僚は隠し独占することを楽しみに情報をため込み整理もする。結果的に、質量ともに良いものが残る。公開法によってこの楽しみを奪われれば、質量が減じるということになり兼ねない。この点で、アメリカはやはり異なるところがある。政権交代とともに中堅以上の官僚は総入れ替えになるなど、官僚が行政の主人になっている訳ではない。このためにまた、官僚システムとしての情報共有化をめざすファイリングシステムが進んでいる。
浜田: 情報公開法では、「官庁は、ありとあらゆる情報を保有すべき」という規定はある?
安藤: 法の中に「・・整備しなければ・・」とはある。「勝手に捨ててはならない」ということでもあるが、都合の悪いものをシュレッダーにかけてしまう手立てがある訳ではない。
浜田: 国会図書館には、「どんな本も一冊買う」との規定があるが。
安藤: これはアメリカのシステムをまねたものだろう。
浜田: 発禁本まで保管されている。何が価値あるかは時代と共に変わるから、「全部買う」は必要なことではないか。
新田: さっきのファイリングの話に戻るが、アメリカの方がしっかりしているかも知れない。「津田梅子さんの留学時の成績が残っている」との話を聞いての推量だが。
辻: 質の面では、大英博物館がすごいのでは。数回前にテーマにした寺島実郎さんの「1900年ヘの旅」に、夏目漱石もマルクスも南方熊楠も滞在中にここに通い詰めて、そこで学んだことが後の価値ある業績を支えたことが書かれていたのを思い出した。
石井: それは、生データと情報の違いだろう。大英博物館のは情報、古文書などは生データ。実際には、「生データは一杯あるが、加工し切れない」というのが現実ではないか。
辻: 私の知る地方の町で、江戸期の100数十年に渡った「捕鯨漁業集団の経済活動の記録」があるが、これをひもとく人がいないという話を聞いた。こういう話は、あらゆる所にあるのだろう。
黒木: 公開法に戻ると、先ずは、やはり「制度を利用して、使って見て改善していく」ことだろう。「使ってナンボ」という話だ。そういうことから、マスコミが記者クラブで官僚側と馴れ合った上で書かれる記事からしか世の中が見えない状況から脱け出していこう。「差し当たり、どう使うか」だが、自分だと、住んでいる千葉市の予算の執行を調べてみる辺りから入るのかな。
安藤: マニア的に要求を出す人もいるが、一般には焼却場を作る問題とか、薬害の問題とか、身近に利害のある問題で役所とぶつかるのが多いだろう。ひところ話題になった「(知事が記者クラブで話す時の)食料費」の話は、法律にしていく上で力になった。いずれにしても、罪に関する法律が「死刑にするためでなく、罪を犯させないためにある」ように、「暴くのではなく、隠させないように使う」という姿勢が大切なのだろう。