[シリーズ投稿] 新聞の研究(その

    朝日と産経新聞社説の特色比較         柳下  彊


 朝日新聞と産経新聞は何かにつけて意見を異にすることが多く、両紙の社説が同じ主題について正反対の意見を述べたり、また朝日の社説に対して産経のコラム「産経抄」が辛辣な批評を加え、それに応じて朝日夕刊のコラム「窓」が皮肉で言い返したりという応酬はよく眼にするところです。そこで、両紙の論調の違いを量的にとらえて見たらその違いはどのように見えるかという興味に基づき、簡単な分析を行ってみました。

 2001年の9月から11月までの3ヶ月間について両紙のインターネット版から社説を収集し、その標題から主題、論調(批判、同調、留保条件付意見など)を分類し、分類ごとの件数を集計・比較して見たものです。

 先ず、主題については、ごく単純に新聞の各面(政治、経済、国際、社会など)に対応する分類を「分野1」とし、分野1を更に具体的な問題あるいは範疇別に細分化した分類を「分野2」とします。論調については、これも単純に批判的論調、同調的論調、その他の論調(条件付賛成、条件付反対、新聞独自の提案・提言など)3種に分類します。この場合、批判や同調の対象になる主体は当局者(我国の政府、官僚機構、与党、我国の同盟国の政府等)とし、我国の仮想敵対国(この言葉は不穏当かも知れませんが、具体的には北朝鮮や、中華人民共和国などを指します。)の当局者に対する批判は、我国当局に対する同調・支援と同一の分類に属する扱いとします。集計にはExcelを利用し、両紙の社説(言い遅れましたが、産経紙の場合は、他紙の社説に相当する論説に「主張」と言う標題を付けていますので、以下で、社説という場合には、同紙の場合「主張」を意味します。)の標題に基づいて、個別の社説ごとの分野1,2および論調をコード化して分類・集計した結果は以下の各表に示すとおりです。なお、標題だけでは分野または論調を判断できない場合には、社説本文を参照しました。 

1 朝日社説の主題「分野1」と論調(件数と構成比)

  分野1

論調

政治

経済

国際

社会

文化

メディア

教育

合計

比率%

批 判

33

8

12

10

0

0

1

64

37

同 調

1

0

3

1

0

0

0

5

2.9

その他

18

16

34

23

7

1

5

104

60.1 

合 計

52

24

49

34

7

1

6

173

100

比率%

30.1

13.9

28.3

19.7

4

0.6

3.5

100

 

注:総件数173件は、20019月〜11月朝日紙社説のほぼ全数である。

2 産経主張の主題「分野1」と論調(件数と構成比)

  分野1

論調

政治

経済

国際

社会

文化

メディア

教育

合計

比率

批 判

16

6

4

4

0

1

0

31

23.7

同 調

26

0

15

3

0

0

0

44

33.6

その他

14

16

10

5

7

1

3

56

42.3

合 計

56

22

29

12

7

1

3

131

100

比率%

42.7

16.8

22.1

9.2

5.3

1.5

2.3

100

 

注:総件数131件は、20019月〜11月の主張の全数ではなく、筆者が任意に抽出したものである。 

 上表12分析に基づき、両紙の社説について、次のことが言えるのではないでしょうか。

@       朝日の社説は、政府など当局に対して賛同、支援する論調が殆ど見られない(全体の3%弱)が、産経主張は政府など当局を支援する論調がかなり(3割強)見られる点が対照的である。

A       朝日の社説は、批判または同調のいずれにも属さないその他の論調が大部分(6)を占めているが、産経主張の同比率は4割程度で、比較的少ない。両紙を比較すれば産経紙は相対的に旗幟鮮明な印象があり、朝日紙は相対的に旗幟不鮮明な印象がある。

B       4大分野(政治、経済、国際、社会)の主題の選択については、朝日紙は、経済問題の割合が比較的少なく、産経紙は政治問題の割合が高く、社会問題が低い。ただし、この点には取り上げた期間(2001.911)が、昨年9月のニューヨークにおける航空機テロの直後の期間であったことが反映しているかも知れない。

3 朝日社説の主題「分野2」と          表4 産経主張の主題「分野2」と

   論調(件数と構成比)                 論調(件数と構成比)

 

批判

同調

その他

比率%

 

批判

同調

その他

比率%

テロ

16

1

15

32

18.5

テロ

2

21

11

34

26.0

東アジア

1

2

5

8

4.6

東アジア

2

4

3

9

6.9

国会

6

0

2

8

4.6

国会

5

1

0

6

4.6

特殊法人

4

1

3

8

4.6

特殊法人

3

3

2

8

6.1

金融

3

0

4

7

4.0

金融

1

0

2

3

2.3

食料

4

0

3

7

4.0

食料

4

0

3

7

5.3

環境

1

1

5

7

4.0

環境

0

0

2

2

1.5

アフガン

1

0

5

6

3.5

アフガン

0

0

1

1

0.8

構造改革

2

0

4

6

3.5

構造改革

4

2

2

8

6.1

教育

1

0

5

6

3.5

教育

0

0

2

2

1.5

事件事故

2

0

4

6

3.5

事件事故

3

1

1

5

3.8

アジア

1

0

4

5

2.9

アジア

0

1

1

2

1.5

行政

3

0

2

5

2.9

行政

1

2

0

3

2.3

司法

2

0

3

5

2.9

司法

0

0

2

2

1.5

内閣

2

0

2

4

2.3

内閣

1

0

0

1

0.8

防衛

3

0

1

4

2.3

防衛

1

1

0

2

1.5

その他

12

0

37

49

28.3

その他

4

8

24

36

27.5

合計

64

5

104

173

100

合計

31

44

56

131

100

比率

37.0

2.9

60.1

100

 

比率

23.7

33.6

42.7

100

 

注  「その他」欄には、朝日紙の場合、「労働」、「核」各4件、「中東」、「企業」、「警察」、「情報管理」、「日米関係」各3件、「新ラウンド」、「日本国」、「防災」各2件等が、産経紙の場合は、「日米関係」、「情報管理」各5件、「税制」4件、「企業」、「スポーツ」各3件等である。 

 1および2により両紙のおおまかな特色を見たので、表34では、両紙の主な対照点2点に関して、どのような論説があり、具体的な相違点は何かということを見たいと思います。

 先ず、昨年911日のニューヨークでのテロ事件に関する論説は両紙とも最も数が多く、また論調の数字への表れ方も、鮮やかな対照をなしています。朝日紙のこの問題に関する主な論点は我国政府の米軍々事行動支援に対して自重を求める事であり、一方、産経紙はこの問題を「文明」と「暴力」間の戦争ととらえ、米国の対タリバン軍事行動と我国政府の支援活動を全面的に支援する論調が目立っていました。

 朝日新聞は、一度だけ、109日付で「アフガン空爆――限定ならやむを得ない」と題する社説を掲載し、米英軍によるアフガン空爆を認める姿勢を見せています。この場合も論旨は「軍事行動はできるだけ抑制的に行うべき。」等、三つの条件を示し、自制を求めていますので、実質的には条件付賛成なのですが、朝日紙が対テロ軍事行動もやむを得ないとした意味は大きいように思います。同紙はこの社説で、『国際社会を標的にするテロ組織を壊滅させるには、訓練基地や軍事施設などに目標を絞った限定的な武力攻撃はやむを得ない、と考える。』と述べているのですが、こういう議論を奇麗事と言うのではないでしょうか。リベラル派と称される新聞の弱さが、この論説に表れているように思います。

 産経新聞がテロ問題に関して政府等当局を批判しているのは二度だけで、その10倍の21回が支援の論説でした。1118日付「多国籍軍展開、即応できない実態を正せ」と、1121日付「PKO法改正、不十分な武器使用の緩和」がその批判ですが、いずれも我国憲法規定上の制約などにより、軍事活動支援が産経紙の立場からは不十分とされ、有事法制や憲法、PKO法の(産経紙から見た)問題を指摘しています。私自身はこの文脈での憲法改正論には反対の立場をとりますが、議論の一貫性という観点からは、この場合朝日紙より産経紙の側に迫力が感じられます。

 次に金融の問題に関する論説については、両紙とも「批判」と「その他」(条件付意見)がほぼ拮抗する互いに似た構成ですが、論調にはかなりの相違があり、朝日紙は銀行に対して不良債権処理を急ぐ事を促し、その結果資本不足を生じる場合には金融庁は公的資金の注入も覚悟すべきとの論旨を展開し、デフレ対策としてのインフレターゲット論には組しない立場をとっています(1124日朝日「日銀法――「改正論」に反対する」)。一方産経紙は、不良債権問題についてはほぼ朝日と同様ですが、インフレターゲット論をとり、必要なら日銀法の改正も考えるべきとの意見を表明しています(例えば本年215日付「デフレ対策、大胆で果断な実行を急げ。」では、『従来の量的緩和では、デフレ阻止につながらない。インフレ目標を設定し、外債や上場投資信託などの資産購入まで資金供給手段を広げる。名目成長率目標や日銀法の改正を含め、内外にデフレ克服に向けた強力なメッセージを送る(べき)』と述べています。)。両紙とも、金融、経済問題の正確な理解に立った意見とは思えないのですが、特に産経紙のインフレターゲット論は経済的効果を必ずしも明確に計ることのできない外債などの資産購入を日銀に迫るもので、乱暴過ぎる議論だと思います。総じて産経紙の金融論は、危機を強調するあまり、市場や法制の現実を強行手段によって性急に変えようとする強引な議論が目立つと思います。

 石原慎太郎氏が陳腐な文章の例として『一週間前の社説のような』という形容をされたのをTVで聞いた記憶がありますが、読み方によっては、新聞の社説も多様性を持った面白い読み物のように感じられることもあるのではないでしょうか。

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