初めてロッククライミングを体験     瀬川 滋

 
 
 

4/18        和気アルプス・鷹ノ巣山 

 岡山の山のグループの1人は自宅は神戸の拙宅の近所だが、全てに拘束されるサラリーマンに見切りをつけて、美作の農家を買い取って別荘代わりにし、毎週神戸から通って農業にいそしんでいる。彼からその家に集まってワイワイガヤガヤやって、翌日和気アルプスで岩の訓練をするので来ないかという誘いがあった。私は岩をやらないと言うと、一般道もあるからというので参加した。17日午後、神戸を車で発って中国道の美作のインターからかなり北に入った彼の家に向った。そこは「能登可の里」とうたっているだけあって、全くのどか。一番奥の、昔砦があったという小山の麓に彼の家はあった。その家は尼崎信金の創始者の生家というだけあって、蔵を構えた築100年の立派なもの。彼は譲り受けてから風呂を檜の露天にやり変え、蔵に2階を作ってサウンドルームにしている。その各々を味わってから、総勢6人で山談義と農村生活談義を肴に宴会。話の中でいつの間にか、全員が岩をやるいうことになってしまっていた。ある程度アルコールが入ると、案の定一番におねんね。  

 翌18日、逆に皆は眠っている中、早朝1人起き出し外を散歩。ただ静かに広がる田とぽつぽつ点在する家、そして遠くにに広がる丘。車1台通らない。聞こえるのは鶯の声。家々の田は春の支度が整っている。何とものどかというしかない。皆が起き出してから、山菜がたっぷり入った味噌汁で朝食を済ませてスタート。車で南に吉井川を1時間程下り、山の緑を「大」の字ならぬ「わ」の字に刈り込んだ山を過ごすと、標高は137mと低いが立派に富士山の形をした城山(和気富士)がすぐ近くに現れる。少し進むと、目的の和気中学校。日帰り組が沢山待ち構えており、全員で林の中の急登を約1時間歩くと、木に覆われていた登山道にいきなり大きな岩盤が現れる。ロックの練習場の鷹ノ巣ゲレンゲだ。ここで荷を下ろして支度。紐で出来たズボンともいえるハーネス(身柄を確保してくれる人とロープで結ばれており、もし滑落しても宙釣りになるだけで下まで落ちない)をはき、落石から身を守るヘルメットを被る。全て借り物。まず基本動作の確認。基本は、アンザイレンしてもらっている相手に確保してもらっての行動法と三点確保の登攀法。ロープの結び方と岩のとっかかりへの足の置き方、そしてロープをたぐって歩く時の歩き方から、相手が滑った時のロープでの確保の仕方等々。  

 やがて行動開始。下から見上げるととてつもなく厳しい約40mはあろう岩場。遠くから見ると滑らな斜面に見えてどこにとっかかりがあるのかと思うが、近寄るとわずかながらも凹凸がある。でもほんの小さなものなのでとてもそこを登っていくのはうーーんと思う。まずトップになるベテランがその僅かな凹凸に三点確保(両手両足の内の三点は岩のとっかかりに固定して残り一点をより上の新たなとっかかりに動かしてしていく登り方)ですいすいロープを持って登っていく。このロープが我々の登攀時にハーネスに繋がれて安全を確保するのに使われる。トップが上方の身柄を確保出来る所まで登ると、登って来いの合図。初めてなのでなかなか勇気が出ず、他の者が登っていくのを見送る。すいすい登っていく者、途中で動けなくなってピタっと止まってしまう者、そして途中から引き返す者。良く見ていると、同じように見える斜面でも登り易いコースと登り難いコースがある。下の方は同じだが、上の方にいくと凹凸の具合が違うんだろう。やがて意を決して登り易いコースにとっかかってみる。まず両手の指を頭より上の小さなひっかかりに確保してから、片足を上げて登山靴の先を小さな凹凸にのせる。そして今度は逆の足を上げる。すると身体が少し上に上がる。両足が確保できたら、次は右手を更に上の窪地に、そして次は左の窪地にと上げていく。ところがこのとっかかり、なかなか自分の体重を支えてくれるとは思えず、度々躊躇する。でも、登っていくと何とかなる。

 この繰り返しで、やっとこ目標地点に到着。それにしても上からロープで確保してくれているという安心感は何にも変えられず心強い。やれやれ。今度は下り。上りはロープには頼らないで自力でとっかかりを見つけて登るのに対して、下りは岩に凹凸があろうと無かろうとお構い無しに靴底を出来るだけ広い面積岩に沿わせ、身体は岩と直角とまではいかないまでも可能な限り離してロープに身体を預けて下る。最初はロープが切れたらとか、上でロープを確保してくれている人に何かあったらなんてビクビクものだが、えいままよと意を決すると何てこと無くスルスル降れた。

 はらはらした後は昼食。抹茶の野点も用意されている。岩を初めてやったのは私を含めて3人。3人の感想が話題の中心。1人は途中で諦めて下っていたが、午後にはリベンジすると元気がいい。食後再挑戦。ゲレンデは巾10m位はあり、目標点を中心にした扇形の中にコースはいくつでも取れるが、今度はその中でも最も難しそうなコースを選んでみた。途中までは何なく登れたが、そこからとっかかりが分らない。どうしても、自分の腕では前に進めない。岩用で無く冬山用の靴を履いているからか、足がなかなか定まらない。やむを得ず確保してもらってる人に合図して少し下り、少ない凹凸を頼りにコースを少し横にずらして再度上ってみる。そこには何とか自分の腕でも上れるとっかかりがあり、何とか目標点に到着。微妙なもんだ。ヤレヤレ。そこで休憩。休むにしてもハーネスに繋いだロープと岩に打ちつけてあるボルトをカラビナで結んで身体を確保。こうしておけば何かあっても滑落しない。ロックというのは身体の安全の確保の連続、即ちもし何かあったとしても最悪事態にならないよう常に安全を追っかけるんだということを改めて認識した次第。

 そこからより上のゲレンデを見上げると、垂直からオーバーハング気味の岩に挑戦している人がいる。見ているだけでハラハラドキドキ。手も足も出ないって感じ。と思っていると、次に上ってくる人のリードをしてみろという。岩に繋がれている身体を屈ませ、見よう見真似で腰から肩越しにロープを回し、下の人の上がるペースに合わせてロープを引き上げていく。斜面の関係から最初は姿が見えなかったのが、ロープをたぐっていく内に姿が見えてきてやがて到着。これはこれで感激。同様に、下る人の確保もやってみる。1人分の体重全てがロープにかかっているのだからすごい負荷がかかっているんだろうなと思って見ていたが、やってみるとそうでもない。でも、下る人は全てをロープに預けているので、気はゆるめられない。やがて着いたという声が聞こえてきてヤレヤレ。最後に、自分も確保してもらって降った。改めて下から上を見上げても、目標点は見えない。良くぞ登ったもんだと改めて感激。しかし両手の第一間接までが痺れており、指に頼って登ったんだということを改めて実感。とにかく斜面にいる間は緊張の連続で、いつもの山行とは違う疲れがどっと出る。皆が揃ったところで一斉に下山し、神戸に向けて猛スピードで帰った。


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