雪山の藪コキ登山 瀬川 滋
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石川県に笈ヶ岳という山がある。この山は、難山がいくつかある日本二百名山の中でその双璧に数えられている山で、藪で覆われて登山道が全く無く、夏に登ろうものなら大変な藪コキを強いられ、余程の体力・技術が無いと登攀は不可能と言われている。しかし冬期だと、4月からゴールデンウィークにかけてならば、スノーシュウイングすれば、途中テント泊で何とか登れるという。仲間に相談すると、2人が手を上げてくれた。ところが具体的日程調整の段階で、3人各々に計画があり、揃って可能なのは5月20−21日ということになった。現地に問合わせてみると、「今年は雪が多いので何とも言えないが、例年ならこの時期は雪が消えている所が多くてまず無理」ということであった。相談の結果、山は逃げないから来年にしようということになった。「さらば、笈ヶ岳を想定した藪コキ登山を」ということになり、仲間6人とで雪山の藪コキ登山をしてきた。
4/22
皆ヶ山(岡山、1159m)
早朝家を出て、中国道の湯原ICから待ち合わせ場所の道の駅「犬挟」に車を飛ばす。神戸ではもう散ってしまった桜が中国道沿いの山合いでは満開で、目を楽しませてくれる。しかし、鳥取側のこの駅では、標高も少し高いこともあってまだ春は遠い。総勢7名が揃うのを待って、麓まで車を進める。倉吉に注ぐ小鴨川の先っちょにある小泉谷を入る。やがて人里を離れると、山合に清流が注ぎ、辺り一面がワサビ畑。そんなにも広くない谷間だが、かなり長く続く。静岡・信州で一面の畑を見たことがある以外では、ほんの一角にワサビが植わっているのを見かける程度で、こんなに大きな畑は初めてだ。雪解け水が豊富な沢は何処にでもあるのに、ここでしか見ないというのは土との相性がいいんだろうとなあと思った。ワサビ畑の切れた辺りで山崩れが道を塞いでおり、車を降りる。
高度計は標高600m。早速仕度をし、あと600m弱の登りだから大したことあるまいとタカを括って、9:50に登山開始。私以外は沢登りのベテランで、ちゃんとヘルメットを被っている。一瞬、山を甘く見たかなと不安がよぎる。沢筋を少し登ると、雪道に変る。谷沿いの縁は雪が薄くなっており、いつ踏み抜くか分らないので真ん中を慎重に進む。しかしドスン、小さなクレパス状になっている所で雪を踏み抜いてしまう。幸い大した所で無かったので事なきを得たが、本格的だったらと肝を冷やす。今回は滝の無い谷を選んでくれていたはずだったが、1時間程で地図にも載ってない小滝に出くわす。私がいなければ直登するんだろうが、左岸を捲くことになる。登りはもろい岩場。ロープを使うこととなったが、私は何とかロープ無しで登れた。だが、沢への下りは全くとっかかりの無い岩。ここはロープのお世話になり、懸垂下降。技術と道具の必要性を改めて痛感した次第。
谷を詰め切った辺りで右岸に3本の支流が現われ、地図からして真ん中の沢を選ぶ。2−3日前に季節外れに降った雪なのであろう、厚い純白の雪が急斜面に広がる。所々茶色に汚れているが、これはその前に日本中に降灰した黄砂の名残だろう。かなりの傾斜だが、アイゼンをつけるまでもない。滑落するとかなり下まで滑り落ちそうなので、ピッケルを効かせながら一歩一歩慎重に歩を進める。やがて立派なブナ林に行き着き、登り切ると大山・蒜山縦走路にあるまっ平な鞍部に辿り着く。西に二又山、東に目指す皆ヶ山がすぐそこ。北に遠く日本海・東郷湖が、東には上蒜山の雄姿が望まれる。
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ここで昼食を取った後、東に尾根沿いに雪庇を避けながら少し下り、ブナが繁る林の中を皆ヶ山へ直登。雪の足元には根曲竹が密生していて進み辛い。途中、ブナの切れ目から大山連山、特に烏ヶ山の双頭尖がりが綺麗に見えて、登りの苦労を癒してくれる。
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登り切って少し岡山側に入った所が、皆ヶ山の頂上。13:10に到着。標識が無ければ分らない程、頂上は狭い。反対側キャンプ場からの登山道には踏み跡は無い。誰も人が入ってない、静かな山。西の大山側は余り展望が利かないが、東側すぐ目の前には蒜山三山が、麓には蒜山スキー場が広がる。南側には蒜山高原・八束の里が広がり、その向うには分水嶺の山々が続いている。 |
休息もそこそこに縦走路に取って返し、一旦下ってアゼチへの登り。この下り上り、いずれも根曲竹が極端に密生している。竹は雪の重みで斜面の下に向って曲がっているので、下りでは手で掻き分ければ何無く進める。しかし上りは手で掻き分けても、竹の先っちょがもつれて股にひっかかって、なかなか前に進めない。立ち止まっては丁寧に先をほぐしながら進む、これの繰り返しなので疲労困憊、やっとアゼチ頂上に辿り着く。仲間はすいすい進んでいたのでコツを聞き、竹を分けるのに手ではなく、ピッケルを使うのだと教わる。身体の疲れが倍以上違うという。
ここから沢を目指して、樹林の中を笹薮の上に積もった雪の上を一気に駆け下る。笹は竹のように硬くないので歩き易いが、今度は踏み下ろした足が濡れた笹の葉で滑って、尻餅をつきそうになる。おっかなびっくり、周りの木の枝をつかみながらゆるゆる下る。かなり急坂を下り切ると、やがて林道に出くわす。ヤレヤレ、本当にくたびれた。ここからは普通の林道歩き。今までが嘘のよう。楽チンったらありゃしない。
道の両側には蕗のトウやコゴミが顔を出している。疲れ果てているので屈んで採る気にもならないが、仲間の1人がこまめに摘み取っている。やがてワサビ畑が見えてきて、16:40に車に到着。ワサビを今夜のおかずの添えにと思うが、畑にあるのは栽培している物だから採る訳にもいかず、沢にでも流れ出して自生している物が無いか探してみるが見つからない。葉ワサビが生き生きとした葉を出している。代りにとこれを摘んで、溜まり場の小屋に車を急ぐ。
小屋に着くや、帰路摘んできた山菜と仲間が持参した鹿肉の塊、それに垂水の自宅から持参したイカナゴの佃煮等々を肴に、酒宴が始まる。まず本日の藪コキ山行の総括。私は「今まで山に入って道を失って藪に入ったことは多々あるが、始めから道の無い谷・尾根を、それも根曲竹の悪路を長時間歩いたのは今回が初めてで、芯から疲れた。しかし、それだけ余計に楽しかった」と吐露。遅くまで山談義がはずむ。翌日午前中は小屋整備をし、午後解散。真っ直ぐ帰るのはもったいないと、出雲街道に回り、「ガイセン桜」で有名という宿場町新庄に出る。本陣・脇本陣等の宿場の町並をそのまま残した街道筋に、満開のソメイヨシノ並木が続く。日露戦争の戦勝を祝って植えたのでこの名があるという。町並に溶け込んだ桜の古木が映えて、とても美しい。新庄から街道を南下して大山道との出合い久世という町に出ると、道沿いに立派な枝垂れ桜が目に入る。薬王寺という左甚五郎の山門を持つ名刹で、鐘楼と桜の組合せがとても美しかった。
今回の山行は雪山の藪コキに桜三昧、とても味のあるものであった。これで、来年の笈ヶ岳も何とかなるというものだ。
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