梅雨前の花の山巡り      瀬川 滋

 
 

 関西の水瓶・琵琶湖の北西にマキノスキー場がある。昔は阪神間からは1泊2日というのが定番だったが、最近は鉄道・道路が整備されて日帰りで手軽に行けるということもあって、冬は結構賑わっている。また周辺には、春は海津大崎という桜の名所、夏は海水浴と森林浴、秋は紅葉と年中楽しめる所を抱えており、関西の若者向け奥座敷と言える。そのマキノスキー場から登る近江・若狭の国境の峠道のすぐ近くに、赤坂山という山がある。高さこそ低いが、花の山として関西百名山にも数えられている。そこで梅雨前、天気予報も良さそうなので、登ってみることにした。


 
6/5    赤坂山(滋賀・福井823m関西百名山

 関西の水瓶・琵琶湖の北西にマキノスキー場がある。昔は阪神間からは1泊2日というのが定番だったが、最近は鉄道・道路が整備されて日帰りで手軽に行けるということもあって、冬は結構賑わっている。また周辺には、春は海津大崎という桜の名所、夏は海水浴と森林浴、秋は紅葉と年中楽しめる所を抱えており、関西の若者向け奥座敷と言える。そのマキノスキー場から登る近江・若狭の国境の峠道のすぐ近くに、赤坂山という山がある。高さこそ低いが、花の山として関西百名山にも数えられている。そこで梅雨前、天気予報も良さそうなので、登ってみることにした。

 早朝に起き出して、電車でマキノに向かう。未だ新快速が走り出す前の時間帯なので、垂水からは約3時間かかった。時間距離では東京まで行けるほどで、湖北は神戸西部から十分遠い。駅でしばらく待って、バスでスキー場に着いたのが9時半。スキー場としてはオフシーズンだが、今はオートキャンプ場として大賑わいしており、スキー場下の草地はテントの花盛り。6月に入っていることもあって、晴れとは言っても快晴は望むべくも無く、空には大変な靄がかかっている。

 すぐ登山開始。スキー場の開けた草原をしばらく進むと、花崗岩の滑りやすい急坂の登山道に。すぐ横にほぼ並行してリフトの支柱が並んでいる。スキーかついでこの傾斜は大変で、文明の利器の有難さが分かる。テッペンカケタカとホトトギスが姦しい樹林の下を30分程登ると稜線に出、傾斜も緩やかになり、東屋まである。眼下には、水をたっぷり張った湖北の田園地帯が広がる。眼のすぐ下が、湖北随一の桜の名所の海津大崎。琵琶湖の湖岸線までは見えているが、湖面は霞んではっきりしない。山は新緑の盛りで、そこだけ白い岩がにょきにょきとつっ立った「明王の禿」の断崖が聳える。

 少し下ると水量の多い沢が現れ、沢の音が暑苦しさを和らげてくれる。道は、その昔は近江と若狭を結ぶ交通の要所であったとかで、荷物を積んだ人馬が行き交ったその頃を思わせる石畳の残骸が乱雑に残っている。路傍にはイワカガミの花が結構沢山、ピンク色に頭を垂れてあちこち咲いている。さぞ、当時の旅人の目を楽しませたことであろう。私は、先々週の中蒜に続いて見ることが出来た。暫く登ると樹林がぱっと開けてなだらかな笹原に変わる。そこが国境の峠、粟柄越。一時ここから若狭への道は途絶えたらしいが、今は整備されて「美浜へ」との案内のある道が反対側に続いている。草原にぽつんと立つ岩に、旅人の安全を祈願してであろう1対のお地蔵さんが祭られているが、風雪の厳しさからか片方の顔は欠けてしまっている。往時の旅人の賑わいと今日の静寂の対比を感じる。

 尾根道を進むと、やがて赤坂山頂上。11:15。遮るものが全くない、360度の眺望。しかし、靄で山と空の境界や湖岸線がはっきりしない。すぐ向うに少し高い三国山が続いているが、その奥にあるはずの伊吹山は見えない。靄が無ければ若狭湾そして遠く白山まで見渡せるという。晴れているだけに残念。

 小休止後出発。明るい草原に花の群落を期待していたが、時期が悪いのか、小さな花があちこち咲いている程度。やがて、明王の禿に。すごい断崖になっており、すぐ前の岩が福禄寿の頭のようににょきにょき林立していて、まるで南画のよう。ザイルでも使えば、格好のロックの練習場。でも、脆い花崗岩だから危ないか? ここをやり過ごして少し下ると結構な水量の沢。周りの木々はブナだからこんな高地にもとその保水力に感心する。

 急になった登りをこなすと、876mの三国山頂上。12:15。頂上は樹林に囲まれ、視界は良くない。わずか見えている赤坂山頂上には、先程と違って鈴なりの人の影。こちらの静けさに比べて対照的。頂上で食事している人と話すと、福井の人が多い。マキノと美浜を結ぶ山越えの林道が崖崩れで通行止というが、崩れたのは近江側で、福井から峠の黒河越までは車で入れるからだろう。私は当初、マキノー赤坂山ー三国山ー黒河越ーマキノの周回コースを考えていたが、崖崩れがあるというので下山は元来た道を引き返すこととしていた。ところが、崩れた現場は車は無理でも人は通れるという。それなら同じ道より違った道の方が楽しかろうと、元の案で下ることとした。

 昼食を済ませると、黒河越に向けて出発。またまた沢が現れる。水量は豊か。正にブナの恵み。少し進むと、今度は湿原。踏み荒らされないようにちゃんと木道がしてある。湿原の新緑は若々しいが、肝心の花は無く、何とも拍子抜け。前方には、大きな谷の向こうに若狭側の山々が明るく広がる。黒河越の谷は、上りの粟柄越と違って大きく開けて緩やか。マキノから若狭へは行先によって越える道が異なるのであろうが、黒河越の方が遥かに楽そうで、粟柄越は大変だったろうと思った。

 途中、サイドから見た明王の禿の奇岩がまた格別。途中ガサガサっという音に目を凝らすと、遠くには逃げるカモシカの尻が走り、近くにはニホンザルの赤い顔がジっとこちらを伺っていた。急な道を下ると、やがて林道に。福井側から入って来た人の車が数台止まっていた。そこから、ダラダラの林道歩き。道の両側にはピンクのタニウツギが咲き誇っており、まるで花のトンネル。時にはヤマフジもあり、退屈さに変化をつけてくれている。やがて、大きな崖崩れの現場。道全体を落石が塞いでいるが、土砂の上に人一人通れる道はついており、乗り越えて通り抜ける。

 やがてロッジが現れ人の生活の匂いを感じると、大きな県道に出、白谷という温泉もある大きな集落に着く。バスの時刻を見るとかなり余裕がありそうなのでそのまま進むと、スキー場入口。すぐ近くの舗装された道の両側には、北大のポプラ並木を彷彿させる立派なメタセコイアの並木が続く。「どこかで見たことがある景色」と気付き、一昨年海津大崎に桜を見に来てカタクリの里という所に寄った時に、その途中の丁度反対側から見たものではないかと思い当たった。聞いてみると案の定、近くにカタクリの里があるという。やはり、前に通った所なのだ!。あの時は自分が車を運転していたが、最近はカーナビに頼ってしまうので地図の何処を走っているのかさっぱり分らないことがままあるが、正にその典型と言えよう。かくして、ここで結構長い並木道をゆったり散歩してしばし北欧気分に浸った後、バス、電車で長い帰途についた。



  ライフワーク 目次へ