2006年に登った「日本二百名山」(その1)     瀬川 滋

 
 

 私はこの6月に、現会社の社長を退任して顧問に就任した。7月は、新旧社長揃っての挨拶回りに追われて、なかなか時間が自由にならなかった。かねて挑戦している日本二百名山登頂も170山まで済ませていたが、地域としては北海道が圧倒的に沢山残っているので、時間が自由になったら何山かまとめて登りたいと考えていた。かくして、8月後半は家族サービスを約束していたこともあり、長かった梅雨が明けたすぐの8月3日から9日にかけて、思い切って「北海道二百名山、5山の梯子登山」を敢行することにした。

 8/4  暑寒別岳(北海道、1359m .171   

 暑寒別岳は、北海道北部の留萌の近くにあって、増毛の海からぐぐっとそびえ立っている。冬の日本海の風をまともに受けることもあって、残雪が遅くまで残る。従って、豊かな水に恵まれていて、頂上部には湿原もあり、高山植物が豊かで、花の百名山にも指定されている。  

 前日に神戸空港から千歳に飛び、例によってレンタカーの人となった。シャバの食べ物は暫く食べられないだろうと千歳で本場の札幌ラーメンを食べ、燃料・食事等の買物をした後、高速を車で飛ばした。道央道の深川ICから留萌道に入り、増毛の箸別に。そこから、林道に分け入った。道はとてもきれいに整備されていて、ずっと続く原生林の向こうには目指す暑寒別の美しく尾を引いた山裾が見え、一部には雪渓が残っている。しかし、頂上はガスに覆われていて見えない。箸別登山口に着いたのが18:40。そこにある避難小屋は、とても立派だが誰もいない。ブトがとても多く隙を狙って襲ってくるので、防護しながら取るものも取りあえず夕食。当日の天気予報は、午前中は何とか持つが、午後は強い雷雨という。しかし、外に出てみると雲の合間から星が見えている。明日の好天を期待して就寝。  

 朝早く目を覚まし、4:50出発。天気はまずまず。合目表示がしっかりしているが、4合目まではまるでハイキングのようなダラダラ登り。それだけ、この山の裾野がなだらかということが分かる。樹林の中を歩くのだが、回りの草いきれと汗の臭いに誘われるのだろう、ブトがどこまでも追っかけてくる。虫除けスプレーをかけても全く効き目が無い。段々、追い払うのがめんどうになる。するとチクリ、ズボンの上からでも刺してくる。低い笹原の向うには雪渓の裾野がなだらかに広がるが、頂上はガスに隠れて見えない。やがて登りも本格的になってくるが、5合目辺りからは虫も薮蚊に代わる。後日出会った人も口々に言っていたが、こんなに刺す虫の多い山は珍しい。7合目まで登ると、木も無くなって、代わって一面のお花畑が大地を覆っている。今年は中が長くて夏が遅かった分、本来なら見られないであろう高山植物が広がる。  

 暫くハイマツ帯を歩き、この間だけ花は途切れたが、8合目まで登るとハイマツも切れて、またまた花々々。遠くには雪渓も見える。雪渓と花の対比が絵になる。しかし、頂上はあいにくガスに隠れて見えない。やがて、自分の行く手にもガスが。9合目でも高山植物畑は続くが、ガスで近くのみしか見えず、もったいないって感じ。やがて、増毛から来る道と合流。ここからは、ゆるい尾根歩き。10分程で8:00頂上。  

 頂上には、反対側の滝川方面から南暑寒岳経由で登ってきたという人が1人いた。このコースは長く、朝3時に出発したが、途中大雨に降られて大変だったという。箸別コースを選んでツイていた。頂上には、日本海からの風が強く吹いている。風にもめげず、高山植物の花が地面にへばりついてそよいでいるのがいじらしくかわいい。その増毛の海がここから眺められるはずなのだが、ガスで全く見えなくて残念。また、頂上にも薮蚊が沢山いて大往生。遅い朝食を取っていると、増毛のもう一つのルートから登ってきた人が到着。午後から荒れそうなので早目に下山した方がいいと進めてくれるので、即下山開始。  

 9合目まで下ってくると、風も無くて穏やか。花を楽しみながら下る。裾野にずっと広がる原生林と向かいの南暑寒岳方面は良く見えているが、相変わらず頂上は見えない。ガスが開くのを期待してゆっくり下山するが、無駄。岩の上に、シマリスがチョロチョロとかわいい。

 高山植物を楽しみながら、ただひたすら下る。2人組のパーティとすれ違う。今から登り、増毛ルートに下るという。「雨雷が気掛かりなので、注意するように」と言って別れる。やがて樹林に入る。どうしたことか上りと違ってブトは出てこないで、ずっと薮蚊がついて来る。道端のフキの一種の大きな葉を両手に、団扇代わりにパタパタ扇いで凌ぐ。10:50小屋に到着。到着と同時に雨が降り出し、雷鳴も聞こえる。予想より大分早い天気の崩れ。頂上は海から何の障害も無いだけに、すれ違って登っていった人が気になった。  

 少し早いので、増毛の町に寄ってみる。増毛の駅は、高倉健主演の映画[駅 STATIONの駅としても、SL列車「すずらん号」の発着地としても有名だが、駅舎表示と一緒に「蕎麦」の暖簾が垂れている。単なる立ち食い蕎麦屋で無くて本格的。増毛で取れた蕎麦粉を使った本格的手打ちで、民間委託の駅長が打っているらしい。香りといい感触/喉ごしといい、蕎麦好きの私にとってはとても美味しかった。

 重要文化財に指定されている豪商屋敷があるというので、これも見学。新潟出身の本間家が、ニシンの商いが縁で増毛に定着。最初は呉服屋だったのが酒蔵、味噌蔵と手を広げていったとのことで、その拡張経緯が家の造りで分かる。それにしても、立派な家。現在は全く鄙びた増毛の町にどうしてこんな大きな商いが成立したのかと、ニシン景気に沸いた往時が忍ばれた。  

 増毛でゆっくりし過ぎたので、カーナビを頼りにまっすぐ東へ士別に急ぐ。道は一般道だが、全くの原野の中,時速90〜100kmで飛ばす。途中道路表示に朱鞠内の文字が。昔、厳寒期に今は廃された深川・名寄間のローカル線、深名線に乗ったことがあったが、積雪1米以上で朱鞠内湖も全面凍結する程の寒さだった。途中の駅で列車待ちをしたのだが、駅のストーブに釘付けで、駅舎から1歩も出られなかったのを思い出す。この辺りが、当時の国鉄で全国一寒いと言われていた地点、大変懐かしい。やがて、士別の町に。町の交番で明日登る天塩岳登山口への行き方を聞いたのが大間違い。お巡りさんが、登山届を警察に出したかと問われる。いつも登山口で出しているからと言っても、それとこれとは違うから是非警察署に寄って出して欲しいと言う。あまりにしつこいので士別署に寄って記入、提出。下山したらその旨電話して欲しいとの念押しもあった。聞けばこれ、士別のローカルルールでは無くて、全国ルールだという。しかし、全く初めての経験だ。  

  朝日町 経由登山口の林道に向かう。林道入口がなかなか分かり難くかったが、お巡りさんに聞いておいて良かった。林道を進むと道は舗装道が地道に代わり、それもどんどん狭くなり、くねくねしていく。途中、キタキツネが車の前を駆け抜ける。やがてすごい雷雨、それもワイパーが利かない程の豪雨で、道が川のようになる。走れど走れど着かない。いささか不安になってきた所で、やっと天塩岳登山口ヒュッテに辿り着く。今日1日で200km走っている。遠かった。ヒュッテの中には焚き火が点っており、中に入ると暖かい。これだけのヒュッテなので有料かと思って、小屋番とおぼしき人に支払いに行くと、ここは無料。その人も東京から来た登山者で、雷雨・荒天が続いたためここで2日間停滞しているという。他にも何人かが停滞していた。小屋番は昼間に掃除と薪の準備に来るだけで、聞けばこの小屋は無料できれいで立派な小屋として全国的にも有名なんだそうだ。少し暗くなってきた中で夕食を取り、就寝。

 8/5  天塩岳(北海道、1557m .172   

 天塩岳は、北見山地の主峰・大雪山のはるか北方に山脈のように連なって見える山で、塩川の源頭にある。一般的な登山道は、登山口から旧道を沢沿いに登るコース、前天塩岳を経由するコース、それから旧道を挟んで反対側の尾根を登る新道コースがある。夜、起き出して外を見ると、満天の星。天の川まで見える。あの豪雨がまるで嘘のよう。1日停滞かと諦めていただけに期待が持てる。  

 朝起きると曇り。やはり駄目かなとも思ったが、早朝の朝靄だろうと早速支度して5:00出発。小樽から来て2日間停滞したという人と同行する。昨日の大雨の影響が最も少ないと思われる新道コースを登る。それでも所々非常に荒れていて、道が水で溢れている。急坂を尾根まで登ると展望が開け、空も晴れてきて向い側の尾根の前天塩がかっこ良く見える。急な尾根道を登り切ると丸山。ここで初めて天塩の頂上が望まれ、それに至る道すがらの避難小屋まで見える。ただ、雲が多く遠くの山は見えない。笹のだらだら道を進み、その小屋を過ぎた辺りからのハイマツ帯を急登して、7:45頂上。ガスのため期待した大雪山の展望は無い。やむなく下山開始。今度は前天塩コースを取る。  

 前手塩までの道はハイマツ帯。1ヶ所、コースから少し外れた谷に高山植物の群落が見える。昨夜一緒した地元の人の話に、前手塩に誰かがコマクサを植え、それが結構見応えがある程一面咲いた、しかしそれは自然破壊だということで全部抜かれたとTVで報じられていたという話があったが、多分この辺りなのだろう。黄色の花ばかりで、全くピンクの気配は無かった。やがて、前手塩頂上。この辺りかつて山火事があったらしく、葉が無いハイマツの枝が痛々しく広がっている。無残。

 暫く待っていると、天塩の頂上のガスが切れて、どっしりとした頂上がばっちり。麓には、幾筋もの雪渓が控えている。もう暫く待つと、頂上の両側ずっと背後高くに黒いシルエットが現れる。あれが大雪の山々だ。天塩が一層引き立つ。ここからの下りは急。登りなら大汗ってところだ。下り切ると登りで分かれた分岐に出、暫く歩くと11:15にヒュッテ着。  

 すぐ車を動かして十勝に向う。電話のかけられる所で、士別の警察に無事下山を報告したのは言うまでもない。途中、層雲峡に向う国道で、蕎麦畑の向こうに大雪・旭岳の荒々しい噴火跡が見え、更に少し進むと大雪の山々の北面全てが顔を出してくれて楽しい。昔は無かった足湯等が整備された層雲峡温泉で暫く休憩。白雲の滝を眺めた後、南下して三国峠の展望所に入る。目の前に、明日登るニペソツ岳の雄姿。単独峰なので一層引き立って見える。

十勝三股から林道に入る。途中、石狩岳に入る道とニペソツに入る道の分岐案内が無かったが、ヤマ勘で左に道を取るとばっちしニペソツ登山口に。土曜日ということもあって沢山の車が入っていた。明日の好天をを祈って就寝。


 8/6  ニペソツ岳 (北海道、2012m .173

 ニペソツ岳は東大雪の主峰、元々ニペソツという言葉はアイヌ語で「流木がいつもある」という意味で、大原始林のあるニペソツ川の、そのまた源流にある山ということだろうか。一般に北海道で最も良かった山はと聞くと、西大雪の旭・十勝間にあるトムラウシ岳という人が多い。これは百名山効果もあるんじゃあないかと、今回出会った地元の人に地元から見た評価を聞いてみたら、殆どの人がニペソツの名を挙げてくれた。深田久弥が日本百名山に選ばなかったということで地元の人が抗議したら、実際に登ったことがなかったから選ばなかったんだという回答だったといういわくつきの山でもある。  

 そんな山なのに、登るには好天でなければならないが、朝起きると曇り。晴れを信じて、長行なので早目の4:10に出発。暫くトウヒとダケカンバの静かな樹林の中を登っていくと、途中、木の間越しに御来光。やがて尾根に登るが、前方天狗方向は又々のガス。1500m地点にも未だ樹木がある。暑寒別、天塩より緯度が低いのを実感する。麓南側には十勝の山々が続き、その中に糠平湖が大きく広がっているのがはっきり。やがて天狗のコルを越え、前天狗の岩場辺りまで来ると、北側すぐ眼前には明日登る石狩の脈が延びており、最高峰の石狩岳までは下から上まですごい急勾配の上りが見える。大変骨が折れそう。暫く登り続けると、幌加温泉への分岐を経て天狗岳直下にある天狗原。ここまで来ればニペソツ頂上が見られるはずなのだが、未だガスに隠れている。一緒に登ってきた帯広の人と、今日の風の具合なら必ずガスは晴れるはずだからゆっくりしようということになり、暫く休憩。  

 重い腰を上げて出発し暫く進むと、すぐ横に大きな尖った岩がニョキっと現れた。天狗の角に当たる部分だが、ガスとの対比が幻想的。その内に、前方にニペソツ本峰が姿を現し始める。北海道の山は丸まった比較的おとなしい形の山が多いのに、この山はとてもピラミダル。まるで、槍・穂を見上げているよう。

 やがて、ずっと向こうに西大雪の山脈が見え始め、その真中に大きくトムラウシ岳がドンと大きく座っている。以前登った時にまるで神が手を加えた感がする岩と高山植物を織り込んだ公園のように美しかった頂上部が、昨日のことのように思い出された。登った時にはその山の形は分からなかったが、ここから見ると、牛が寝そべっているような姿なのが良く分かる。

 空は一挙に晴れてきて青がまぶしい位。道は今までの穏やかな尾根道と違って岩場が多くなり、岩の黒が太陽に輝いてきれい。そして、高山植物。岩の間にいろんな花が咲き乱れていて、太陽の光が反射して引き立っている。それでいて、人が極めて少ないので北アや南アと違って、清楚さがなお増している。急峻な岩場を登り切ると頂上。9:00。同行した彼は、いつもより1時間程余分にかかったと言っていた。1時間早く着いていたらガスの中、ゆっくり登った甲斐があったというもの。頂上でもゆっくり休憩。

 東南に糠平湖と十勝平野、西には南から十勝岳、美瑛岳、トムラウシ岳、そして旭岳と西大雪連山が脈々と続く。さすが、北海道の屋根。そしてすぐ北には、トムラウシと尾根で繋がった石狩連峰。正に360度の展望。そして、切り立った頂上部には高山植物の花々が。中に、今まで見たことも無い青い花が咲いている。聞けば、北海道の3ヶ所程にしか咲かないエゾルリソウだという。こんな条件の厳しい所でよくぞって感じ。  

 大休止後、下山開始。天狗原から天狗の頂上に登り、改めてニペソツの尖った雄姿とその向こうのトムラウシのデンとした対照的な姿をボーっと眺めていると、向こうの方から「行者ニンニクがあるから食べないか」の声がかかる。聞けば地元十勝の夫婦で、「今日はここで引き返すのでゆっくり食事している。良かったらどうぞ」と。北海道の高山植物全てを観賞するのが趣味で、北海道の山は殆ど登ったという。この辺りの山の話をゆっくり聞く。行者ニンニクと白樺の樹液を入れた自家製のパンを頂いて下山。元来た道を辿って14:50登山口着。  

 一旦国道に出て幌加温泉に向う積りだったが、先程の夫婦から、石狩登山口に行くのなら、そのまだ先に岩間温泉という無人の露天風呂があるのでそちらの方が良いと強く勧められた。ただ、道は途中橋が流されているので、車はそこまで。そこから先は歩かねばならないと。その助言に従うこととして、そのまま石狩登山口に向う。登山口から2km程進むと川にぶつかる。川に渡してある木をバランス取りながら渡って、約200m歩くと硫黄の臭い。再び木橋を渡ると、そこが温泉。川原に石が囲まれた露天の浴槽が3つ。各々、湯の色と温度が違う。温度は加える水の量で異なってくるのだが、その量で色が異なるというから不思議。秘湯中の秘湯だ。

ここでゆっくり汗を流してから、登山口に戻り夕食。野菜が不足気味なので、貰った行者ニンニクが貴重。そして就寝。


 8/7  石狩岳(北海道、1967m .174   

 石狩連峰は、西大雪のトムラウシ岳から東に向って延びていて、ここから北への流れは日本海に流れ、南側への流れは太平洋に注いでいる。石狩と十勝を分ける分水嶺であって、その主峰が石狩岳である。石狩岳には、シュナイダーコースといって、最後は十勝川として太平洋に通ずる士幌川の上流で、昨日登ったニペソタ登山口から流れる沢と下流では繋がる沢の上流にある登山口から登るのが一般的である。  

 今日は月曜日。電波の加減か登山口にはラジオがうまく入らず、天気予報を聞くことが出来なかった。ずっと好天が続いてきたので、降ることも考えなくてはならない。しかも、昨夜は、私と昨日遅く石狩から下ってきたカナダ人のテントがあるのみ。本日は登山者1人ということになるのだろう。急な傾斜の上り一方を覚悟して、登山開始。5:00。暫くは、流れに沿って笹の多い沢をダラダラ歩く。やがて、沢を渡って尾根に取りつく。つづら折りの急登。やがて尾根に。普通は、尾根まで上ると多少傾斜が緩やかな所が現れたり、小さなコブを下ることもあるが、ここは上り一方。時には、両手を使わないと登れない程の傾斜だ。目の前の谷には雪渓がたっぷりあるが、その上の頂上方向はガスで何も見えない。ニペソツも、裾ははっきり見えているが、頂上は雲の中。上るにつれ、ダケカンバ帯、ハイマツ帯と林層が変わっていく。  

 登り切ると主脈に踊り出る。石狩の肩と呼ばれる平地て休息。今まで南斜面にいたので静かだったが、ここは北斜面からの風が直接吹き上がってきて、とても寒い。あわててヤッケを着る。地面に濃いピンクが点々と散在しているので、良く見るとコマクサ。強い風に耐え、小さな頭を風に任せて揺らしながらもしっかり地面にしがみついていて、たくましい。頂上は相変わらずガスの中に隠れているが、ガスの動きがとても早い。あるいはと思って見ていると、徐々にガスが開いてくる。

 これはと思ってあわてて腰を上げ、頂上への急斜面を急ぐ。低いハイマツと草原が交互する登り道はつづら折りに登っていくが、尾根の右北斜面にあたる草原帯はもう高山植物も終わり緑一色。ところが、左南斜面には花が咲き乱れている。こうも違うものか。上るにつれガスが徐々に開いてくる。  

 頂上には9:00到着。ガスはすっかり晴れた。何とラッキーなことか。人っこ1人いない。頂上にも高山植物が咲いている。

 ただ、ここからの、昨日のニペソツやこの山に隠れて見えなかった大雪北部の山々、そして峰続きのトムラウシの眺望を期待していただけに、それらが全く見えないのが残念。頂上に暫くいて、元来た道を下山。肩に着いた頃には、再び頂上はガスの中。頂上にいた時だけガスが開いていたということだ。そこから下は勾配が厳しいので、上りより下りがこわい。細心の注意を払い、三点確保を多用しながら一気に下る。中間点辺りで、今朝麓から入ってきた人だろう単独登山者に出会う。見上げても、頂上は厚い雲の中。その人は、「雨が降らないだけまし」と気合を入れて登っていった。11:40に登山口到着。  

 早速、車を動かして昨日の岩間温泉に。温泉には何人かの人が入浴している。皆、車やバイクで旅している内地の人ばかり。「こんな分かり難い温泉をどうして知ったの?」と尋ねると、「ライダー同士の情報交換で知った」、「旅の専門誌に穴場として紹介されている」との返事。ただ、橋が落ちているとまでは書いてなかったので来るのには苦労したとのことだった。温泉でゆっくりしてから林道を下り、一般道に出てからは山から良く見えていた糠平湖に出る。

そして40年前に訪ねたことのある然別湖に向う。当時は秘境中の秘境で、舗装もしていない狭い道をボンネットバスで時間をかけて訪ねたものだが、今は道も広くなり舗装もされている。隔世の感がする。その然別で、40年振りの温泉ホテルに投宿。  

 然別と言えば、然別湖の背景にある山と湖面に写るその影が唇の形になるのが有名である。しかしそれは、山が湖の東側にあるため早朝の陽が上がる前で、山がシルエットとなり、しかも波の無い穏やかな湖に山の影が写るという環境でないと出来ない。前回訪れた時にはそれは見られなかったので、是非それを見たいと思っていた。翌朝早くホテルを飛び出したら、風が若干あったので完全とはいかなかったが、ほぼ唇の形をした形を見ることが出来た。そして御来光。シルエットで真っ黒な山から茜色に昇る陽光と、湖面に写るやはり茜色の陽光が素晴らしかった。ついでにこの辺りで有名な鳴き兎を見たいものだと、露岩が現れた所で暫く待ってみたが、声はすれど、姿は見せずであきらめた。  


 
8/8  樽前山 (北海道、1023m .175   

 早朝に然別湖で御来光を楽しんだ後、富良野に向った。というのは、北海道には公私を通じて何回も来たことがあるが、富良野のラベンダー畑を見る機会が無かったので、一度見てみたいと憧れていた。少し時期は遅いが気配だけでも感じ取れるのではないかと思って富良野に入ったのだが、ラベンダー畑を訪ねると、やや遅い感じもしないではないが、一面に紫色の花が絨毯を敷き詰めたように広がっていた。それも、斜面に植えてあるので、少し遠くから眺めると山全体が紫に広がり、まるで紫の絨毯。

 土地の人によれば、この時期、本来ならもう終わっているのだが、今年は夏の到来が遅かったのでその分花が遅く、ラベンダーも未だ盛んに咲いているということだった。何とラッキーなことか。来た甲斐があったというものだ。十分楽しんだ後、千歳経由で、志笏湖畔から樽前岳登山口ヒュッテに入った。  

 早速支度して登山開始。13:05。暫く上ると樹林を離れ、溶岩状のガレキの道になり視界が広がる。道際には高山植物が咲いているが、眼前には茶色のガレキが続く。暫くして登り切ると、所々ガスを吹き上げている黒い巨大なドームがパっと現れる。外輪山に辿り着いたということで、内輪の噴火山が見えたということだ。この山は未だ活動中で噴煙を上げており、地熱も高く毒ガスも出ているということだ。火口原を下っていく道も見えるが、そこには立入禁止との表示。

 少し登ると、外輪で最も高い東山に14:10到着。この山の標高は1023m。本当は内輪ドームに1041mのピークがあるのだが、立入禁止ということで、ここが樽前山の山頂ということになっている。薄い靄がかかっている。眼下には一面の原野が広がり、南側の靄の向こうには国の失敗プロジェクトとして有名な苫小牧の工業団地プラントがぼんやりと見える。  

 外輪を元来た道を引き返し、ヒュッテから登ってきた所を過ぎなおも進むと、ケルン状に積まれた石と鳥居のある樽前神社奥宮。そこからなお西へ進むと、西山へ。ドームの頂上部の噴煙状況が、東山より良く分る。ゴーっという音も時に激しくなる。今まで立入禁止を侵したことはあるが、さすがこの山ではとてもおっかなくて出来ない。西山から火口原に下る。勿論、ドームからある一定の距離内には入らない。途中、ペイントの印がドームに方向に延びている。多分調査用の道でドームにも登れるのだろうが、とてもガイド無しには無理って感じ。西にそびえる風不死岳に向う道を暫く行った所で、尾根と分れてヒュッテ方向に下る。ダラダラした溶岩石の下り。すぐ下に志笏湖が広がり、その奥に恵庭岳が靄って見える。良く観察すると、ここは大きな志笏湖カルデラの中に恵庭・風不死・樽前で構成されるカルデラがあり、更にその中に樽前のカルデラがある三重カルデラであるのが良く分る。丁度今は、ニ番目のカルデラの内輪を歩いていることになる。近くに自衛隊の演習所があるのか、時に号音が轟く。丁度樽前山を一周する格好で、17:10ヒュッテに。  

 時間が遅いのでもう車は1台もなかったが、暫くすると大阪ナンバーの車が到着。一緒に夕食を作って、談笑しながら食べる。聞けば、大阪から1人で北海道の山を回っていて、日本300名山に挑戦、既に279山登頂しており、明日樽前と駒ヶ岳に登って281山にして、大阪に帰るという。今まで300名山挑戦中の人に何人か会ったことがあるが、こんなに登っている人は初めて。いやあ、上には上がいるもんだ。そんな話をして就寝。翌日は、山に登る彼を見送った後、東の原野から昇る御来光を楽しんだ。そして、志笏湖畔に出て朝食を取り、その足で札幌に出て久々の友人と会い、懐旧談に花を咲かせた後で神戸に帰った。行き帰りを除いて5日間連続の登山、それも移動が都合1100kmというなかなかハードな梯子山行だったが、久々に充実感に満ちた数日を楽しむことが出来た。いやあ、山はいいもんだ。特に北海道の山は。素朴で、俗化して無くて、花がきれいで・・・。


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