山スキー用プラスティックブーツのテスト登山   瀬川 滋

 
 

 雪山を快適に歩くのに、昔は輪カンジキを使った。靴の下に木の枝をOの字に折り曲げたものを履くのだが、雪の深い傾斜のきつい所でも容易に歩ける。近年は軽金属製のものが一般で、ワカンと呼んでいる。これに対して最近は、急傾斜では難があるものの、歩き易さが抜群ということで、太短かいスキー状のプラスティック板の裏に滑り止めの金属の爪が付いたスノーシューが広く使われている。このスノーシューは、ワカンより楽に歩けるという面では優れものであるが、スキーと形は似ていても下りで滑ることは出来ない。従って、苦労して登って稼いだ折角の位置のエネルギーをうまく活用しない手は無いとなると、スキーしかない。

 
2/4    毛無山(鳥取・岡山、1218m

 私はこれまで、ゲレンデスキーはかなりやってきた。しかし、ゲレンデ用のスキーでは履いたまま山を登ることが出来ない。それが可能なのは、クロスカントリー(クロカン)スキー、テレマークスキー、そして山用スキーである。今シーズンは是非どれかに挑戦しようと思っていたが、はてさてどれにしたものか、各々一長一短あってかなり思案した。しかし、傾斜の激しい上りでも登れるのと、この歳になって新しく滑り方を倣うのも億劫ということから、昨年暮れにゲレンデスキーの延長で滑れる山スキーセット一式を揃えた。  

 一般に、ゲレンデ用のスキーは、板にビンディングがぴったり固定してある。これに対して、山スキー用のビンディングは下り時はゲレンデ用と同じく板に固定するが、上り時には爪先だけが板に蝶番状に固定し、踵は板から離れるようになっている。その板の裏に滑り止めのシールを貼って登る。靴も、ゲレンデスキー用は滑っていても足がぐらぐらしないようにバックルで足首をきっちりと固定するが、山スキー用はスキーモード以外に、登山モードに切り替えられ、歩行時にも足首が前後に動くようになっている。  

 当然ながら、折角揃えたので早く使いたいと思っていたが、今年の冬は暖冬で手近な山には雪が少なく、なかなか使うチャンスが無かった。ところが、2月3日に我々山仲間が志賀高原熊ノ湯で滑るという話が飛び込んできた。近くの横手山で山スキーの練習も出来そうと、2日に大阪で入っていた所用を済ませた後、夜行で出かける予定を立てた。ところが急に、3日午前にも用が入ってしまった。午後に出かけても着くのは夜になるので断念。諦めきれず西にいる友人に電話すると、4日に大山の南にある(美作・因幡)国境尾根の毛無山に雪山登山する計画があるという。ただかなり傾斜がきつく、樹林も深いので山スキーは無理、スノーシューでも難しくワカンが最良という。それではスキーを履かないで山スキー用の靴で雪山登山するテストをしてみようと、参加することとした。  

 この辺りの山は、何故か大山、蒜山、烏ヶ山等々全て山はセンと呼び、この山もご多分に漏れず、毛無山はケナシガセンという。一昨年二百名山で登った富士のすぐ横にある駿府・甲斐の国境の毛無山はケナシヤマと呼んだ。読み方が違うにせよ同じ名前、山名に興味を持ち、この山の名前の由来を調べてみると、奥出雲からこの辺りで盛んであった「たたら製鉄」に由来するという。その昔、「鉄穴(カンナ)流し」と言って、この辺りの砂鉄を含んだ砂を渓流に流して鉄を採取し、それを大量の材木を燃やして作った熱風で製鉄した。そのための大量伐採で山が「木無し山」になり、それが転じたものだという。そう言えば、二百名山の方も近くに信玄の隠し金鉱山があり、登山道に金の精錬所跡があったっけ。  

 3日夜遅く、東美作の友人の山荘に入り、遅くまで山談義。聞けば、今回の山行はバーチャルな山好きの集まりの行事という。メンバーは皆、携帯でブログを開設しており、山行を企画した者が参加者をネットで募集し、参加したい人が自由に応えるという、ネット時代に沿った今風のやり方。よって参加者は、最終的には集まってみないと分らないという。ハイキングならまだしも、雪山だともしもの場合にはお互いの技量を知り合ってのチームプレイが重要だから、このやり方でこれが保てるのかと、いささか心配な気もした。  

 
4日朝、もう1人の山仲間を途中で拾って登山口に向う。今年の異常な暖冬で、本来だったら雪深いはずの美作も道には全く雪が無い。まるで3月の景色で、とても厳冬の2月とは思えない。これでは、夏の渇水が大変心配。

 山が近づいてくると、さすがに道路際にも雪が現れる。しかしこの道、どうも以前通った気がする。思い返すと、昨年、雪山の帰りに新庄のガイセン桜を見た時に走った出雲街道だ。あの時は雪が無かったのでイメージは全く違うが、懐かしい。やがて、美作の国の最も西寄りにある新庄の里に到着。前の時は、日露戦争戦勝記念に植えたという桜並木が満開で見物客が満ちていたが、今は雪・雪・雪の真っ白で、人っ子1人いない。静寂そのもの。あの時の喧騒が嘘のよう。

 新庄から出雲街道を離れて真っ直ぐ山道を進み、土用ダムへの道を分けると田浪の部落。ここが登山口で、駐車場もあり車が数台止まっていて、既に何組かが出発している。ラッセルを考えると、先発隊がいるのは有り難い。ところが、我々の一行はなかなか集まらない。結局、到着から1時間待って8人のメンバーが揃う。未だ数人後から遅れて追っかけてくるというので、とりあえず集まっているメンバーで10:20出発。  

 毛無には、真っ直ぐ直登するコースと、国境尾根東側の白馬山を経由するコースとがある。林道を少し歩くとすぐ橋があり、橋の手前からは毛無山直登コースが、橋を渡った所からは白馬山コースが分れている。頂上直登の方が上りの距離が短かくて楽なので、この山は、直登コースを登って往復するか、頂上から白馬経由で下るのが一般的らしい。しかしリーダは、他人の踏み込んだ道を歩くのは面白くないと、逆の白馬山から毛無山を回るコースを選んだ。  

 白馬コースに入ると、全く踏み跡の無い白銀の世界。靴は、雪山スキー用プラスティックブーツ。ワカンは使わずツボ足で歩くが、足首が曲がる歩行モードにしてあるので歩行に不自由は無い。最初は3番目を歩くが、一歩一歩踏み出す毎にズボっズボっと雪に埋まる。雪が重いので大変。先頭のラッセルは非常に馬力がある者がやってくれており、助かる。吹き溜まりでは膝上まで埋まってしまう。雪山では靴中に雪が入らないようにスパッツを履くのが通例であるが、今回スキーセットに合わせてズボンもスノーボード用のを買った。これだと裾が絞れるようになっており、スパッツ無しでも歩け、大変具合がいい。  
 やがて、先頭はワカンを履くが、それでもギブアップし、後尾に回る。自分は2番目に、そして先頭になる。眼前にあるのは、雪の乗っかった木々の枝と真っ平に広がる雪原。靴のテストもありワカンを履かずのラッセルなので、草臥れるったらありゃしない。せめて国境尾根まではと歯を食い縛ったが、途中で交代。それまで白一色の中に雪の付いた黒い樹木が見える単調な風景だったのが、国境尾根まで登り着くとパっと開ける。登ってきた方には新庄の里が、反対の北側には、すぐ下には土用湖が、その向うには蒜山高原が広がり、そのまた奥には蒜山三山が、霞の奥にボヤっと見える。

 尾根筋は、風が強いためか雪は締まっており踏み抜くようなことは減るが、雪は重く辛い。しかし、白馬への最後の登りになると、丁度山の東側に当って吹き溜まりが大きくなる。ここで、ツボ足ではとても無理なのでワカンを履く。皮の靴と違ってプラスティックブーツは表面が滑るので、ワカンの紐が締め辛い。この辺りからブナの木が多くなり、ブナの枝に付く霧氷が、一部通称「海老の尻尾」状になっていてとてもきれい。  

 12:00、白馬山頂上。ここでやっと1060m。すぐ北に西日本の雄、大山が白くまた大きくきれいに見え、とても迫力がある。でも、例年に比べれば雪に迫力が無いと言う。暫く進むと、かたくり平。雪に覆われた尾根のコブ状の広っぱだが、雪融け頃にはカタクリの可憐な花が一面に広がるという。「ブナとカタクリの対比はなかなかいけるんじゃないか」と思った。この山、知る人ぞ知るカタクリの名所。シーズンになれば登山者で一杯になるらしい。

 ここで、後発若者4人組が追いつく。踏み跡があったのでとても楽だったという。ここを越えると、頂上まで直登して白馬回りで下山する人と出会い始める。もうすぐ頂上とはいえ、ここからは踏み跡を辿れば良く、ラッセル不要。何か得したような気分。 

 最後の急登を上り切って、14:00毛無山頂上。360度の展望。これまでに東西南北の景色は見えてはいたが、山や樹木に隠れて点の集まりでしかなかった。これが遮るものが何も無い連続したパノラマとなると、また格別だ。ただ、頂上を示す標識の下に見えている、360度の山々の名が入った平らな方位案内板が、例年だとこの時期では雪に隠れて見えないという。ここにも今年の暖冬が見られる。頂上から少し下った所にある避難小屋で大休憩。  

 ここからは、深いブナ林の中の一直線の急降下。傾斜がとても急で、樹木も多い。とても山スキーで下れる道ではない。沢山の人が登った踏み跡がしっかり付いており、道も締まっているのでワカン無しでも下れるが、ワカンを履いた方が楽。グリ()セードで滑るのが最も楽そうな下りなので、足元に神経を集中しないといけない。ブナを味わっている余裕が全く無いのが残念。小一時間で下り、林道を少し歩いて、15:50登山口駐車場到着。最後に、参加者12人が挨拶をして解散。ただバーチャルな集まりなので、挨拶は本名で無く、ハンドルネームで。今風とは言え、何か奇妙。  

 挨拶後は、山スキー用のプラスティックブーツで十分雪山登山が出来るということが確認出来たという最大の成果を持って、友人の山荘に。それにしても草臥れた。で、夕食もそこそこにバッタンキュウ。その翌日は、近くのゲレンデで山用スキーセット一式を使って滑りを楽しんだが、山用スキーだからといって特に違和感は無く、たっぷり楽しむことが出来た。


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