IT化策論議に欲しい「全体を貫くビジョン」 辻 淳二
今日、IT(情報技術)やそれを活かしたビジネスモデルが「新世紀の希望の星」として衆目を集めている。産業界では、話題の中心に位置するIT関連と低迷にあえぐ建設や鉄鋼などが明暗を分け、同じ業界の中でもIT化への対応の優劣で“勝ち組”と“負け組”が分かれるという傾向が顕著になっている。来年度の国家予算も「猫も杓子もIT」の様相を呈している。
だが、この動きの延長線上に「希望に満ちた21世紀の日本」が見えるのだろうか。新世紀は、国家財政が赤字まみれなのに加え、高齢化と少子化がジワジワと進む等、「基本的に重たい荷を背負ってのスタート」となる。当然ながら今なされているIT化論議も、企業だけでなく、そういう社会全体の活性度を最大化させるビジョンに立脚して詰められる必要があるが、その点の合意形成はできているのだろうか。
私なりに、「情報化社会の理想的イメージ」を考えてみよう。一般論から入ると、「社会の構成者にとっての“最大多数の最大幸福”を実現できること」となるだろう。上記の議論に照らすと、これは「老若・貧富を問わず“日本で暮らし、幸福感を感じている人の比率を最大化”すること」となる。ここで、8月21日号の日経ビジネス誌の編集長インタビュー記事で、河合隼雄さんが小渕内閣時にご自身が座長になってまとめた『21世紀日本の構想』の内容に関連し、「人生観を出世設計から幸福設計に改めれば、個性的になる」と話されているのがヒントになった。「出世設計」は企業/組織に重心を置き、「幸福設計」は個人を大切にする視点に立つものだ。この話で、大多数の組織人が前者を上位に置いているのと同様に、上記のIT化論議でも前者すなわち企業/組織の競争力強化という視点に重きが置かれ、国民の「最大多数の最大幸福」という意識が不足気味では?と気付かされたのだった。
次に、このビジョンをもう一段ブレークダウンすることを試みて見よう。IT化が進んだ効用を考えると、企業にとっては「経済的価値を産み出すことに繋がる情報」が、個人にとっては「生活に感動をもたらす情報」が、サッカーで鮮やかなパスが次々と繋がるように、リアルタイムにそしてライブに行き交って、多くの人が充実感/幸福感を感じている状態がその理想と言えよう。そう考えると、ここでの「最大多数の最大幸福」とは、「これらの情報の受発信力を備えて、イキイキと生活している人の比率の最大化」となる。さらに踏み込めば、「“最大多数の最大ワクワク感”を実現できる社会」となろう。
河合さんの発言は、「イキイキとした日本を創るためには、身分社会的な価値観を変える教育改革が急務」という考えと一体になっている。IT化論議に敷衍して言えば、「IT化で効率を上げ、浮かした時間を個々人の幸福設計に投じ、個人としての場でも情報受発信力を活かして輝いている“情報感度がシャープな人”」を増やす意識改革と教育が大切ということになろう。
「予算の分捕りのためのIT化プラン競争」になってしまうと、かって投資に見合う効果を得た例が少ないまま萎んだSIS(strategic Information System)ブーム等の繰り返しになってしまう。ぜひとも、「人々が幸福感を持って暮らせる21世紀社会を創る」のようなビジョンをしっかりと立てて、投資効率良く「国全体のIT化」を進めて欲しいものである。
[2000.8.30]