Y2K問題にいかに備えるか

                      倉石 英一

(その2:「対策」編)     

 

 前回は、2000年1月1日午前0時に何が起こるかということで、いくつかの領域(ジャンル)に分けて、「当たるも八卦、当たらずも八卦」の予想をしてみました。今回は「対策」編ということで、これにどう備えるかという本題に入りたいのですが、その前に、いくつかまた新しい情報や資料が手に入りましたので、若干、前回のものを補足したいと思います。

 

 最近、新たにいくつかの発表がされたのですが、これらはおおむね対策が進んきているという基調のものが多いようで、どうも日米とも何となく安堵感が漂い始めているようです。これには、8月21日のGPSシステムの日付がクリアされてカーナビが異常を起こすという問題や、9月9日のいわゆる「9999問題」など類似の問題がさして大きなトラブルもなく平穏に過ぎたことも影響していると思います。

 特に、日本のライフライン系(電力、ガス、水道、通信等)の発表は「対策完了」、または「メドがついた」「安心」といった内容が多く、これが世間にこういった安心感を与えていると思います。しかし、その裏付けというか根拠になる材料が殆ど開示されておらず、「本当に安心していいの?」という懸念が払拭されるわけではありません。

 このあたりについてどう見るかですが、書店等で売られている、いわゆる「Y2K」ものの書籍を読むと、こういった発表はほとんど信用に値しないという評価ばかりです(例えば「Y2K最新最終情報」(三五館)など)。これらの本を読むと、事態は予想以上に深刻で、おそらく全世界的なパニックが間違いなく起こるのではないかと不安になってきます。

 ただ、前回も述べた、「パニックに弱い」日本人の体質を考えると、本当に自信があるのであれば、余計な情報は出していただかない方がかえってよいと考えます。ともかく安心だからおまかせ下さいというだけで十分です。ただし、くどいようですが、万全の対策を取っていただいたうえでの、「安心」発表にしていただきたいものです。

 それと、前回は詳細に触れなかった「病院、医療」の分野の2000年問題というのが、かなり深刻かもしれません。言うまでもなく、最新の医療機器はコンピュータで固められており、その対策が末端まで行き渡っていない可能性がかなりあるようです。困るのは、もしも異常が発生したときに命にかかわる問題になることです。しかし、ある病院関係者の「"リスク管理"は常時やっているから、特に2000年だからといって騒ぐことはない」という頼もしい発言もあることに期待するほかないでしょう。若い女性達の間では、入院・出産が今年の年末、年始にぶつからないようタイミング調整をしているというような話もあります(なかば冗談のような気もしますが、案外本気かもしれません)。このような話が出てくるほどには、「病院、医療」システムに対する不安感が一般的になっていると考えてよいでしょう。

 

 さて、いよいよ「対策」に入りましょう。  

 まず、前提として、これはあくまで個人のレベルの対策で、自治体や企業のレベルを云々するものではない、あくまで「生活者の視点」で考えようということです。それで、起こることがどの程度の確率で発生するかが読めない、あくまで「確率」の問題だということです。それを踏まえて考える必要があると思います。

 それと、どこまでやっても完璧を期する対策などは考えられないので、ある方針のもとに対策を立てることがよいと思います。その方針とは「もし、Y2Kが杞憂に終わっても、そのあとに再利用できる範囲でことに備える」ということでしょう。処分するのに何年もかかるような「買いだめ」はこの際無駄です。もちろん、ことが起こったとして回復するのにどのくらいの期間がかかるかという判断が大事とも言えますが、例えば、回復に半年も一年もかかるような事態は、まさに本格的なパニックであって、個人のレベルではどうしようもない、次元が全く違う問題になります。

 それでは、前回掲げた以下の予想されるいくつかの現象に、今回触れた「病院・医療」に関するものを追加して、それぞれについて対策を考えてみましょう。

(1) 電力、ガス、通信などのライフラインがマヒする。

(2) 金融システムが機能せず、預金がおろせないとか為替の決済ができなくなる。

(3) スーパーやコンビニのPOSシステムがダウンして買い物ができなくなる。

(4) 空港の管制システムが使えず航空機が着陸不能になりついに墜落する。

(5) 企業内のシステムが使用不能になり、企業活動に支障をきたす。

(6) マイコン組み込み型の電子、電気機器等(車なども)が使用不能になる。

(7) 病院・医療システムに異常が起こり、医療機器などが使えなくなる。

 

(1)のライフラインですが、電気、水道、ガスが止まる前提で準備が必要でしょう。かつての日本はよく停電したものですが、それに備えてローソクを買い置きしたものです。似たようなことが今回起きると想定してローソク、マッチの準備、そのほかには電池、懐中電灯、ガスがとまれば調理が出来なくなるので、LPガスボンベが必須です。もちろん、ガスコンロも当然ですね。水対策にはペットボトルの大瓶を1〜2週間の食事や調理に必要な量が要るでしょう。それと、大晦日に入った風呂の湯は捨てないことです。これは、トイレの水洗に使います。ポリタンクに水を溜め込むということも考えられますが、水質がどの程度の期間維持できるかが疑問で、あまり勧められないかもしれません(アメリカでは既に大型の水タンクが店から姿を消したという情報もあります)。

 電話が止まる対策として、携帯電話というのは無意味と思います。携帯電話も多分同時にアウトになるからです。電話についての対策、つまりそれに代わる通信手段の確保は個人ではちょっと無理ではないかと思います。

(2)の金融システムのダウン(具体的にはATMで預金がおろせなくなること)への対策は、事前に一定期間の生活費程度の現金をおろしておくことでしょう。政府、日銀はこれに備えて年末までに40兆円の現金を用意するようです。量的にはこれで十分かと思いますが、問題は窓口が混雑するなどの混乱で実質的に預金がおろせなくなる心配です。そのためには、早めに手を打つことが大事です。 

(3)スーパー、コンビニのPOSが動かない対策は「買いだめ」以外にないでしょう。お米と保存のきく食料品を備蓄することですが、この場合に電気、ガスが来ないことを想定しておく必要があります。つまり、冷蔵庫が使えないので冷凍食品は意味がありません。時節柄、お餅もよいでしょう。水がなくても食べられるので、一時しのぎには格好です。レトルト食品はLPガスで温められますが、水を使う(例えば、湯につけて温める)ものが多いので同時に水の確保も重要です(これは上で述べたとおり)。できれば水なしで食べられるものもあった方がよいし、日持ちや調理の条件などいろいろ兼ね合いをよく考えて食品を選ぶ必要があります。特に、お米は応用が効くのでこれだけは確保しておきましょう。どうやって炊くかって?皆さん、若いころキャンプに行って飯盒炊さんしたでしょう。その頃のことを思い出して下さい。青春回帰などとのんきなことを言っている場合ではないかもしれませんが、この際、家族にお父さんを見直してもらうチャンスになるかもしれません。

(4)空港の管制システムについては、その後新聞等でかなり情報が出てきましたが、発展途上国やロシアでさえも何だか状況は不透明です。対策はとにかく今年の年末年始は海外旅行をしないことです。日本についても飛行機だけでなく、鉄道旅行もひかえるにこしたことはないと思います。

(5)は企業内システムですが、これは一市井人としては関係ないでしょう。

(6)の埋め込みチップの問題は、上記の「Y2K本」などによれば、諸悪の根源と見なされているようです。しかし庶民レベルでは対策が取れるのは車くらいしかなく、いわば、自分で手が打てないという意味で「運を天にまかせる」というのに最も近い領域と言えます。車に関しては、まず、年内にガソリンを満タンにしておくこと(これはむしろガソリンスタンドのPOS対策)、1月1日0時の時点には運転しないことでしょう。車に搭載されているマイコンチップの異常で車が走らなくなるか、最悪の場合暴走する可能性があるからです。

(7)病院・医療システムに関しても、自分ではどうしようもない分野です。年末には病気にかからないように注意することと、持病があれば事前に薬を多い目に手当てしておくこと位しか手がないと思います。

 

 以上、それぞれのトラブルについてどんな対策が可能か考えてみましたが、電力が長期にわたって止まるといった大型のトラブルになった場合は、個人レベルで取れる対策などは所詮、数週間程度問題が先送りされるといった意味しかなく、何も対策を取らないことと「五十歩百歩」といったところでしょう。それでも、何か手を打つかどうかは、その人の価値観に基づく判断の問題といえます。私は、先にも言ったように、もし何事もなくても将来無駄にならない範囲での(たとえば、現金などはいずれは使える)対策をとること、さらに言えば、これらの対策は「地震対策」と重なる部分も多いので、この際、近く起こるかもしれない地震対策も兼ねてやろうかという割り切りで取り組めばよいと考えています。

 では、いつごろこれらの対策を実行するかですが、あまり年末ぎりぎりになって始めても、それこそパニック状態になった一般大衆の混雑に巻き込まれて、買いたいものも買えない、あるいは物がすでに姿を消していることもありえます。できれば、11月中には一通りの対策は完了しているよう早めの対応をお勧めします。

 それよりも、どこか田舎に住む知人か親戚に(それも農家であることが条件になる)今のうちに「渡り」をつけておいて、いざという時はそれに全面的に頼るという方が早いかもしれません。しかし、これとても移動手段が確保されるかどうかが問題です。それ以前にY2Kの影響度は都会も田舎も余り差がないとも考えられ、パニックになれば他人の面倒を見てくれるかどうか大いに疑問です。わずかに、食料の確保の面でメリットがあるかという程度のことでしょう。

 本来、今年の大晦日は西暦2000年というミレニアムの年明けを盛大に祝うためのカウントダウンが待たれるのですが、Y2Kのおかげで、まさに息詰まるようなカウントダウンで新年を迎えることになりそうです。午前0時の時点で電気が消えるかどうかが最大のポイントです。これがクリアされれば80%は問題が解決できていると見てよいでしょう。しかし、まだ安心はできません。ガスは?水道は?電話は?車は?チェックすべきことは沢山あります。深夜営業のコンビニに走って何か買ってみることも必要です。ついでに道路の信号は正常か?電車は走っているかも確かめましょう。これらが、全部正常ならば安心して床に入り、初夢を見てもよいでしょう。

 今現在でも、関係者がY2K解決のため、懸命の努力を行っていると思います。その結果を信じて、深刻な事態にならないことを祈るばかりです。しかし、全てが解決しないことも明白で、全く何も起こらないことはありえないというのが常識です。100%安全でないことが分かっていて何も手を打たないというのは相当勇気がいることです。しかし、多くの日本人が無関心であることが気になります。その反動でその時点でとんでもないパニックを起こすという懸念です。したがって、個人としての最低限の対策が必要というのが私の結論です。皆さんどうお考えでしょうか。ご意見をこのホームページ上でいただければ幸いです。

 2回にわたり、長文におつきあいいただきありがとうございました。

 

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