日露戦争に学ぼう「ゆで蛙的組織の再興」

                           辻 淳二

面白かった「今年のプロ野球」   

還暦後少し時間にゆとりができたこともあって、プロ野球を面白がって見ている。パ・リーグは、ダイエーが失速せずに走り切って「経営大ピンチの親会社を救う孝行息子」となった。ひいきチームを持たない人が「ダイエーが経営破綻したら、日本経済への影響が大き過ぎる」から応援した(私もその一人だが)というのは前代未聞なのではないか。セリーグも、巨人が一旦は大きく離されたがミラクルの可能性を感じさせる追い込みをして、ハラハラドキドキのドラマを最後まで引っ張った。

   面白さに貢献した「長嶋監督」

この「面白さ」の中心にあるのが、良くも悪くも長嶋監督だった。これが、今の世の中をどう映しているのだろうか。「良くも」というのは、勝っても負けても衆目の集まる中でこの人がテレビや新聞で見せる「何とも憎めない表情やコメント」が、不況の中で多くの日本人に明るさや希望をもたらしたことである。決してファンではない私でも、負けた時に「大魔神が出てきたら、うちは99%ダメだから」「佐々岡のあの内容じゃあ、ついていけない。完敗だ」等と素直に語り、それでスカッと負けを割り切ろうとしているのをメディアで見ると、すっと心が和らいでしまう。

よく似ている「長嶋監督」と「乃木将軍」

一方で「悪くも」の方となると、「勝って当り前の戦力とお金を使いながら、なぜ3年も優勝できないのか」という問題の当事者であることである。大金を投じて集めた幾多の実績ある選手、新入団時には明日を担うと希望の星だった選手たちの多くが力を出し切れずにもがいているのを見ると、なぜか連想は「日露戦争で旅順攻略を指揮した乃木将軍」のイメージと重なってしまう(彼らが他球団の同格の選手よりはいい給料を貰い、周りからもチヤホヤされている点は兵士たちとは違うが)。乃木将軍は世間では東郷元帥と並ぶ英雄と崇められているが、実際には兵力の小出し投入を繰り返し、功績とされる「旅順陥落」までに死傷者6万人と言われる犠牲を累々と重ねていたことを司馬遼太郎の「坂の上の雲」等で読んで記憶している。同書は、このていたらくに堪忍袋の緒を切った満州軍・児玉源太郎総参謀長が自ら乗り込んで「203高地占領」に重点集中する攻撃計画を指揮(乃木第3軍司令官の指揮権を一時借用)し、「明治37年12月1日深夜から作戦に着手、休戦中の3日・4日に重砲隊を移動、5日の朝9時から突撃開始し10時20分には完全占領」という劇的な戦果を挙げて乃木を救ったのを活写している。こうした「勝つまでの、あまりの月日と戦力の浪費」に私は将軍と監督をつい重ねて見てしまうのだが、長嶋巨人に関しては、今の日本の社会や組織にある「(ぬるま湯に慣れ過ぎて、勇断のいる改革を後送りする)ゆで蛙的な体質」が監督を悲喜両面のヒーローにしてしまっている面があるように思う。

「ゆで蛙」的体質は大蔵省も同じ

それを象徴しているのが、今年巨人の幹部が早めに「来年の長嶋続投」を発表し、その直後に勢いに乗りかけていたチームが4連敗したことである。これはまさに、「続投なら大改革はない。来年も自分はここでやれる」と特に実績を挙げている中心選手が思ってしまう「ゆで蛙」体質の露呈ではなかっただろうか。そして、この失敗の根元は「もう一期、改革を先送りする」と決めた球団トップの「ゆで蛙」的な思考にあると見ることができる。そしてこれは、金融機関の「護送船団行政」からの決別を「ゆで蛙」的、つまり姑息な臨床的な対応でトコトン後送りして大失政をした官界のエリート・大蔵省の姿と重なる。

いま日本の組織に欲しい「児玉源太郎型の確信犯的行動者」

憎めない長嶋さんの話から日本の組織改革へと話は飛躍したが、ここで言いたいことは、「乃木軍は、児玉源太郎という国民の死傷者を最小限に留めることに強い使命感を持ち、一方で友人である乃木に傷を付けたくない思いも熱い幹部が身体を張ったことで局面打開できた」という歴史的な成功体験に、巨人軍も大蔵省も学んだ方がいいということである。巨人においては、来年も指揮者を代えないとしたら、「児玉源太郎に擬せられる(監督の顔を立てながら優勝できる戦い方を示せる)大物は誰か」を見抜いて、経営幹部が腹をくくって現場に送り込むこと。これができないで、長嶋カンピュータのハラハラドキドキ野球に委ねるなら、「常勝球団への再興」はあり得ないだろう。大蔵省の場合は、児玉源太郎役には大蔵大臣が最も適役であろう。最近の発言を新聞で見る所では、現大臣の宮沢さんには「金融行政はのほほんとやってきて、破綻した」(朝日新聞・9月15日朝刊)とのはっきりした認識が窺える。今後とも、歴代の大蔵大臣には「同省の保守/本流意識を一旦はぶち壊し、地べたから這い上がって再起する」ようにナビゲートできる人を任命するのが極めて大切と思う昨今である。 [99.9.25]

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