組織の実権リーダーに欲しい「柔らか発想」

               辻 淳二

いま、社員一人一人が会社の顔になる組織文化への改革に取り組む顧客企業の「組織開発(OD=Organization Development)」案件に携わっている。ある事業部門の数百人規模の情報技術サービス部門の部長級10人くらいを尖兵として、同部門の活動を「顧客満足重視でかつ、収益志向の一層の徹底」に向けるための議論を始めた所である。この案件の推進リーダーが「彼ら=各部の実権リーダー層が自ら発想/行動を変える」ことから入ろうとの方向付けを行い、先ず、そのための動機づけやアプローチ法を学ぶ研修を実施した第一段階は極めて順調に進行した。そして次の、「自分の部のODの旗をどう振っていくか」という実戦の段階になって、各メンバーの動きが見えなくなってしまった。各々が自部門の中枢にあり、目の前に片付けなければいけない仕事が山積している上に、「自分たちの事業部門は利益を出していて、上記の全社改革の主対象ではない筈」との危機感の低さがその背景にあるようだ。現下の日本企業低迷の一因となった「儲かっている事業にダメな部門が凭れて存続して来た」ナアナア体質は、リストラに向かう時に「儲けている部門の取り組みを甘くする」ことに繋がりやすいが、この会社もその例外ではないようだ。そして、この意識のカベにどう揺さぶりをかけるかが、私の役割となっている。

その命題が念頭にあった4月初め、休日の夕食後にどこかの民放TVが「野村監督による阪神タイガースの改革」を特集していた。その番組の少し前に阪神が巨人に大勝し、野村阪神の初勝利が記録された日だった。そこで、キャンプからマスコミの注目を集めた「新庄外野手の投手兼業」を新監督による「これまでの発想からの脱却を全選手に働き掛けるメッセージ」として浮き彫りにしていた。要するに、「野村氏は、タイガースの組織改革のために監督になった」という意味付けである。これを敷衍すれば、同氏の監督就任は企業社会が本格的なODを必須としている時流と見事に重なっているということになる。そう気づいた途端、同氏はID野球とか投手再生工場とかのキーワードに見られるように、どの監督よりもチームに対し徹底した働きかけをしてきた人、ODに取り組む企業組織のリーダー管理職の人たちに格好のお手本に思えてきた。

そこで図らずも、今年のプロ野球の見方が一つできた。「野村氏がうまく仕掛けてタイガースが変わり結果を出せば、ODの具体化に手を拱いている企業管理職の励みになる」はず、その視点で関係者の動きを見て行こうということである。早速、世間では既にそういう見方が地に着いているのかと興味を持って、翌日の日経新聞のスポーツ欄を開いてみた。企業経営のいまの関心事に絡めて見るなら日経が最もそういう見方をする新聞と思ったからである。しかし、前日の初勝利を解説する記事は一行も見当たらなかった(都下の我が家に配られた版には、試合が長引いて印刷に間に合わなかったのかも知れないが)。もし担当記者が上記のような眼で見ていたら、とりあえず「初勝利を歓迎する記事」を書くだろうとの推測はアッサリと外された。

その後この原稿を書いた日まで、阪神は緒戦に巨人に勝ち越した以外は負けが込み、企業社会にエールを送る流れにはなっていない。しかし、野村氏はこれからもいろんな切り口から部下である選手に働きかけをしていくだろう。もし、「自部門のODを」となった途端に手を拱いてしまう管理者がおられたら、同氏の「執拗なまでの実践行動」からヒントを得るという柔らか発想が役立つのではないだろうか。 [99年4月19日]

オピニオン 目次へ