全員が勝者? 全員が敗者

                           倉石 英一

 

 最近、新しい経営手法の紹介が、その多くはアメリカで開発、発展したものですが、多数なされています。例えば、「ERPによる経営革命」、「SCMによる経営革命」などです。私はERP研究推進フォーラムというERPの啓蒙・普及活動を行っている任意団体の仕事を手伝っており、この手の書籍、文献、資料を目にする機会が多いのですが、最近これらを読んでいて一つ疑問に感じていることがあります。

 こういう書籍等は当然アピール性というかインパクトがないと売れないでしょうから、そんな書き方になるのでしょうが、多くは「この手法を一日でも早く導入しないと、競争に負けてしまいますよ」、「世の中が変わっているのだから、早く頭を切り替えないと21世紀は生き残れませんよ」という調子で書かれています。

 しかし、考えて見て下さい。ある業界でどこかの会社がこれらの手法を取り入れて生産性をあげ、トップ企業になったとします。しかし、その他の企業が一斉にこれに取り組んだとしたらこれによる競争優位はなくなってしまいます。そして、また何か別の新しい経営手法が現れてきて、同じように「やらなければ落ちこぼれて生き残れませんよ」という宣伝の繰り返しが起きるのではないでしょうか。

 企業の実態は、ERPやSCMで簡単に改革できるようなものではなく、それによって業界内の位置付けが突然変わるようなことも起こり得ない。企業間の競争はもっと複雑な要素の絡みのなかで行われ、結果として現在の姿があるのではないでしょうか。もちろん、ERPもSCMも企業にとって有効は手段であることは間違いありません(ERPフォーラムの一員であるから言うのではありません)。しかし、これに取り組めば必ず勝者、やらなければ全員が敗者という言い方はなにかおかしいと思います。上にあげた例は極端な場合の「へりくつ」みたいですが、現実にERPもSCMもやらない会社が皆倒産しているわけでもありません。

 では、どうすればよいのか、明確な答えを私が持っているわけではありません。ただ、欧米から輸入された各種の当時は新しかった経営手法が必ずしも日本で定着していない理由の一つが日本という環境や企業の実態を無視した取り組み方にあったと思われます。

 「何でもいいからやって見なさい、やらなければ大変です」ということでなく、いろいろなケースに合った進め方、日本的な良さを包含した取り組み方を丁寧に紹介するようなやり方があるように思います。もっといえば、「トップになる。競争に打ち勝つ」ではなく、もっと別のロジックです。なんというか「勝者も敗者もない。全員がハッピーになる、Win-Winシステム」につながるような新しい発想です。

 言いかえれば、弱者にもそれなりに生きていける道を示すような経営論なり経営手法の提案です。理想論かもしれないし、そんなものはありえないかもしれませんが、そういう仕組みでないと日本では定着しないように思うのです。アシスト社のビル・トッテン社長は「日本の企業は、アメリカのやり方を真似する必要はなく、日本のよいところを生かすことで世界に伍していくべきだ」という主旨のことを本や講演で再々述べています。これに通じる考え方かもしれません。

 日本の産業社会が大変な時期になってきて、企業が変わらなければならないことはいうまでもありません。しかし、そのために必要なことがやたらと危機感をあおるような宣伝に乗ることとはとても思えません。なんだか途中から哲学風な話になってきてしまいましたが、皆さんどのようにお考えでしょうか。ご意見をお聞かせいただきたいと思います。                                                [1999.5.23]

 

(注)ERP:Enterprise Resource Planning

SCM:Supply Chain Management

 

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