ストーブ芯事件 石井 真司
私が自分のホームページを立ち上げて、5年が経とうとしている。当初は旧いイタリア車のメンテナンス記録をメインに掲載していたのだが、開設後一年ほど経った頃、ある旧車雑誌に、私が高校生の頃から愛用している古い石油ストーブの自慢話を投稿したのがきっかけで、世の中には古い石油ストーブを愛用している人が沢山潜んでいることがわかり、自分のホームページにオールドストーブのページを新設した。そのストーブとは、みなさんもよくご存知の「アラジン]である。
ストーブを掲載してまもなくの頃、イギリスのアラジンに対抗する、アメリカの「パーフェクション」というストーブを自慢するチャレンジャ−が現れた。実は私も、パーフェクションという名前だけは知っており、密かに欲しいという願望は持っていたのだが、その時点ではまだ実物を見たこともなかった。しかし欲しい・・・
そんなある日、パーフェクションストーブとの出会いは突然訪れた。98年11月、ふと立ち寄った四谷の老舗JAZZ喫茶「いーぐる」で、既に使われなくなったパーフェクションが2台ホコリをかぶって店の片隅に放置されているのを発見したのである。それまで一度も目にしたことがないパーフェクションだが、勘とでも言うのだろうか執念とでも言うのだろうか、真っ黒に煤けた円筒形の物体を、私は瞬時にパーフェクションだと見破ったのだ。
このチャンスを逃す手は無いと思い、店員に尋ねてみたが、生憎オーナが不在だったため、その物体を譲って貰いたい旨を店員に告げ、名刺を置いていーぐるを後にした。すると、翌日後藤と名乗るいーぐるのオーナから電話が入り、もう使っていないものだから譲っても良いという話になり、週末引き取りに行った。実はその後藤さんは、JAZZ喫茶界では超有名な方で、ご存知の方も多いのではないだろうか。
引き取って来たストーブは欠品損傷もなく、分解清掃だけでとてもきれいに蘇った。胴体部分が、ぐるりと一周耐熱ガラスで出来ていて、火を灯すとランプのような光を放つ、なんともロマンチックなストーブなのだが、肝心の芯がそろそろ寿命を迎えていた。
わずかに残った芯に火を灯しながら、このストーブもこの芯の寿命とともにオサラバかと思っていると、私のホームページを見た親切な方から、神戸に芯を売っている店があるらしいというメールを貰い、書かれていた電話番号に電話をしてみた。
果たして芯はあった。
私はとりえず今ある在庫全部送ってくれと伝え待つこと数日、届いたのは4個だったが、今後も入荷すると聞き、これで未来永劫安心と思い、さっそくその店の情報をホームページに掲載した。これでその店も商売繁盛、いい恩返しができたと内心満足していたら、あにはからんや、そのお店から「当店の情報をインターネットに流しているそうですが止めて下さい」と苦情が寄せられたのだ。
どうして?と思ったが、聞いてみると、いくらも儲からないストーブの芯のために電話がジャンジャン掛かって来て本業の妨げになるということなのだ。
これは余計なお節介をしてしまったものだ、と慌ててホームページから記載を削除すると、今度はこの芯の画像を見た方から入手方法を教えて欲しいと、こっちにメールがジャンジャン届くようになってしまった。これには私も驚いた。世の中そんなにパーフェクションユーザがいて、しかもみんな芯で困っているということなのか・・・
私は、勇気を出して、見積もり要求と判読してもらえそうな英文を書いて送信した。一週間位経って、単価と送料、支払い方法が返信されて来た。私は嬉しくなって、一生懸命解読(実はTOEIC900点の人に読んでもらったのだが)した。すると、支払い方法に問題があることがわかった。カード決済が出来ないのだ。小切手またはキャッシュのみ。
3週間位待って芯が届いた。当たり前だが実物が届くとやはり感激してしまう。早速ホームページ上で芯の販売を開始した。と同時に、あっと言う間に売り切れ、自分のストック分までなくなってしまったため、止む無くもう一度輸入することにした。
二度目は商売と思われたのだろうか?成田で税金は取られるし、円が値下がりしたため赤字に転落しそうになった。が、既にバックオーダを抱えていたし、今さら「値上げします!」というのも男らしくないと思い、お値段据え置きで、二回目の輸入分は赤字ぎりぎりで、日本各地で芯を待っているファンの方々に送った。
今回も悲痛な叫びに応えて、自分の分まで放出するはめになってしまったが、世の中不器用な人がいるものだ。二個欲しいという依頼に応えて二個送ったところ、うまく交換出来ず二個共壊してしまったという人がいた。さすがに可愛そうになり、壊した芯とリザーバ(燃料タンク)ごとそっくり送ってもらい、新しい芯を付けて送り返してあげた。これは全て無償。こんなことが続くと芯がいくらあっても足りないので、ホームページに詳細な交換手順を掲載して防御した。
さっそくその芯を買い求め、使い古しのオリジナル芯を分解して合わせてみた。なるほどぴったりである。要するに円筒形のストーブ芯で、直径と全長が合えば何でも流用可能なのは道理である。近所のホームセンタに行って、その他、規格の合う芯を探すと、他にもあった。このあっけなさに、今までの苦労が何だったのかと、おかしくなった。さっそくこの情報もホームページに写真入りで掲載した。
今では、この流用芯活用法を「代用芯研究室」としてホームページに掲載しているため、芯が欲しいという問い合わせは激減したが、いまだに12月から3月までのシーズン中は、平均して週に3通は芯に関する問い合わせのメールが送られて来る。試しにYAHOOオークションのストーブカテゴリを見て頂くとわかる通り、アラジンやパーフェクションという古いストーブが沢山出品されていて、結構なお値段で取引されているのだ。徐々に趣味として定着しつつあるということらしい。中には、商品説明に私のホームページのコンテンツを無断で転載している人もいて、発見次第、警告文を「このオークションへの質問」の欄に書き込んでいる。しかし、警告と言ってもあくまで丁重に、優しい言葉で書くのがコツである。
たとえば、「素人のホームページから、コンテンツが流用されるというのは誠に光栄なことですが、もし、心当たりがございましたら、部分的な転載ではなく、できればURLリンクをお願いします」と書けば、大抵納得してもらえる。現実に著作権を守るというのは大変なことだ。