「音楽の聴ける迷店」  第2回       石井  真司

 今月は20世紀最後の月を記念して二軒まとめてご紹介します!と言っても、実は単に店が隣り合わせになっているだけのことなんですが。

  一軒目はJAZZ喫茶としては老舗の部類に入るMEG(メグ)です。この店は吉祥寺駅の北側、飲み屋や風俗店が集まる一角にあり、夜はちょっと「アレぇ!」と思うような場所にありますが、れっきとした正統派のJAZZ喫茶です。

  店の名前もさることながら経営者の寺島氏は無類のオーディオ狂として、オーディオやJAZZの本を沢山執筆されていらっしゃいますので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。

  しかし、いくら有名とは云えお店に入ったことがある人はそんなに多くないと思います。店内は、さすがオーディオ狂が作った店だけあって、座席は全てオーディオシステムと対峙するような配置になっていて、スピーカからの大音量が店全体の空気を占領しています。

  さすが老舗のJAZZ喫茶、おしゃべり禁止というよりはしゃべっても聞こえないというのが本当のところです。そのせいもあってか、椅子はほとんど一人掛けのソファーで、決して上等な材質とは言えませんが、深く腰掛けてもコーヒーや灰皿に手が届くよう袖机が付いている心配りが泣かせます。

  さらに、こういう店は決まって愛煙家の常連が多いのですが、天井に2カ所強力な換気扇が付いているお陰で、煙がこもらずタバコが苦手の方にも安心です。

  思う存分大きな音でJAZZにどっぷり浸かりたいという人にはうってつけのお店と言えるでしょう。コーヒー¥600、お替わり¥200也。

  もう一軒は、MEGと壁を隔てた隣にあるクラシック音楽専門のバロックというお店です。こちらは隣とはうってかわって静かに室内楽等を聴くお店で、入り口のドアに、まるで魔除けのお札みたいに「おしゃべりできません」と書かれた貼り紙があり、まずここでお客さんは気分を引き締めて入るかUターンをするかを決めます。

  是非ここは魔除けに負けずに入って下さい。ダスキンの空気清浄機がフル回転している店内は新鮮な空気とは裏腹に、調度品は古臭く「なんだこの店内は!」と思うかも知れませんが、その薄暗いフロアの奥には、ヴァイタボックスの191コーナーホーンというイギリスの名門スピーカが鎮座しているのです(写真:下左)。これは凄い!今時こんなスピーカが鳴っているお店はどこにもないでしょう。まるでアンティーク家具のような造りのスピーカを見るためだけに一杯¥800のコーヒーを飲みに行く価値があります。(画像が暗くて良く見えませんが、奥の角に見える家具のようなものがヴァイタボックスで、手前のスピーカではありません)

  壁に目をやると一方の壁がガラス張りになっており、オーディオ狂のために楽屋が見える仕組みになっています(写真:上右)。ちなみにガラードのフォノモータにピックアップはオルトフォンのSPU-G、アームはSMEです。アンプは手作りのようでレコードを掛け替える度にあちらこちらのスイッチを操作してシステムを使い分けているようです。ここの経営者は相当のマニアに違いありません。

  座席は当然全てスピーカを向いており、席に着くとどこからともなくスーっとウエイトレス嬢がやって来て、無言で深々を頭を下げます。コーヒーを注文し待つこと10分、ウエッジウッドのカップに注がれたコーヒーを持ってウエイトレス嬢が戻って来ます。またここで無言で一礼の儀があり、音も立てずにカップを置き、一人用の小さなミルクピッチャを置いてくれます。その際、ピッチャの取っ手が必ず右を向くようにくるりと回してくれるのですが、その一つひとつの動作は、まるでからくり人形のようです(可笑しくても笑いは堪えて下さい)。これも徹底した無言主義であり、リクエストもレシートに記入して渡すルールになっています。あくまでおしゃべり禁止です。

  リクエストが無いときはウエイトレスがガラス張りの楽屋からお客の顔ぶれを見て、その都度何をかけるか決めているようです。ウエイトレスが自分の顔を見て、どんな音楽を掛けるか運だめしをしたい人にお薦めの迷店です。

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