「ショートエッセイ」シリーズ・その6

  学生との「企業訪問」の楽しみ       辻 淳二

 6月には毎年、大学で受け持っている講義の一環で、有志の学生を同道して企業訪問をしている。そこで、何回も行っているのだから私自身には新しく学ぶことはないかというと、決してそんなことはない。「百聞は一見に如かず」とは良く言ったもの、必ず新鮮な発見がある。

 今年は、先ず訪ねたコンビニエンス店でチラッと見せて貰った店舗用のサーバーに、ドリンク類用のゴンドラで花王の新製品「ヘルシア緑茶」が売上高トップになっていた。体脂肪を分解するカテキン含有量が高い健康指向と発売直後の目新しさが受けているのだろう、数量ではトップの伊藤園の「おーいお茶」等の競合品より
5割くらい高い単価が貢献して、トップを占めていたのだった。花王が「健康エコナ」に続いて出した健康指向の高価格食品の第2弾、これが消費者にどれ程支持されるのかに関心を持ってはいたが、思わぬ形でその順調な売れ行きを知ることになった。その後、コンビニに入る度にドリンク類のゴンドラをチエックしているが、どこでも目線の高さの位置に販促用の表示付きで配置されていて、「お奨め商品」の扱いを受けていることがよく分かった。コンビニの今の悩みは、「客単価が前年度マイナス傾向を脱け出せない」こと。それでも、「おーいお茶」を「ヘルシア・・」に代えて貰うだけで逆転する位の差。「従って、コンビニ側でも力の入れ甲斐がある商品」ということも、プラスに働いているのだろう。

 次に訪ねたデパートでは、全フロアを20分くらいでざーっと見て回ったところで、「今まで、デパートでは見なかったのでは?」と思う、確かな変化に気が付いた。その一は、デパートと言えば女性の世界、男性は買い物する女性の付き人といった程度の重みに見えた中で、何と地下の食品売り場で、自分が食べるのであろう食材をカゴを持って買い回る年配の男性の姿が目に付き、そこそこの比率を占めていたこと。その二は、若い婦人向けのカジュアル用品売り場に「10分間で寸法などを直す」サービスコーナーが設けられていたこと。言わば、デパートにおける「ユニクロ的なフロア作り」というイメージなのだろう。その三は、地下フロアにあった「冷蔵ロッカー」で、なるほど、食材を買いに来た女性客についでに他のフロアで買い物をして貰うにはまともな着眼と感得させられた。

 このように、定例的な身動きに引っ掛けて「世の中の、ちょっとした変化を自分の目でキャッチする定点観測」をするのは、思いの他楽しく、収穫もあるものだ。

 片や、肝心の学生達の反応はどうか?と言うと、こういう行動の楽しさや大切さを伝えるのに手間隙が掛かっているのが現実である。先ず、土曜・日曜をさいて見学に行こうという学生を集めるところで、結構苦労している。また、結果として手を挙げた学生は前向き志向の連中の筈だが、それでも半数くらいは、訪問先で「どうぞ、何でも質問を」と指名してくれないと受け身で参加するだけで済ませてしまう。

 そういう現状の中で、今年は、2ケ所の訪問先で、先方の問い掛けに答えたり、質問を促されたりといった形で、学生一人一人が矢面に立つシーンが現実化した。そうなると、まともな反応ができた人と、そうでなかった人との間で明暗クッキリ。私も、さすがに、お礼の挨拶の中で、「企業の第一線の空気を肌で感じることができて、ここに来た学生諸君は、今日をもって、指名されなければ黙って過ごそうという姿勢を卒業してくれるだろう」と、やや辛口の言い方で締め括らざるを得なかった。

 そして、次週の講義の時間帯での、参加学生による行かなかった学生達ヘの「報告プレゼン」の場面。男子で一人、報告用のメモをA4版一枚にまとめて来て、メリハリよくレポートした学生が居た。女子で一人、「見学で学んだことは先に報告した人とダブルから」と言って、経営の現場に行って目を開かされたことを力強く話した学生が居た。明らかに、「訪問前の自分から変わり始めた」ことを感じさせる姿勢がそこにあった。どちらも、見学の場では目立たないように振舞っていた方だった。

 それを聞いて、私は、「こうやって変わって行く学生がいるのだから、企業訪問も根気よくやって行こう」と得心し、かつ励まされたのだった。[03.6.30


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