「ショートエッセイ」シリーズその8


 
泰山鳴動の後、小休止に落ち着く     辻 淳二


 泰山鳴動す
  

 この3月に65歳になったことから、節目の検診の案内が市役所から届いた。そこで、これからホームドクター的に頼る積もりの近所の医院に出かけて所定の検診を受けた。そこで、他の諸機能は概ね正常だが、肝機能において黄信号、具体的には「C型肝炎ウイルスの抗体反応がプラスで、それと関連する指標のGPT/GOT等の値が正常値を少し外れている」との結果が出た。これは、毎年受けている勤務先での健診で前年秋に出ていたのと同じ黄信号だった。この時に既に「専門病院で精密検査を受けなさい」と言われていたのに「体感的に、悪いとは思えない」と後送りしていたことでもあったので、今回は同医院の医師の勧めに従い、地域の専門病院の検査を受けることにした。

 4月下旬に専門病院に出かけ、そこであらためて検査を受け、担当の専門医から、近所の医師から回示されたデータを基に「慢性肝炎のある段階にある」との診断を受けた。出かける前に肝臓病の本を読んで、「C型肝炎の場合、慢性肝炎の初期、中期、後期、肝硬変、肝臓ガンと各々約10年の期間を掛けながら、前半は自覚症状がなく進んで行く」との知識は得ていた。そして私の場合、C型肝炎ウイルスへの感染は、通院治療で注射を数多く受けたり街頭献血したりした時期、つまり、この肝炎の存在が分かったとされている1989年より前である可能性が高い。専門医の診断に直面して、私は、すでに約20年くらいウイルスを抱えているとすれば「慢性肝炎の中期の後半辺り」と見当をつけ、ここから肝臓ガンへと進む進行を食い止めるべく、まともに肝炎と向かい合うことにした。

 5月下旬に再び専門病院に行くと、担当の専門医は、4月に同病院で受けた検査データでGPT値が基準値の約2倍だったこと、その原因と見られるC型肝炎ウイルスを退治する治療は今の医学ではインターフェロンの投与しかなく、検査データで私のウイルスはインターフェロンが効くタイプと分かったことを告げて、インターフェロンの投与による治療を勧めた。

 ここぞ、思案のしどころ

 担当医はさらに、インターフェロンは、私のように利くタイプでも利かない確率が2〜3割あって、投与開始時に少なくとも2週間の入院を要し、半年から
1年続く投与期間中には身体がだるい等の副作用があり、テニスのような運動は控えた方がいいと話された。ここに至って私は、じわじわと身体が病んで行く危険を抱えているとは言え、現在体感的には不調を感じていない自分が、これらのデメリットを容認して、今この治療を受けるべきなのか・・と真剣に考えざるを得なくなった。そこで、医師には「夏休みの時期に、半月余り休みが取れるようにできるか、調整して見る」と話す一方で、この事情でセカンドオピニオン的な見解を求めるとすれば・・と考えを巡らせた。そして思い当ったのは、当研究会ホームページの投稿者の一人でもあるKさんの気功術が利かないかということだった。Kさんが気功教室を始めた初期には、会員となって通った時期もあったが、教室に行けばいつもよりは気が通って「その後、数時間は気持ちがいい状況が続く」との実感はあったが、明らかに不調な個所があって気功をやったらそれが直るというタイプではないため長続きせず、近年は長期中断の「休眠会員」になってしまっていた。今度は、「肝炎の進行度が血液検査データで分かる」状況での活用になるから、中国医学を背景とする気功の効用を自分の身体で体感できるチャンスかも知れない・・。そう考えて、6月初の土曜日にKさんの教室を訪ねた。

 当方の事情を話すと、Kさんは「その件だと、月に一回、漢方薬療法の指導に来て下さっている中医学の大家・K先生の方が専門家だ。幸い、今日来ておられるので、診て貰ったらどうか」と奨めてくれた。「何たる、偶然の幸運」と思い、順番を待って診断を受けると、K先生は「肝炎や肝硬変を自分の漢方薬で直した例は少なくない」と話され、私の脈を取る等の基本的な診断をした後で、「漢方薬で治療効果が挙げられる。半年ぐらいで、早ければ3ケ月くらいで効果が出てくる筈」と診立てられた。さらに、「身体が活性化するから、運動はどんどんした方が良い」とのこと。ここで、私の心は決まった。進むとしてもじわじわなのだから、「先ず数ケ月から半年こちらの治療法を試して見て、ダメだったら西洋医学に戻ることで何ら問題はないだろう」と。

 落ち着きを取り戻す流れに

 早速その場で、K先生に診て貰うこととし、私のための漢方薬の処方をお願いした。合せて、Kさんにも気功教室での指導を受けることにした。これで、当面の対処方針が決まった。帰ってから、家人にもこの方針を話し、「体調的に気になる所がある訳ではないし、当事者である私が“死ぬ時の病名が肝臓ガンになる確率がゼロではない”ことを自覚して進行させないように努めていけばいい」ことなのだからと、平時の心でいてくれるように求めた。

 数日経つと、1ケ月分の漢方薬が送られて来た。その後毎日、一日分を煎じて、朝夕2回飲むのを日課としている。気功教室にも、週一回はきちんと通うようにした。そして6月下旬、予約日に地域の病院に出かけ、担当医に「夏は、二週間の休みが取れないと分かったので、インターフェロンによる治療は来年春以降にしたい。当面の治療は、個人的に近い筋にいい先生が見つかったので、漢方と気功で進行を遅くするように努力する。当病院での、進行度をチエックする検査や診断は定期的にお願いしたい」と話し、了解して貰った。この日に受けた肝臓周りのCT検査と超音波検査で画像的に見ての明らかな異常が見られなかったことで、同医師から見ても「急速な進行はない」との判断はあったようだった。ついでに、前回5月下旬の通院時の血液検査のデータで、4月検査時には基準値をかなりオーバーしていたGPT値が正常範囲に戻っていたとの説明があった。これはいい方向の話なのだが、まだ漢方薬や気功を始める前のデータなのでなぜ良くなったかは不明、しかも、「この数値の動き方で中医学による治療の効果を見よう」という筋書きにも揺らぎが生じてしまった(別の効果判定法を見つけなくてはいけない)。

 6月は梅雨どきとあって、テニスをする回数も少なくなっていたが、月末最後の日曜日がうまく晴れて、久しぶりに長時間テニスを楽しむことができた。暑い時期に入って来たし、どのくらい疲れるかを試すのに格好の機会だった。たまたま参加者が少なく、短い休み時間ですぐにコートに入る状況だったのに自然体で応じ、いつもの倍くらいのゲーム数をこなしたが、身体反応は極めて良好だった。こちらの体感からも、上記の治療方針についての判断は適切だったとの裏付けが得られたと受け止めている。

 かくして、4月初から約3ケ月に渡り我が肝臓を巡ってザワついていた私の周辺も「小休止」、つまり「“進行を止めるも許すも、当事者である私の努力”の推移を見守るという帰結で、落ち着いた状況に戻った」のだった。[04.7.1


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