「ショートエッセイ」シリーズ(その15)
「歩み定まらぬ年」、希望はどこに 辻 淳二
2005年も早や3ケ月が過ぎたが、ここまでは「ライブドア奇襲“放送メディア獲り”」騒ぎが最大の話題だったとの印象である。フトこんなことだけに耳目を奪われていていいの?との思いに駆られ、ちょっと頭を冷やして、ここまでの推移から「今年の先行き」を予見して見た。
先ず気候を振り返ると、正月以降は総体に寒かった。そのせいか、我が家近くの庭園・百草園の梅が、今年は、1月末の時点でもまだ賑わいの中心は蝋梅の黄色で、紅白の梅が華やかな彩りを見せたのは3月にかなり近づいてからだった。この地に住んで25年以上になる私にも、このパターンだった記憶はない。
次に産業界はと見ると、05年3月期の企業業績は良好、配当を増配する会社が急増と報じられ、好況に推移しているとのイメージを持っていたが、先行指標と言われる証券市場・日経平均指数で見ると、3月末で年初比+1.6%とさほどの上昇にはなっていない。
また、小泉政権が一枚看板にしている改革の動きも、焦点の郵政民営化論議が首相と与党内との綱引きの域に留まり、国を覆う停滞/不毛感の象徴になってしまっている。
一方で、今年もまた「波乱」の様相がいくつか現実化した。その最大のものは、今年3月20日(日)午前に起こった「福岡佐賀沖地震」だろう。これまで、地震の危険は少ないとノーマークだった地域で起こった訳で、「いつ、どこで何が起こるか分からない世の中」との感をあらためて強烈に植え付けられた。次に、冒頭に挙げた「ライブドア奇襲」であるが、これも、国際化する企業社会において、“持合い型で情緒的”な旧来の経営が“資本と法の論理”に拠るドライな経営に土台を揺るがされるリアルな事例と見られ、類似例が今後もあり得ることを突きつけられたとの感が強い。
これらをファクト情報として05年をイメージすると、一番明るく見える産業界でさえ上記の程度ということから、「“小さな前進”の年」ということになりそうだ。それは、前進はするが、日本国内の諸組織に根ざす旧弊が時代の変化に追随できずに露わになってそれをキッカケに改革に向かうというパターンを脱け出せず、従って“年間収支”としての 前進は小さいだろうという意味合いである。
さりながら、“空白の十年”と言われた時期に比べれば、国全体に明るさは戻っている。「前進」に向かう力を“合せ技”的に統合して大きな力にできる状況にはあると考えられる。それでは、今年、その力になり得ると期待できるものは何だろうか。
一つは、始まったばかりの「愛・地球博」(愛知万博)だ。21世紀を生きるために人類が解決しなければならない「地球環境問題」を主テーマにしている、愛知県の経済界がこれの成功のために力を結集している、ロボットやICタグなど、これからの社会の発展に大きく寄与すると目されるコア技術を実用レベルに引き上げる舞台となる、等を包括して、一つの流れがここから生まれてくることを期待したい。
一つは、個々の企業レベル・個人レベルで、世界的なレベルで「お手本」的な存在となるものが輩出してくることだ。企業レベルではトヨタやキャノン、個人レベルでは野球で言えばイチローや松井が既にそういう存在で、私たちに「日本だってやれるんだ」とのお手本となっている。このレベルに行くのはさすがに限られるが、少数でいいから年々増えていって欲しい。例えば企業レベルでは、合併が成功して、その産業の国際レベルでのこれからのリーダーとして存在感を高める企業が出てくる可能性は期待できるのではないか。既に、鉄鋼業界では、川崎製鉄とNKKが合併したJFEが新日鉄と拮抗する力を付けて、かっての最盛期を大きく上回る体質・体力の業界に変貌しつつあるし、山之内と藤沢、三共と第一、と大手が相次いで合併へと動く製薬業界でも同じような変貌への流れがあり得るのではないか。
もう一つは、プロ野球界だ。昨年、選手会がストを決行し、これがファンの支持を得て、旧風に揺さぶりを掛けられるオーナーを擁する新球団の誕生へと繋がった。実力がすべての世界だから、勝てるチームに育てるのが先決だが、アメリカでは新興の球団が急速に強くなって地区優勝チームになった例は少なくないようだ。新興の球団があらゆる知恵を駆使して力を付けていく中で、球界全体のレベルが上がり、社会の活力を高める流れの一つになることを期待したい。[05.3.31]