「名刺なき暮らし」一ヶ月目     辻 淳二
 


    
    退社日の歓送の宴に心満つ我とのことを皆が語りて


    受付で「どちらの辻さん?」と問われしに「名刺なき身の」と返事す我は


    思い立ち挨拶に出向けば区切り良し心通う若きにエール送りて


    難事あれば頼みとしたる友は語れりロマンありしと若き日のことを


    奥多摩の山並み晴れて雲沸ける我を祝うか川沿いの朝


    朝の道に赤い帽子の隊列あり新入学の孫を想えり
 
  


    日中に家に我れが居るこの日ごろ妻は惑うらし「曜日分からず」と


 
  「満開よ」と妻呼ぶ声に我も出で裏に移せし山桜仰ぐ


    週央の夕べに妻と待ち合せ映画を観たりいつ以来なるか


 
  今日観しは「男たちの大和」大局の見えざる国の危うさ問いたり


    ビジネス着が占拠して居りし我が箪笥半ば入れ替えりカジュアル着を買いて


  
      

 
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