「東京の街を歩く」           戸田 忠良

 

 週末、時間がある時はひたすら歩くことにしている。はじめて1年半程になる。大抵は1時間から1時間半程、歩数にして一万歩前後。距離にして5キロから7キロ程度になろうか。最初は、1時間も歩くと足が痛くなったが、続けているうちにむしろ快適な気分になることが分かった。これは、「ランナーズ・ハイ」のような「ウォーカーズ・ハイ」であると勝手に解釈している。それでかどうかは知らないが、週末のウォーキングはいつのまにかマイ・ブームになってしまった。

 例えば、土曜日、よく残り仕事があるので、事務所に出勤がてらに1時間程歩く。典型的なコースは、新宿から事務所のある渋谷へである。明治通りを山手線沿いに歩くと40分。少し物足りない。代々木から千駄ヶ谷方面に向かい、神宮外苑を通って、表参道へ出るコースにすると1時間コースとなる。山手線の外側では、明治神宮の杜の中を通り原宿を経由するコースも捨てがたい。いつの季節でも明治神宮の杜の中は何とも心地がよい。もちろん、代々木駅側よりも代々木八幡側の入り口から入る方が歩く距離は長くなる。更にもっと歩きたい時は、甲州街道から山手通りを通り、富ヶ谷で井の頭通り沿いにNHKの裏側から渋谷に至るルートもある。このコースだと1時間10分ほどである。

 そのような土曜出勤の帰りには、山手線の池袋や目白などから東武東上線沿線の板橋の我が家まで歩くことが多い。一番遠い所としては、中央線の高円寺から自宅まで歩いた。1時間40分ほどかかり、これは確かに堪える。池袋のような同じ駅から歩くにしても、毎回どこか必ず違うコースを取るようにしている。これは同じことを何度もすることが嫌いな僕の性格が反映しているに違いない。そんなことを繰り返しているうちにある事に気付いた。それは、「駅前ではない商店街」の存在である。

 東京の城西地区は、だいたい15分から20分程度歩くと次の駅にぶつかる。同じ線の次の駅までの距離が1キロ前後の距離になっているからである。ところで、路線の伸びる東西方向と直角に南北に歩くとどうなるだろうか。例えば、中央線の中野から中野通りを北上すると、次の西武新宿線の新井薬師前まで早足で20分である。そして、中野通りを更に北上すると西武池袋線まで20分強、但し、最寄の駅はそこから更に数分歩くことになる。そこからまた20分弱歩くと地下鉄有楽町線千川駅にぶつかる。そして、そこから次の東武東上線までは25分ほどかかる。

 この南北方向の路線間の中程のところに、駅前ではないのに商店街があるのである。ある線から十数分歩いてくると、住宅地域の中に商店が見え始め、いつのまにか商店街が出現するのである。「あれ、こんな所に駅あったのか?」と最初は思っていたのであるが、だんだんそれは、「駅前ではない商店街」であることが分かったのである。

 僕は上京してから既に30数年になるが、このように東京の城西地区を細かく歩き回る事は無かった。しかし、毎週末歩き回ることで、これまで知らなかった地域の知識が増えるに連れて、「僕は今まで東京の点と点を移動していただけだった」と気付かされた。その上辺だけの東京理解の最たるものは、「商店街は駅前にある」という常識である。駅を常に起点とする生活をしていたので、「商店街を賑やかな方へ歩いていけば、どこかの駅に出られる」と無意識に思っていたのだ。しかし、そうではない「駅に続いていない商店街」もあるのだということを毎週末、東京を歩いているうちに気付いたのである。

 このような駅前ではない商店街は、こじんまりしていて、何よりもゆったりとした日常の時間が流れる、何だか懐かしい空間なのである。昭和二、三十年代に立てられたような旧い家並みが続く住宅街からこじんまりした商店街へと続く道などに出くわすと、どこかで見た事があるような既視感に囚われ、しばし、少年の頃の思い出が脳裏に甦るのである。この「懐かしさ」の理由は何だろうかと、何度も考えたが、思い至ったのは我が故郷の街と何となく似ているということであった。僕の故郷は、北関東の地方都市である。JRや私鉄の駅はあるが、僕の育った地域は、いずれの駅からも遠く、近くの商店街は「駅前ではない商店街」であったのだ。

      上之根橋商店会

 その周辺、数百メートルを商圏とする閉じた地域の生活と直結した商店街、その地域に住んでいる人以外は、その存在さえ気付かない、ひっそりと存在する商店街。それが駅前ではない商店街なのである。それが、一つではなく、いくつも存在することに気付いて、僕も初めて、少しだけ東京人になったような気がした。二本の足で一本一本の道を歩き、ゆったりとした時間の経過の中で東京の街を見ることにより、初めて気付いたこのことがとても大切なことに感じられた。

 ちなみに、僕が毎日利用している東武東上線と地下鉄有楽町線との間にある「駅前ではない商店街」として、板橋区幸町にある「幸町商店街」、板橋区大谷口北町にある「パステル宮乃下商店街」、同じく板橋区東山町と東新町の間にあり、近くを環七通りと石神井川が通る「上之根橋商店会」(写真)などが代表的である。また、南隣の練馬区でも同じような「駅前ではない商店街」がいくつも存在する。

 ただ、ボーと歩いていただけなのに、いつの間にか、なんかとっても豊かな気分になる。それが、知っている積もりで本当は良く知らない東京の街を毎週末歩く楽しみなのかもしれない。そんなこんなで、僕の週末東京ウォーキングはまだ当分続きそうである。

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