僕はこんな方法で馬券を買ってきた Part-U〜2000年の報告    戸田 忠良

 

 2000年というミレニアムの1年間も、僕は相変わらず週末の馬券生活を続けた。年間を通した成績は回収率74%で、実質上ほぼ引き分けであった。ところで、この1年間のテーマは「ワイド馬券をどう買うか」であった。ワイド馬券は1999年の秋から発売されたが、僕の利用している電話投票では2000年3月からやっと使えるようになった。そして、この1年は、ワイド馬券戦術をどう確立するかに興味が集中し終始した。

 ワイド馬券とは、9頭以上出馬がある場合に発売される馬券で、3着までに入った2頭の組合せ(順位は問わない)が当り馬券となる。つまり、通常3組が当りである。それまで僕は、主に馬番連勝(通称『馬連』)馬券を買っていた。この馬連は1、2着(順位は問わない)の馬番の1組を当りとする馬券である。

 さて、そこで僕の問題は従来通り馬連を買った方がよいのか、ワイドを買った方がよいのかということである。このような馬券の種類の取捨選択問題は、従来の馬券では、枠番連勝(通称『枠連』)と馬連との間にも存在する。この枠連は、8つまでの枠に出馬した馬を割り振り、枠番の組合せで、1、2着(順位は問わない)を当てる馬券である。つまり、出馬数が増えれば、一つの枠に2頭や3頭の馬が入る場合がある。

 この二つの馬券の関係は極めて明確で、馬連と枠連のオッズの差は、馬連≧枠連という関係になる。つまり、複数の馬が入る分、枠連の方が出現確率は上がり、オッズは低くなるということである。もちろん、オッズが等しいケースは、枠の中にそれぞれ1頭しかいない場合である。しかし、このオッズの関係が逆になる時が時々ある。それは、多くの人々が馬連の方を買い、枠連が正当なオッズを反映しない場合である。こんな時は、同じ馬券を買うならば、枠連を買った方が得ということになる。ただ、ダービーや有馬記念のような大レースでは、多くの人が馬券を買い、双方の馬券に正しく市場原理が働くので、このような逆転現象はまず起きない。つまり、出現確率がオッズに正確に反映されるのである。

 さて、問題はワイドと馬連の関係である。しかし、残念ながら僕のパソコン中のEXCELで持つ過去の競馬情報には、1、2着のデータはあるが、3着のデータはない。そこで、毎週色々と試しながら、手探りの馬券戦術探求が始まった。

 そもそもワイドと馬連の間はどんな関係があるのだろうか。そして、現実のオッズは正当なあるべき確率を反映しているのだろうか。この問題を考える格好の事例が『ジャパンカップ』と言うレースで起きた。この2000年11月26日にあった日本最大のレースは前日の土曜日から前売りされていたが、レース直前に目に付くオッズの変動が起こった。それは、武豊騎手の乗るエアシャカール号の人気が変動したことである。レース直前にその日の馬体重が発表され、同馬は前レース比14キロ減という大きな体重変動があったことが判明したからだ。それにより、その直前まで単勝2番人気8.5倍であった同馬は、急激に人気を落とし単勝9.5倍となり、3番人気の馬と入れ替わった。結果は、その不吉なマイナス情報の通り、同馬は14着と惨敗した。

 このような競馬オッズ形成の場は、株価市場の形成モデルの性質と似ていると考えられる。株価形成理論によれば、各種の情報と株価形成の間には、3つのレベルのモデルが存在すると言われる。第一のモデルは、「Weak Formで効率的な市場」である。この「Weak Form」とは、過去の株価情報だけを使った株価形成のことである。競馬のオッズで言えば、過去の競走成績情報だけを使って、オッズが形成されるというモデルである。

 第二のモデルは「Semi-strong Formで効率的な市場」である。「Semi-strong Form」とは、過去の株価情報以外に公開されている全ての情報が株価に織り込まれているというものである。競馬のオッズに関して言えば、競馬ジャーナリズムが当日までに吐き出す情報全てである。僕の経験で言うと、前日の夕方発行される専門紙のオッズ予想よりも当日朝のスポーツ紙のオッズ予想の方が最終結果と比べた場合より正確である。それは、競馬専門紙などの予想動向を踏まえて、それらの公開情報全てを織り込んだオッズ予想になっているからである。

 さて、最後の三つ目のモデルは「Strong Formで効率的な市場」である。これは、株価形成が公開されていない内部情報などを元に形成されるというものである。そして、実際のマーケットは、内部(インサイダー)情報は反映されいない「Semi-strong Form」でほぼ成立っているので、内部情報を持つ人間は、株価の先行きに関して極めて有利な立場に立つ。従って、インサイダー取引は違法とされるのである。競馬のオッズ形成も、ほぼ「Semi-strong Formで効率的」と考えられるので、騎手や厩舎などの競馬関係者の馬券購入や予想行為が禁止されていることも、株式市場のインサイダー取引禁止と符合している。

 このようなモデルで見ると、前述の『ジャパンカップ』におけるエアシャカール号の体重変動というマイナス情報の一件は、馬の体調という内部情報が体重情報の公表後迅速にオッズに織り込まれていった状況を示していると見られる。そして、オッズ形成のモデルが「Semi-strong Formで効率的」であることの大きな傍証であると考えられる。ちなみに、海外の競馬では馬体重は発表されていない。

 このようにワイド馬券と直接関係ないオッズ形成のモデルの話をしたのは、馬連にしても、ワイドにしてもレース結果として出てきたオッズはそれなりに、過去の成績を含めた公開情報を織り込んで形成されたもの(つまり、「Semi-strong Formで効率的」)であることを確認しておきたかったからである。

 さて、そこで、ワイド馬券であるが、馬連とワイドのどちらを買うべきか、そして、どんな買い方が賢いのかである。まず、実際の結果のデータがどうなっているか見てみよう。データ分析の方法としては、次のような方法を採用する事にする。

 W(ワイド馬券のオッズ)=R(馬連のオッズ)÷α(除数)   

とし、除数αはどうな値をとるのかを見てみる。

  馬連配当         件数      平均除数α

  千円未満          7        1.987

 2千円未満〜千円以上   3        2.357

  5千円未満〜2千円以上  7     2.892

5千円以上          5        4.272

(データは2000年11月25、26日東京競馬場の馬連配当と同じ目のワイド配当で計算)

 さて、問題はこのデータをどう見るかである。常識的に考えるとワイドのオッズと同じ目の馬連の間で成立する除数は3である。その理由は、馬連は1、2着であるのに対して、ワイドは(1,2着)、(1,3着)、(2,3着)という3つの組が当りとなるからである。そして、多頭数(例えば、16頭など)のレースの場合は、1、2着になる各々の確率と3着になる確率がそれ程違わないと考えられるので、除数は3近辺になると考えられる。

 しかし、実際のデータは千円未満の馬連のワイド馬券は、除数2を下回るのである。一言で言えば、「お買い得」なのだ。先ほどの仮定の通り除数α=3が妥当とすると、千円以下の馬連の馬券はワイドで買った方が出現確率に比べて高配当ということになりそうである。一方、5千円以上のいわゆる穴馬券の場合は、除数が3を大きく越えて、4以上の値となる。つまり、馬連のオッズが出現確率を正確に反映しているとすると、ワイドでは確率の示す期待値以下の配当ということになる。

 そこで、問題は、このような除数が一定値ではなく、馬連配当に対して右肩上がりになっていること、そして、データをもっと数多く取ってみればはっきりするが、多分線形(一次関数)で近似できる比例関係になると思われることだ。

 ワイド馬券の配当の傾向がこのようであることの解釈には二つありうる。第一は、的確な出現確率を織り込んだものであると解釈することだ。つまり、馬連のオッズが千円未満の人気馬同士の組合せは、1、2着の確率に比べて3着になる確率は相当低いと言う事実を織り込んでいると解釈する。そして、5千円以上のオッズでは、逆に1、2着になる確率よりも、3着になる確率がずっと大きく、それを反映すると除数は4を越えるような値となると解釈するのである。

 二つ目の解釈は、馬連千円以下のオッズの場合は、ワイドでは大きな配当とならないために、むしろ、本来の出現確率に比べて買いが入らない。そして、馬連5千円以上では、当る確率が実際の出現確率以上に大きくなったと考え、馬連馬券に比べて広範囲に人気薄まで手と広げるので、除数が大きくなると解釈するのだ。僕には、この後者の考え方の方がすっと理解でき、納得がいくのである。そうだとすると、結論は、『人気馬券は馬連よりワイドで買え』ということになる。事実、暮れの有馬記念では、1、2番人気の決着であったが、馬連配当380円、ワイド配当230円、除数α=1.652ということで、ワイドの方がお買い得であった。

 僕は、この除数の右肩がりの傾向に早くから気付き、「堅い人気馬券はワイドで買う方がお得」と考えた。しかし、人気の高い組合せをワイドで買っても、意外と当らないのである。軸馬(本命馬とも言い、その馬を軸にして馬券を買う)は当っても、相手が外れるのである。そして、これまた意外に人気薄の馬が顔を出すのだ。また、ダート競馬の方が芝のレースに比べて高配当が出ることから、ダートでは6、7、8、9、10番人気へ軸馬から流す5通りのワイド馬券を買い、芝の場合は、4、5、6番人気へ流す3通りのワイド馬券を買うという方法を取ってみた。この二つの買い方は、的中1組の場合、ダートの5点買いの場合は、平均配当が千円程度で回収率は200%、芝の3点買いは平均600円前後でこれも回収率200%程度となる。

 また、それ以上にワイド馬券が面白いのは、このような買い方は二つの的中の可能性があるということである。もし、1番人気、6番人気、8番人気という3頭が当りの場合のように二つ的中すると回収率は倍の400%(元金の4倍)となる。この的中が3つ(但し、軸馬から流す場合は2点の的中が限度)あるというワイドの特性は、面白い馬券戦術を可能としてくれたのである。それが“ヘッジ機能付きの馬券戦術”と僕が称している方法である。この方法は、次のような状況で特に威力を発揮する。

<状況>:軸馬はかなり確実性が高いのであるが、相手となる馬があまり絞れず自信が無い場合

(ヘッジ馬券戦術)全体で5千円購入の例

 勝負馬券:軸馬+最も確率が高いと考える相手馬、予想回収率3倍(3千円投じる)

 ヘッジ馬券:軸馬+人気薄(芝で3頭、ダートで5頭)予想回収率2倍(2千円投じる)

 全体の累計賭け額=5千円

(起こり得る状況)

@ ベストシナリオ:勝負馬券的中(3千円×3倍=9千円)

  ヘッジ馬券的中(2千円×2=4千円) 合計1万3千円(+8千円)

A 2ndベスト:勝負馬券のみ的中 合計9千円(+4千円)

B 3rdベスト:ヘッジ馬券2的中 合計8千円(+3千円)

C 4thベスト:ヘッジ馬券1的中 合計4千円(−1千円)

D ワースト:的中無し 合計0(−5千円)

 

このように幅広い的中ケースを含んでいるので、かなりの場合に完全に外れるケースを防止できるのである。このようなかなり安全な方法を開拓したために、2000年後半では、大きく負け越すことが少なくなって来た。これまで、僕が大きく負けるケースは、予想の不調というよりも、精神的に忍耐力が無くなり、焦れて大きな額の賭けを行い、負けるということが多かった。そこで、このようなかなり安全に勝負できる方法を開発することで、大きく負けなくなってきたし、外れが続く事が減ったのである。現在は、このような人気馬券のワイド1点、人気薄へのワイドの数点流し、そして、勝負所でのヘッジ戦術を状況に応じて使い分けるという方法を採用している。結果は、ほぼ同じ資金量を維持し続けることに成功しているので、現在のところ、結果良好ということである。

これ以外にも、ワイド馬券は豊かな潜在力を持っているように感じられる。例えば、1頭の図抜けた有力馬がいる時に、ワイドでは配当が低くなってしまうが、その時に、2、3着を狙って買うという方法もあり得る。これなど意外にも高配当と言うケースがあるようだ。このようなどんどん面白い賭け方が考えられそうなので、当分はワイド馬券をテーマにしばらくはまた馬券生活が楽しめそうである。

追記:以上で2000年の年間報告を終える積もりであったが、2001年1月中に事態が激変してしまった。それは、2000年最後で確立したと思われた馬券戦術が脆くも破綻してしまったのである。そして、早急にこの事態に対応するために新しい戦術を確立することが求められてしまった。そのため、本稿は2001年2月号に掲載の予定で準備していたが、1ヶ月延期を余儀なくされてしまった。なお、このドタバタの顛末は、次の投稿機会に報告する予定である。

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