「我が家の建て直し」のその後 辻 淳二
一昨年から昨年にかけて、我が家の建て直しに踏み切った顛末については別稿(「我が家の建て直しプロジェクト」進行中を参照)に書いた。住宅は無事に完工し、昨年7月からそこで暮らしているので、この辺で「その後の話」を書くことにしよう。
背景
私は、住宅には殆どこだわりがなく、「雨露が凌げて、私が好きな良寛が『生涯』という漢詩で結語にしている“双脚、等閑に伸ばす”(“足を伸び伸び投げ出して、屈託なく暮らしているのがいい”の意味)的イメージで暮らせれば十分」という人間。さりながら、前の家は、夏の暑さ/冬の寒さが身に沁みる感じの劣化が年経るごとにジワジワと進み、かつ、子供達が自立して出て行った部屋などが物置化し全室の半分くらいで身をすぼめて暮らしている感じになっていた。かくして、「還暦を過ぎ、やるならもうラストチャンス」との自分自身の事情と重ね合わせて、“狭いストライクゾーンを通す”思いで踏み切った。この背景から、「夏でも冬でも、摂氏20度前後の室温で過ごせますよ」との住宅メーカーの言葉に魅入られ、保温/気密性の高い“外断熱・三重通気工法”の住宅を推進している新興のメーカーに老後の住まいへのささやかな期待を託した。これが、前稿の骨子のおさらいである。
「完工の喜び」も未だ中くらいなり
住み始めて8ケ月が経ち、上記の筋書き通りに事が運んでいたら、今頃は「住まいの主として、“双脚、等閑に伸ばせている”」筈・・。ところが、そんなに“絵に描いたようにうまくいく”なんて、なかなかないのが世の常。我が家の場合も、残念ながらそちらのケースで、everything
ok
と言えるレベルにまだ到達できていない。といっても、「丸で読みが違った」ということではなく、「微妙にもどかしく、ただし大事なところで、合格点に達していない」という程度の話なのだが。ここで、“大事なところで”とは、真夏とか真冬とかの条件の厳しい時に「期待したほどではないね」という印象に留まっていることを意味している。また、“微妙にもどかしく”は、この印象の背景に「夏でも冬でも20度前後の室温で・・」というキャッチフレーズを我が方がやや手放しに(“冷暖房をあまり使わずに”と)受け止め、内部空間の仕切りや設備性能の選択等に当たって楽観的に判断し、それを住宅メーカー側も専門家として適切にナビゲートしてくれなかったなということがあり、“分かっていたらそうしなかったのに”という悔しさを引き摺っていることを意味している。本稿は、「このような問題との関わり、ここまで8ケ月のレポート」である。
猛暑でくじかれた出鼻
先ず、住み始めてすぐの夏の初めに、昨年は猛暑が来た。そこで早速、2階3室への冷暖房機の配備で、「謳い文句通りの性能なら、東西の2室にあれば真ん中の家人の部屋にはなくても大丈夫かも」と設置を保留したのが読み違いになった。家人から「暑くて、自室で過ごせない」とのクレームが出て即“追加設置”ということにしたが、それが注文殺到で工事に来てくれる順番を待っている内に猛暑期は過ぎてしまって、設置後はほとんど役立たないというチグハグに繋がった。その後は、私自身、前の家では息子から引き継いだ部屋を“そこに編集用のパソコンがあるから、本ホームページを編集する月末になると閉じこもる”等を除いて使わないようになっていたのが、毎日のように自室の机に座るなど、家族それぞれに“新しい家を活かす暮らし方”へと歩み始めた。
秋が深くなったある日、たまたまちょっとした相談事で我が住宅メーカーの社長と面談した際に、「まもなく来る冬には、夏の轍を踏むのは避けなければ・・」との思いも脳裏にあって、二つの要望を出した。一つは、「室内の複数箇所かの温度を同時に計測/記録できるレコーダーを装備して、我が方に一時貸して欲しい」、もう一つは「御社の工法の断熱/保熱性能を活かす“四季の上手な暮らし方ガイド”のような手引書を、簡単なものでいいから作って欲しい」の2点だった。
「真冬、リビングで20度維持」の快適さ、まだ本物ではない
そのまま時が過ぎて12月に入り、時に寒い日があると、出かけていて夕方に帰って来た時に室内が寒いと感じるようになった。「まだ冬の入り口なのに・・」と先が心配になって住宅メ−カーの現場担当の人に相談すると、「陽射しのある日は、日中レ−スのカーテンも開けて下さい」と言われた。これは、大雑把な私はともかく、女性陣には不評だったのだが、なるべく実行するようにしたらそれなりの効果はあった。冬が深まるにつれて、家族の共同空間であるリビングに、外から帰って暖房を点けた時の室温の上り方が遅い、寒い日は夕方から点けっぱなしになる等の、我々の期待とは逆方向の問題が顕在化し始めた。真冬だと、寒さへの耐性が高いと自認して(「気功をやっている効用では」と自分では思っているのだが)いる私でも、室内で18度以下になると寒く感じる。そこで、「18度以下になると点け、22〜23度になると切る」というルールで暖房を入れ/切りするとどうなるかを試してみると、今年の1月の場合、暖房機(消費電力約1KWのもの)は“夕方からはほとんど入れっ放しに近い”使い方になった。
ここまできて、この家の弱点が凡そ見えてきた。“廊下のようなデッドスペースを少なく、仕切も少ない”設計とした結果、一階のリビングは台所、二階への階段、二階の東側の私の部屋、そこから上がれる小屋裏と空間的に繋がっている。「これが裏目に出ている」らしいのである。打ち合わせ段階で、我が方の「夏でも冬でも20度前後の室温で・・」への楽観的な過信と、かなりの実績を持っていると信頼したたメーカー側の「“暮らし勝手に配慮した、設計上のコンサルティング“の経験不足」が悪い方に重なって、ここに出てしまった・・。
家全体の温度/湿度状況をレコーダーで計測
そうして1月も半ばを過ぎたある日、メーカーの担当者から「前にご相談のあった温度記録機を購入したので、届けたい」との連絡が入った。「何だ。今頃になって」と言いそうになったのを呑み込んで、「同じ工法の他のお客さんとの比較情報も貰って、今度は間違いない最善の対応を」と思っている身にはタイムリーな話と、真っ先に借りることにした。届けて貰ったのをみると、私の念頭にあったのはかって実験室やコンピュータ室で見た野暮ったいアナログ式のペンレコーダーのイメージだったが、温度&湿度のセンサーと一定間隔で値を記憶するメモリを備えたディジタルでポータブルな機器になっていて、記録したデータをパソコンに繋いで蓄積したりグラフ化できるように進歩していた。
これを2セット借り、出勤前にその日の計測箇所を決めてそこに機器を置いて出かけ、夜に帰宅してデータをパソコンに取り込むという作業を半月あまり続けた。その間、比較できるデータがあった方がいいということで、家人の実家に老義父のケアで私が泊り込む時に携行し、そちら(在来工法の、築20数年の家)のデータも集めたりした(「夜間にカーペットのSWを入れっ放しにするとどうなるか」等のデータは、こちらで得た)。これで、我が家の各部屋/スペースの、この時期(たまたま、一年で一番寒い時期)の“温度/湿度”状況はかなりはっきりと捉えられ、私には(多分、住宅メーカーにとっても)貴重な判断材料が得られた。大きなポイントを記すと、1.リビングの暖かい空気が階段から上に流れ、肝心のリビングに“暖かさ”がこもらない、2.一階西側の玄関/洗面所/風呂場のある一画が予想以上に寒い、3.二階も、西側の次女の部屋が予想以上に寒い(窓からの日射が弱い)などで、大よそは身体で感じていたことではあったが。そして今は、メーカ−にも詳細なデータと分析結果を提供し、我が家に続いてレコーダーを借りた他のお宅のデータなどの情報が貰えるのを待っている所である。
当面、「投資の効用(ソフト=メリット享受)を大きくする」努力を継続
そうこうしている内に大寒を過ぎてしまったので、今回の計測の結果をこの冬季に活かすまでには行かなかった。一先ず夏も冬も体験して、「必要な時は冷暖房を使う」ことにすれば全室どこでも過ごせるので“住まい環境として一歩前進”は明らかながら、上に記した問題はまだ解決できていない。それも、既に投資はしてしまって(分母は今後、さほど追加はできない)今は効用の享受(分子)を大きくしていく段階だから、ハード的には室内設備面の補強程度で、ソフト面(暮らし方の工夫)で“合格点に達する暮らし方”に行き着かなければならない。加えて、家人は冷暖房機の風が嫌いな人、冷暖房の使用が多くなれば電力の省エネに逆行、等々の条件とも程よく折合いを付けなければならない。この家で「夏も冬も、“双脚、等閑に伸ばして”暮らす」ための現実的な条件をうまく掴まえ、屈託なく暮らせるようになるまで、まだ“左うちわ”とは行かないようだ。あらためて、もうしばらく当事者として前向きに関っていこうと思っているところである。
[2002.2.28]