「中国との競争」 黒木 靖生
現在、我が国の産業は、広範囲にわたって中国との激烈な競争を行っているわけですが、その厳しい競争の象徴として、中国の人件費は日本の「20分の1から30分の1」ということが上げられています。これは、両国の通貨の為替レート、すなわち「1元=15円」に基づいた計算です。
ところが、私も最近知ったのですが、元と円との為替レートは、1980年では1元=151円、1990年では1元=30円だったようですから、現在の水準は20年前の10分の1、10年前の2分の1であるということです。もし1980年の為替レートのままであれば、中国の人件費は、日本の「2分の1から3分の1」ということになり、今の競争力の状況とは随分変わっているものと思われます。
この人民元の為替レートは中国政府が人為的にコントロールしていますから、日本(もちろん日本以外の国もそうですが)の産業界は、不公平な競争を強いられていることになります。
人民元を人為的に安くすることは、自分の国(国民)の産出した富を他国に安く売っているわけですから、中国からしてみれば不本意なことと思われますが、貿易で外貨を稼ぐことを国是とする限りは、「必要悪」と割り切っているのでしょう。我が国も、輸出で景気を潤わせるために、「円安」を喜ぶ風潮があるように。
この為替レートの問題に加えて、通貨の購買力の問題があります。円の為替レートは、1ドル=約130円ですが、円の購買力は、1ドル=約260円と言われています。いっぽう、人民元の為替レートは、1ドル=約8元ですが、購買力で比較すると、1ドル=1.3元(約6倍)と言われています。すると、円と人民元の購買力の比較では、1.3元=約260円となりますから1元=約200円となり、今の為替レートの13倍です。そうしますと、中国の人件費は日本の1.5分の1から2.3分の1となり、購買力(=生活の豊かさ)から見れば日本と遜色ない(中国の貧富の差の激しさを考えると、上位層は日本よりかなり豊か)ということになりそうです。
この購買力で比較したレート(人為的に固定されたレートより、実情を表していると思われます)を使うと、中国のGDPは約9兆6千億元ですから、円に換算すると約1,920兆円となり、日本のGDP(約540兆円)の3.6倍となります。また、中国の国防費は1,684億元ですから、円換算では33兆6,800億円となり、日本の防衛費(4兆9,395億円)の6.8倍になります。
このように極端に歪んだ為替レートは、中国がWTOに加盟した後もずっと続くのでしょうか。
一般的な中国人にとっては、ある程度豊かな生活を保証されていれば、為替レートなどは関係ないことでしょう。むしろ、人民元が高くなり、自分の勤務している会社の競争力が弱まるとか、自分の作っている農産物が売れなくなることを望まないと思われます。一般の日本人でも、円高を望むのは海外旅行の時か海外のブランド品を購入する時くらいであり、普通の生活では、円高を熱心に望むことは少ないと思います。まして、中国は、国土は広いし自然資源は豊富ですから、日本と違って国外から自然資源や農産物を輸入する必要性は薄く、その点からも、人民元を高い方に誘導する力は弱いのでしょう。
そうすると、この弱い人民元は、世界の政治情勢が要求するまで続くと考える方がよいかも知れません。その「政治情勢」とは恐らく、米国の企業が安い人民元によって存亡の危機に立たされる時でしょうが、米国企業の多くは中国に多大の投資をしていますので、果してそのような時は来るのでしょうか?
(以上)