「泥棒だらけ」              黒木 靖生


 前月号に、私は
盗難記という短文を寄せ、その中で、作家の曽野綾子さんが泥棒だらけという小文で「日本も経済の根本が揺らげば、すぐこういう泥棒国家になるだろう」と書いていることを紹介しました。ところが、つい最近、この予言が現実のものであることを証明するような事件が発生しました。  

 その事件は、北海道西友の元町店(札幌市東区)が、昨年9月より、輸入の豚ロースと牛タンを国産と偽って販売したことから発生しました。元町店は、「店長が交代したことを契機に偽装販売が発見された」ことを公表し、その販売代金を返却すると発表しました。  
 この返金は9月27日に開始されたのですが、29日になって返却を求める若者が殺到し、中には20〜30万円の返金を求める人も居たそうです。そして夕方になっても約500人の人が返金を求めて残り、元町店では夜11時頃になって返金総額が5千万円に近くなったので返金を打ち切ったところ、返金にあぶれた人々が騒ぎ出し、2人が逮捕されました。私もこの騒ぎの様子はテレビで見ましたが、近所の主婦が「日頃見かけない人が沢山いる」と話していました。
 

 毎日新聞の報道では、返金された人は3日間で「1,548人」、返金した金額は「4,928万円」とのことですから、1人平均「31,800円」となります。元町店の豚ロースと牛タンの昨年9月からの売上総額は「1,380万円(偽装販売分は94万円)」ということですから、販売金額の「約4倍」、偽装販売金額の「50倍」が返金されたことになります。
 販売代金の4倍を返却しても未だ返却を求める人が殺到したということは、実際には偽装販売の被害者でない人が大多数であったということを示しており、これは明らかに「詐欺行為」です。元町店では、返却金額が販売金額を多少オーバーすることは覚悟していたようですが、4倍にもなり、この後どれだけ膨らむか恐ろしくなって返却を打ち切ったのが実態のようです。
 

 また、西友の狭山市駅前店でも偽装販売があったので、同じく販売代金を返却したところ、実際の販売金額の3倍の1千万円になったため、ここでも途中で返却を打ち切ったとのことです。ここでは、約250人に1千万円を返金したとのことで、1人あたり4万円と、札幌より1万円高くなっています。  

 驚くことには、元町店でも狭山市駅前店でも、販売代金を返却するにあたり、領収書に類するものを一切貰わず、ただ単に現金を渡したようです。これでは「できごころ」を助長するようなものです。これらの店は、決算を行う時に、返却した金額をどのように処理するつもりなのでしょうか。返金したと言っても、証拠(領収書)が無ければ、税務署は納得しないのではないでしょうか。  

 このような偽装販売による消費者の損害を補填する方法としては、一般には「半額セール」などの方法が取られます。元町店でも、返金に応じられなかった人々に対しては、このような方法で償うと説明していました。
 この二つの店は、どちらも「西友系」ですから、このように「現金を返却する」方法を採用するに際しては、本社の関連部門や顧問の会計士・弁護士とも相談した筈です。彼らは、どのようにアドバイスしたのでしょうか。
 

 また、今回の事件は「情報化時代(携帯電話時代)」を象徴していると思います。札幌で、29日になって返金を求める人が急に増えたということは、恐らく若者の誰か(その人は実際に偽装販売の被害者かも知れませんが)が返金を求めに行ったら何の説明や証拠を求められることもなくスッと現金を渡されたので、携帯電話か何かで友人に触れ回ったのでしょう。その情報がネズミ算式に伝わって、若者がワンサと押しかけたものと思われます。  

 若者の感覚では、「西友が先に悪いことをしたのだから、我々が悪いこと(詐欺行為)をしても当然の報いだ」ということかも知れませんが、このように沢山の人が平然と詐欺を行うということは、憂慮すべき事態と思います。曽野さんの小文に出て来る「泥棒」はギリギリの生活をしていて、生きる(最後の?)手段として「泥棒」をはたらくのですが、札幌(あるいは狭山)の若者は衣食住は全く不自由していなくて「詐欺(=泥棒)」をはたらいています。私は、どちらの泥棒行為も是認するものではありませんが、後者の方が圧倒的に「堕落」していると思います。  

 曽野さんは、泥棒だらけの中で「日本も経済の根本が揺らげば・・・」と書いていますが、私は、この乱れの原因は「経済」ではなく「倫理(道徳)」だと思います。日本人はいつから、このように「倫理(道徳)」を失ってしまったのでしょうか。

                                 (以上)

 投稿広場 目次へ