「はた迷惑な話」 黒木 靖生
ここ最近、私の住居の前を通過する車の量が増えました。その理由を考えましたところ、次のような因果関係が判明しました。
私の住まいの建っているブロックを長方形と見て、底辺と左辺の交点に私の住居が位置するとした場合、右辺と上辺に面した道路は片側1車線にも係わらず、国道14号線(東京−千葉)と国道16号線(千葉−柏・野田)を結ぶ道路として利用されているため、交通量の多い通りになっています。
このブロックの右辺と上辺の交点は十字路となっているのですが、軽微な交通事故が何回か連続して発生したため、警察が信号を取り付けました。そのため、この道路を通る車は、前方の信号が赤だったり、あるいは黄色だったりすると、すぐに脇道に入って私の住居の前を通り、元の道に戻るようにしているのです。
このような事情で、私の住居の前を通る車の量が増えたわけです。それまでは生活道路として、近所に住んでいる人の車とか、あるいは宅配便の車くらいしか通らなかったものですから、その変化のギャップは大きいものがあります。
私は、休日くらいしか家にいませんから余り気にはならないのですが、それでも大型のトラックが地響きを立てて家の前を通り過ぎたり、コンビニの配送車が急停車・急発進で私の家の角を曲がるのを見たりすると、何故わずかの時間を稼ぐためにこんな生活道路に車が侵入して来るのかと、少々腹が立ちます。
ところで、ご存知「プロジェクトX」はNHK・TVの人気番組ですが、10月に「カーナビの発明譚」を放映していました。この発明は、或る音響機器メーカーの社員が家族でドライブ中に所用で止むなく悪名高い世田谷の迷路に迷いこみ、抜け出るのに四苦八苦して、父親の権威を失墜させたのみならず、車も塀にぶつけて傷付けたことに端を発しているとのことです(この辺りは、かなり脚色されていると思いますが・・・)。
その後暫くして、その音響機器メーカーが経営面で苦境に陥り、それから脱却するための商品開発会議を開いた時、件の社員が自分の苦い経験を元に「カーナビ」の開発を提案しました。カーナビは、その時点では、トヨタとホンダが開発を試みて共に失敗していたと放送では言っていましたが、この音響機器メーカーは、悪戦苦闘はしたものの、アメリカの軍事衛星の電波(GPS)が民用に開放されたタイミングと商品開発の時期が一致した僥幸にも恵まれて、世界で初めて「カーナビ」を開発できました。
この開発の途中で、カーナビの試作機を車に積んで本人が以前迷い込んだ世田谷の迷路を走ったところ、見事に失敗しました。と言うのは、試作機の地図には細い道路は登録されていなかったため、世田谷の迷路では通用しなかった訳です。そこで、地図メーカーに頼んで細い道路も洩れなく登録してもらい、次のチャレンジでは世田谷の迷路も見事に征服できたと誇らし気に語っていました。
私は、生活道路はその近所で生活する人のものであって、外部の人が車で通る道路ではないと思います。世田谷の細い道路も、外部の人にとっては「迷路」でも、そこに住んでいる人にとっては「手の平」のようなものでしょう。そして、迷路であることが外部の人の侵入の防壁になっていたのに、カーナビはITの力によって、この防壁を崩してしまった訳です。世田谷の住人にとっては、座敷に土足で踏み込まれるような感じではないかと、この番組を見ながら、我が身と照らし合わせて思った次第です。
世の中には、混雑する道路の抜け道を紹介した本も出回っていると聞きますが、これも、その道を生活道路にしている人々にとっては「迷惑」な話でしょう。カーナビも、これと似たような役割を果しているのではないかと思います。
車を運転する人は、すべからく「王道(広い道路)」を走るように心掛けたいものです。
(以上)