『僕はこんなやり方で馬券を買ってきた』 戸田 忠良
週末のお楽しみといえば、僕の場合は断然、競馬である。ここ5年ほど、毎週末熱心にやっている。もちろん、馬券を買うようになったのは、最近ではない。今から30年ほど前に、社会人になった年に初めて馬券を買ってから、年間20回程度、ダービーや有馬記念のような大きなレースにだけ参加する程度には付きあってきた。
ところが、5年ほど前に、突然、毎週末に10レース程度、やることに決めた。かみさんに、「趣味がないと老後がつまらなくなるよ」といわれたのがきっかけだったように思うが、今となっては、判然としない。ちょうどその時に、長年付き合ってきたゴルフに急速に興味を失っていたこともある。熱しやすく、醒めやすい僕らしく、このとき以来、ゴルフは引退したままである。
そして、昨年末でちょうど、まる5年が経ち、成績のほうも徐々に向上し、昨年99年1年間の総回収率が98%となった。記念すべき成績である。そこで、この好成績を記念して、ここ5年間の悪戦苦闘を書いてみることにした。
まず、第一にいうべきは、僕の場合、競馬というよりも、馬券である。なにしろ、競馬場には数えるほどしか足を運んだことがないので、馬は分からない。出馬表の中のデータが、僕にとっての競馬だ。そして、馬券はとにかく儲からないようである。昨年末に亡くなった競馬の神様、大川慶次郎氏も晩年、「3億円投じた馬券は、2億円は回収したが、結局1億円は授業料」と述懐していたという。
その理由は明らかである。「競馬はロマンだが、馬券は複雑系だから」である。なにしろ検討しなければならない要素が多すぎる。馬それ自体の分析項目として、能力、調子、レース適性、持ちタイムなど多々あり、それに騎手の能力、負担重量、そしてハンデ差、また競馬場がどこか、コースは芝かダートか、レースの距離は短距離、中距離、長距離か、天候や馬場コンデションは、そして、レースに出走するメンバーの力関係は、またレース展開は、そして、人気は、など考え出せは検討しなくてはならないことは、いくらでもあるのだ。
予想を決めたら、つぎにどんな馬券の買い方をするかを決めねばならない。軸馬から流すのか、有力馬数頭のボックスか、資金の配分はどうするか、そして、何よりもどんな馬券の種類を買うのかを決める必要がある。ちなみに、中央競馬が発売する馬券には、次の種類がある。
単勝=1着の馬番を当てる。
複勝=通常、3着までに入る馬番を当てる。
枠番連勝複式(通称「枠連」)=どの枠(1から8までの枠)の馬が1、2着するかを当てる。 順序は、1―2着でも2―1着でもよく、小さい枠順に5−7というように言う。
馬番連勝複式(通称「馬連」)=馬番での連勝複式馬券
拡大馬番連勝複式(通称「ワイド」)=1,2,3着となる馬番の2頭の組合せを当てる。通常、3組が当りとなる。これは、最近できたものだ。
これらの馬券のどれをどの金額買うか、レースごとに決めるのである。ちなみに、最小の購買額は100円である。しかし、場外馬券場によっては、500円、千円単位というところがある。
このようにして、馬券を買うのであるが、レースの結果は良く考えるとほんの僅かなのだ。たとえば、2馬身差もあると圧倒的に差があるように見えるが、実は時計ではせいぜい0.4秒程度の差に過ぎないのである。こんな差は、少しのレースのあやで異なる結果となる。だからこそ、どんな方法で予想をするか、どんなやり方で馬券を買うのかは大きな問題なのである。
電話投票口座が使えるようになるまで2、3年ほど、毎週通っていた後楽園の場外馬券場には、多くの競馬ファンが集まる。とくに中高年が多いようにみえる。一生懸命、競馬新聞に集中している人々に、どうやって馬券を決めるのか聞いてみたい衝動にかられた記憶がある。失礼な言い方かもしれないが、他のどんなことよりも頭脳を振り絞っているように見えるので、何を考え、どんな方法で買う馬券を決めているのか聞いてみたくなるのだ。
それにしても、世の中では多種多様な個性的な馬券戦術があるらしい。たとえば、「レースの勝ち馬は、中央競馬会が事前に決めている」と信じており、そのサインがポスターやTVコマーシャルなどに隠されていて、このサインを見抜くことが勝ち馬探しのポイントだと信じている人々がいるという。『サイン馬券派』といわれている人々で、僕などとは、検討に必要な情報が全く違うのだ。これなどを見ると、「情報」は人間の興味のあり方により全く違うものだということに納得させられる。
最初の頃の僕の馬券戦術は、極めてオーソドックスで、本命を見つけて、その馬から有力馬へ数点流すというものであった。その本命馬を見つけるために、一生懸命に競馬新聞の馬柱を見て、能力、調子、騎手、距離適性、レース展開などを加味して、本命馬を見つけ出すのである。この判断のために、各馬のそれぞれの項目を採点するという『ポイント方式』を採用した。各項目5点満点とし、それぞれの馬に点数を振っていくという基礎作業行うには、物凄い時間が必要で、しかも、これがあまり当らないのである。詰まるところ、常識的な本命を軸にすることになり、世の競馬新聞が勧める本命馬券と違わないのである。
とにかく、この方法では週末の方が一生懸命仕事をしているような努力を必要とし、しかも結果が悪いのだ。かみさん、いわく「そんなに大変なのであれば、止めれば」である。そして、単に疲れるだけでなく、懐のほうも痛むのである。生来、負けず嫌いの僕は、何とか、もう少しましなやり方を見つけ出すことに夢中になった。
ところで、競馬の勝ち負けは、次の式で示す「総回収率」で判断できる。
総回収率=総回収金額÷総購入金額
この式は、おおよそ次のように分解できる。
総回収率=平均レース的中率×的中レース平均回収率
平均レース的中率=的中レース数÷総レース数
的中レース平均回収率=的中レース総回収額÷的中レース総購入額
この指標でいえば、総回収率が1(または100%)を越えたいのである。しかし、競馬の配当率は、平均75%であり、僕は75%を越えることを当面の目標にしたのである。
最初の「ポイント法」で、本命を決めるやり方は、結局、本命馬券を買うことになり、当っても配当が低いのである。そこで、高い配当の馬券を狙ったことがある。この時に万馬券(百円が1万円以上になる、つまり、配当が百倍以上になる馬券)を2度取った。しかし、トータルでは大きく負けた。その理由は、大きな配当を狙うと、レース的中率が落ちるからである。仮に当っても、馬券をたくさんの種類買っているので、たとえば万馬券でも、15種類も買っていると、6、7百円程度の1点買い馬券と同じなのだ。
そこで、もう少しましな方法がないのか考えることになった。まず、第一の改良点は、人気を利用することである。人気とは、競馬ファンが専門家の情報をもとに作り上げた集合的評価である。つまり、一生懸命自分でポイント評価をする代わりに、人気を使って有力馬を選抜する方がより効率的ということになる。
そして、人気をベースに考え出したのが、『ABCDE法』である。僕の1レースに賭ける金額はほぼ千円程度なので、百円単位で10枚買える。そこで、1番人気を軸に7番人気までを配当が均等になるように6点10枚買うのがA、2、3番人気をそれぞれ軸に7番人気までを9点10枚流すB,4番から8番人気までの5点のボックス買い(10点)を買うのがC,1,2,3人気を軸に8、9、10人気と組合せ9点+1人気と11人気で、総計10点がD、Eはそれ以外の人気の組合せだが、10点に収まらないので実際には買うことはできない。そして、それぞれのレースごとに、この4つのどれかの買い方をするという方法だ。複雑そうに見えるが、要は1,2,3人気の馬の取捨選択を検討することで買う方法が決まるという仕組みである。できるだけ判断する要素を減らして、誤判断を避けるという思惑である。この時、「なんとかなりそう」と僕は思った。
しかし、結果は75%程度の総回収率までは行くが、それ以上にはならないのである。この方法を実践していると分かるのだが、結局AかBの本命サイドの馬券となり、当ったときの配当率が低いのである。少し、実際のデータをみてみよう。(注:データは僕の買った東京競馬場のレース限定)
馬番連勝1,2人気1点だけ買った場合:的中率0.128 平均配当552円 総回収率
70.656%
1−5人気ボックス(10点):的中率 0.579 平均配当 1355円 総回収率78.45%
1−7人気ボックス(21点):的中率 0.770 平均配当 1956円(購入額は2100円)
総回収率 71.72%。
このデータが示すところは、とても面白い。毎回1−7人気(7頭)ボックス21点買えば、8割弱当る。しかし、7割強しか回収できない。つまり、「よく当るが損する」のである。こんなデータを見ていて、面白いものを見つけた。単勝馬券のデータである。
1人気単勝:的中率 0.316 平均配当 231円 総回収率 72.996%
2人気単勝:的中率 0.183 平均配当 407円 総回収率 74.481%
3人気単勝:的中率 0.155 平均配当 614円 総回収率 95.17%
驚くべきことに、3番人気は高い回収率を誇っているのだ。「これを使って、何か考えられる」。僕は直感的にそう思い、『単勝3番人気法』を考え出した。これは、ある馬券法がヒントになった。それは、1番人気ばかりを続けて買う方法で、当ったところで勝ち逃げするのが特徴の馬券術である。この勝ち逃げを採用した。まず、後半の6レース(中央競馬は1日12レースが基本)で、3番人気ばかりを買い、当ったところで終了するというもの。この方法は、まず、平均すると6レースに1回程度3番人気は勝つという統計的なデータが根拠で、その配当は600円程度なので、6レースの早い段階で当れば、それだけ勝ちの幅が大きくなる。後日、後半にいくほど、掛け金を上げて、どの段階で当っても同じように儲けが出るように改良した。
この『単勝3番人気法』は、かなり長い間、当り続けた。実際、このまま必勝法になるのではないかと思ったが、あるときから突然、当らないレースが続いた。それは、3番人気馬の単勝は満遍なく平均に起こるのではなく変動があり、続いて起こるときも、1日中全然起こらないときもあるのである。出現しないときは、空しく空振りに終わる。それ以上に、心理的にストレスが強いのだ。3番人気がどれになるかを事前に見切ることが意外と難しいのである。また、それ以上に、外れたときの心理的な空しさが大きい。つまり、自分の予想ではなく、機械的に買っていることの空しさである。僕はこの方法を止めた。遊びなのに、空しいのは良くないからだ。
現在は、自分の予想で当りそうと思うレース(実際には1日3レース以内)に限定し、当ったところで、その日は終了するようにしている。「この当ったところで止める」ことができるようになったのは、電話投票口座が使えるようになり、ほぼリアルタイムの馬券購入が可能となったからである。この方法のポイントは、「競馬は当らない」と認識することである。「当らなそうなレースは手を出さないこと、そして、1日1的中程度が自分の実力で、それが来たら、勝ち逃げ」というコンセプトである。現在、勝ったり負けたりで、ほぼ平衡状態を維持している。
果たして、この方法がいつまで続くのか僕には分からない。また、懐が寂しくなれば、別の方法を考え始めるに違いない。この5年間で、「馬券で勝ち続けることなど不可能だ」と痛感しているので、きっとそのうち、次の方法を考えねばならない日がくると思っている。本末転倒かもしれないが、「僕が楽しんでいるのは、馬券の買い方を考えることじゃないのかな」などとも思うことがある。そんな、こんなで、僕の「週末は競馬漬けの生活」がまだまだ続きそうである。