「ヒラメキ考」 黒木 靖生
理化学研究所・脳科学総合研究センターのグループディレクター松本元(まつもと・げん)氏(理学博士)の講演録を読んでいたら、面白い記述に遭遇しました。それは、「脳の目的は、その持ち主が実現したいと思うことを達成する仕組み(アルゴリズム、プログラム、ルール)を作ることである」と言う説明です。つまり、日本古来の格言「成せば成る」は、今日の脳科学の最先端の知見に合致するとおっしゃっているのです。
所で、11月19日に開催された当研究会の第15期第4回の例会の模様が当研究会のホームページの12月号に掲載されましたが(下記)、この会では「直観力(ヒラメキ)」がテーマになりました。この例会には私も参加したのですが、上の松本博士の講演に力を得て、時間の関係で発言できなかったことを纏めてみました。
2002年11月19日研究会報告[15期第4回]
私が、今の会社に移って間もない頃のことです。この会社のコンピュータ構成は、東京の私どもの事務所にホストコンピュータが置かれ、東京近郊の物流拠点にサテライトコンピュータが置かれていました。そして、この会社の全国の販売拠点からの毎日の発注情報は一旦ホストコンピュータに集められ、そこで在庫引当を行った後、半夜間のバッチ処理で「荷揃表(ピッキングリスト)」のデータを作成しファイル転送でサテライトコンピュータに送り、そこで「荷揃表」を出力して翌朝からの出荷作業に使うような仕組み(注:理解し易くするために単純化しています)になっていました。
ところが、このサテライトコンピュータの外注オペレータが辞めたいと言って来ました。外注先も、代替のオペレータを探したが、サテライトコンピュータの設置場所は東京郊外で交通の便が悪く、また勤務時間も変則的(13時〜22時まで)でマイカー通勤者でなければ勤まらないため、代わりの者が見つからないと伝えて来ました。
サテライトコンピュータのオペレーションは、この外注オペレータ(1名)に任せていたため、代わりの者が見つからなければどうしょうもありません。全く突然の降って湧いたような災難で、当惑してしまいました。しかし、「近日中に絶対に解決してやる」と心に固く誓いました。
そうして1〜2日経過した頃、全然他の仕事をしている時に、「荷揃表を東京のホストコンピュータで出力し、翌朝までに運送便で物流拠点に運んだらどうか」というアイデアがフッと浮かんで来ました。ホストコンピュータのオペレーション体制は午後・夜勤の2交代制ですから、明け方に運送便に「荷揃表」を渡すのは問題ありません。
回線を使ってコンピュータ間をデータ伝送するという「ハイテク」な方法から、運送便で運ぶという「ローテク」な方法に変えると言う、全くの「逆転の発想」です。
ともかく、このアイデアの有効性を検証するために、運送業者に問い合わせて、都内から東京郊外まで毎日(月〜金)、早朝に段ボール箱4〜5個の帳票を運ぶ費用を見積もってもらいました。その結果、運賃の方がオペレータ1人分の人件費よりも安いことが判明しました。
また、このアイデアでは、古くなって更新の話も持ち上がっていたサテライトコンピュータの更新費用も無くすことができます。
そこで、私は、このアイデアを実行に移すために動き出したのですが、難問は物流部門の説得でした。彼らは、当時の仕組みで過去に何の問題も発生していないため、どうしても新しい仕組みに対しては保守的になります。例えば「運送便が途中で交通事故を起こすとか雪で交通が麻痺した等で荷揃表が倉庫に届かず、出荷がストップしたら誰が責任を取るのか」と言って抵抗しました。当時の仕組みでも、二つのコンピュータを接続している回線に障害が発生したり、あるいはサテライトコンピュータが故障したりすれば同じ問題が発生するのですが、実際には今まで発生していないので、その仕組みは信頼性が高いと思ってしまうのも止むを得ません。
私は、交通事故はともかく、雪で交通が麻痺した場合は物流倉庫からの出荷のための運送便もストップする筈だと腹をくくり、半ば強引このアイデアを実施に移しました。最初の数ケ月は、運送便にトラブルが起きていないか心配で、朝目覚めると自宅からオペレータに電話して運送便の状況を聞いたものでした。が、何も起こらないので、その内に全く心配しなくなりました。この仕組みは、その後も順調に動いています(なお、私は、この方法は緊急避難的なもので、ベストな方法だとは思っていないのですが・・・)。
私は、この問題を、何らかの「問題解決手法」を使って体系的に分析した訳ではありません。ただ、「絶対に解決してやる」という強い意思を持っただけです。私は、過去にも、これに似たヒラメキを何回か経験しています。それぞれのケースに共通しているのは、「絶対に解決してやる」という強い意思、「前向きの意思」です。
これらの経験から、ヒラメキに関して、私は、次のような「仮説」を立てています。
(1)先ず、問題(課題)を「絶対に解決してやる」という強い(前向きの)意思を持ちます。
(2)そうすると、その人の頭脳は、無意識のうちに(他の仕事をしている時でもバックグラウンドで、また昼夜区別なく)、その問題(課題)の解決策を探します。
(3)その探索の過程では、その人の頭に入力(蓄積)されている今までのありとあらゆる経験が、いろいろな組み合わせで繋ぎ合わされたり、切り離されたりします。ひょっとしたら、その人の「前世」や「前々世」の経験も、利用されるかも知れません。
(4)このような繋ぎ合わせの中から、「解決策」が突然、何の脈絡もなく、当人の頭にヒラメクと言うわけです。
ヒラメキのシーンとしては、アルキメデスの「お風呂」やニュートンの「リンゴの木」が有名ですが、これらは実は、アルキメデスやニュートンの頭脳は、無意識のうちに自分の問題をずっと考えていて、理論がヒラメイた時にたまたま風呂に入っていたり、リンゴの実が落下したと言うことでしょう。
トヨタ自動車の従業員が「ヒラメキに強い」と言われている(自分で確認したわけではありませんが)のが事実だとすれば、それは、「問題を解決するという強い意思・前向きの意思」を持つように日常的に意識付けられている(訓練されている)からだと、私は思います。
(以上)