「遺伝子組み換え食品」 黒木 靖生
1月13日夜の「たけしのTVタックル」を見ていましたら、「食品の安全性の問題」を取り上げていました。その中で、遺伝子組み換え技術で殺虫効果を持つように改変された大豆の葉を昆虫(害虫)が食べると間もなくコロリと横になる映像が流され、「このような殺虫効果を持った食品を人間が食べて果たして害が無いであろうか」という識者のコメントがありました。私も、それを見て一瞬、空恐ろしくなりました。
その後で、立花隆さんの「21世紀 知の挑戦(文春文庫)」を読んでいましたら、私の心配はかなり薄らぎました。
立花さんの説明は、次のようなものです。
(1)殺虫効果を持つように植物に組み込まれる遺伝子は、植物の中に殺虫成分である「Bt蛋白質」を生成するものですが、この蛋白質は酸で分解するので、胃の中が酸性である哺乳類に対しては無害である(昆虫類は胃の中がアルカリ性なので分解されない)。
(2)その上、「Bt蛋白質」は特定の受容体にしか捕らえられないので、その受容体を持たない昆虫に対しては殺虫効果は無い(つまり、全ての昆虫を殺すわけではない)。なお、哺乳類は受容体そのものを持たないので、仮に胃の中の酸で分解されなくても無害である。
(3)更に、「Bt蛋白質」は、昔から殺虫剤として使われて来ており、昆虫以外には無害であることが証明されている。
(4)増大しつつあるこの地球の人口を養う現実的な方法を考えた場合、遺伝子組み換え技術を使わなければ農薬を使わざるを得ないが、農薬のほうが自然界に対する危険性は遥かに大きい。
このように、理論的な説明なので「ナルホド」と納得しました。
「遺伝子組み換え技術」と言うと何だかトンデモナク危ないもののような印象を受けますが、考えて見ると、人類が昔から食料を増産して来たのは、品種改良でこの技術を使って来たからです。その方法は例えば花粉を人工的に交配させるなどであり、遺伝子そのものを直接的には操作していないのですが、結果としては、今まで自然界に存在していない遺伝子を持った(新しい品種の)植物や動物を作って来ています(つまり、遺伝子を組み換えているのです)。
花粉を人工的に交配させても、それは自然交配と似ているので、神の見えざる手に委ねている安心感がありますが、試験管の中で遺伝子を操作するとなると、いかにも人工的で「神の摂理」に背くような感じがして、それが我々が「遺伝子組み換え技術」に対して抵抗感を抱く遠因になっているのかも知れません。
このような素地があるので、最初にあげたテレビのように、映像効果で恐怖感を煽るようなやりかたは、一番まずいと思います。この「遺伝子組み換え技術」広く言えば「バイオテクノロジー」は、これからの世界の最重要な技術の一つです。その重要性は、立花さんの本にも、実例と共に縷々説明されています。この技術を、先程のテレビのように「情緒的」に捉えるのではなく、「科学的」に視聴者に説明することが必須と思います。
私は、ほとんど毎週、土曜日か日曜日には、家内のスーパーの買出しの運転手を務めるのですが、スーパーの食品売場で「この食品には遺伝子組み換え技術を使った原料は使っていません」を表示した食品を見かけます。この表示なども「遺伝子組み換え技術」に対する不必要な不安を与えるものだと思います。しかし、このような表示を禁止するわけには行きません。
なお、海外から輸入される家畜の飼料には「遺伝子組み換え技術」を使った穀類が含まれているでしょうし、また、海外から輸入される食肉や加工品にも「遺伝子組み換え技術」を使った穀類で育った家畜の肉が使われているでしょうし、また、私たちが外食する時、その食材にどのようなものが使われているか検証するのは不可能でしょうから、実際問題としては「遺伝子組み換え技術を使った食品」が口に入るのは避けられないと思います。
私は、大豆とかトウモロコシに使われている「遺伝子組み換え技術」がどういうもので、その危険性に対する評価はこうだと言ったことを、企業なり政府が個別・具体的に公開・広報する(その例は、立花さんの著書)ことが、この技術に対する不安感を取り除く道であると思います。
(注1)「遺伝子組み換え技術」を植物および人間以外の動物に適用することは、私はおおむね是認できますが、人間に適用することは、慎重な判断が必要と思います。
(注2)引用したテレビ番組では、農薬の恐ろしさについても映像で訴えていたことを付記しておきます。