[シリーズ投稿・枚方通信(その)]
 

 今年は「鬼門」がフィーバー        丸中 正量 


 はじめに

関西の大手私鉄5社(近鉄、南海、京阪、阪急、阪神)のうち、私の住んでいる京阪沿線の開発が一番遅れたのは、沿線が大阪から京都まで「鬼門」の方位に延びているためといわれている。

「鬼門」とは、文字通り鬼が出没する方角で、東北、つまり十二支でいう寅(うしとら)の方角を指す。古代中国で生まれた陰陽道によるもので、歴代の皇帝が東北地方からの蛮族の侵入や寒風に脅かされてきたので、この東北の方角を外敵や禍の来る方角として恐れたとされている。

「鬼」は、忌まわしいものや‘異形’の象徴で、本来姿が見えないものであるが、“頭には牛の角と顔面の虎の牙、また虎の皮の褌を穿いている”〜あの鬼のイメージは、この丑寅の方位を具現化したものであるらしい。

この鬼が今、関西ですこぶる元気がいいのです。はい、プロ野球球団の近鉄バファロー(丑=牛)と阪神タイガース(寅=虎)のことです。


 私鉄王国と球団経営

関西は私鉄が発達し、“私鉄王国”といわれる。    
交通機関別輸送人員(右表)を見ると、東京を中心とする首都圏はJRが優位であるのに対し、関西は私鉄が圧倒的に強いことがわかる。

鉄道輸送人員96年度by運輸省)

交通機関

関西

関東

私鉄

50.7

38.0

JR

27.0

41.6

地下鉄

22.3

20.4

一日平均輸送人員

1,406万人

3,588万人

関西の私鉄には、地域文化を牽引し、大衆の生
活文化を作ってきたのは自分たちであるとの自負
がある。

 
かって、沿線に住宅やイベント施設(宝塚少女
歌劇やファミリーランドがその例)、ターミナル
に百貨店を作って多角経営を展開したのも、通勤
定期、複々線化、車両冷房化、駅のエスカレータ
ー設置、自動改札、そして最近の鉄道・バス共通
カード(関西の「スルッと関西」、関東の「パス
ネット」)に至るサービスや合理化も元々関西商
  人の進取の精神である。  

プロ野球の球団経営もその流れの一環で、関西私鉄主導の大衆レジャー生活文化牽引型の、沿線に人を呼び込み輸送量増大を図るレッキとした営業政策で、京阪を除く4私鉄が球団経営をやってきた。

 下表のとおり、関西の私鉄が「牛」「勇者」「鷹」「虎」を囲ってきたというわけです。

< 私鉄の球団経営 >

私鉄

営業距離(順位*

球団名

発足年次(順位**

譲渡年次

最初の譲渡先

現在の球団

 

 

 

 

 

西

近鉄

594.km

1位)

近鉄バファローズ

(発足時:近鉄パールズ)

50

7位)

----

----

----

南海

163km

5位)

南海ホークス

38

5位)

89

ダイエー

福岡ダイエー

ホークス

阪急

147km

6位)

阪急ブレーブス

36

3位)

88

オリックス

オリックス

ブルーウェーブ

京阪

92km

10位)

----

----

----

----

----

阪神

45km

14位)

阪神タイガース

36

1位)

----

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----

 

 

西鉄

116km

8位)

西鉄ライオンズ

50

7位)

73

太平洋クラブ

西武ライオンズ

(西武198km、4位)

東急

100km

9位)

東急フライアーズ

(発足時:セネタース)

46

6位)

48

東映

日本ハム

ファイターズ

国鉄

 

----

国鉄スワローズ

50

7位)

65

サンケイ

ヤクルト

スワローズ

大手私鉄15社の営業距離数の順位     **現在の12球団の発足年代順位


時代が変わり、半世紀の歴史を誇る
4球団のうち、阪急と南海が、それぞれ8889年に身売りをしてしまった。

 私鉄にとって、プロ野球の看板を下ろし球場を閉鎖する痛手は、他の産業の場合の比ではないが、この2球団撤退の背景は、下記にあると思う。

1.     モータリゼーションの影響を受けて本業の輸送業が長期的に低迷している上に、これまでの関連事業(特に不動産)を含む事業への過大投資が、バブル経済崩壊を機に過激な資産デフレに転じたこと

2.     関西経済の地盤沈下

3.     パ・リーグの悲哀

4.     阪神タイガース人気の過度な集中 

95年に阪神間を襲った大地震は、私鉄に致命的な追い討ちをかけた。数ヶ月単位の運休を余儀なくされ私鉄は、平行して走るJRに乗客を奪われ、復旧した後も、民営化効果で快速や新快速を積極的に導入してスピード/サービス優位を示し始めた西日本JRから乗客を完全には奪回できなかった。かって誇った関西の私鉄王国の看板は下ろさざるを得なくなった状況ではなかろうか。


 「近鉄バファローズ」「阪神タイガース」の賑わいと経済効果

 さて、「勇者」と「鷹」が去り、残された「牛」と「虎」(厳密に言えば、「勇者」は「青い波」として神戸に転身している)。ともに「猛牛」「猛虎」と呼ばれたが、この20年間、近鉄はパ・リーグ優勝を2回するなどAクラスに近い活躍をしてきたのに対し、85年に日本一となった阪神はそれ以降最下位が10回もあるダメ虎でCクラスに低迷、と明暗を分けた。  

今年はもうシーズン半ば、両球団とも好調(下表のとおり)で、特に阪神は、85年の日本一の際の勝率が6割であったのに対して、今年は7割と桁違いに絶好調。かくなる上は、64年オリンピックの年に阪神と南海がセ・パの大阪(=日本)シリーズをやったように、両猛の間で再び大阪シリーズをやってほしい、その上で雌伏18年、「猛虎」の日本一を、と期待がいや増している。

 <両球団の現況とヒストリー>

両球団

6月末現在戦績(勝率)

現    況

ヒ ス ト リ ー

近鉄

4229
591厘)

同率首位、
福岡、西武と三つ巴で首位争い中 

79,8089,02年のリーグ優勝のみで、日本一になっていない唯一の球団 
(最近Aクラス)

阪神

5021174厘)

首位を独走中、
逆転勝利が
5割以上

62,6485年日本一、
それ以降
17年間負け続け、殆どCクラスに低迷

<ヒストリー〜85年以降の順位の変遷>

両球団

 

Aクラス

Bクラス

Cクラス

日本一

優勝

2

3

4

5

6

近鉄

----

2

5

4

4

1

4

20

阪神

1

1

1

1

5

2

10

20


 阪神にとって、6月は「魔の
月」。それは、いつも、シーズン出足好調を囃し立てられながら、6月に入ると息切れがして元の木阿弥となり、シーズンが終われば最下位、というパターンを繰り返してきた、トラにとっての「鬼門」の月を意味している。

 優勝を囃し立てられると逃すので、阪神ファンはこの種の噂を極端に抑制する習性がある。今年の6月は、故障選手が出てもこれに代わる要員の活躍が続き、17年ぶりに勝ち越した。スポーツ紙、雑誌、テレビが優勝を煽り立てる。こうなると、これまで口の指を立てて「シッツ」と押し黙らせていたファンの指と口も、そろそろ緩もうというもの。

 語呂合わせと漢字の見出しが躍り、5割以上の売り上げを伸ばしているスポーツ紙の一面から引用しよう。

 620日、星野監督が日本銀行本店の福井総裁を表敬訪問したことを捉えて、スポニチ621号は、

日銀総裁頼み“日本救って

 最高の『』軍に笑顔 

『ぜひ優勝して』福井総裁(虎仙会名誉会長)星野監督にVゲキ

一人の虎党として、金融トップとして熱い応援エール」など。

 同じ面に、「ノリ豪快復活弾〜5」、「猛虎Vの軌跡・前半戦特集号〜スポニチ縮刷版好評発売中、定価250」も。

 お膝元の甲子園球場や阪神電車はもちろん、野球中継でお馴染みのジェット風船や縦じまメガフォンなどのトラ関連グッズ、スポーツ紙、お祭騒ぎの商店街や居酒屋に至るまでの好景気を囃すニュースが賑わっている。また、「阪神は日本を救う」という特集(週刊朝日・75日号)までなされ、また下表のような阪神優勝の経済効果試算の公表が相次いでいる。どうしようもない日本経済の閉塞状態に、トラが格好の救世主に祭り上げられたようだ。これまで、せいぜい優勝セールスが話題になるチームがあっても、地域経済や日本経済への影響度合いを云々されるチームを聞いたことがない。


<阪神優勝の経済効果一覧>

経済効果

算  定  の  主  体

132億円

「さくら総合研究所」が99年の野村阪神効果を試算

398億円

「住友信託銀行」が85年の阪神V効果を試算

1000億円

宮本勝浩・ 大阪府 立大教授の試算

1000億円

太田房枝・ 大阪府 知事が、近鉄Vが重なれば1500億円。道頓堀川へのダイブを見越して、浄化助成を逸早く発表

1133億円

「日本総合研究所」の試算

数千億円

国定浩一・りそな総合研究所会長は、測定不能といいながら、全国規模では数千億円にのぼると言及

 
 
阪神ファン心理=反中央・権力×判官びいき×「鬼」

「ファンは、10人目の戦力」とは、阪神の選手の口から出た言葉のようだ。どの球団にも当てはまりそうなこのフレーズが、実は阪神独特なのだ。どこのファンも同じような応援グッズを使い、同じような応援スタイルをとっているように見えるが、敵を倒してチームを勝たせるための執念、仕掛け、チームワークのいずれを見ても、阪神の場合は違う。10人目でも、遠い外野席で距離を隔てたプラスアルファ要員ではなく、まるでフィールドに降り立った監督、コーチ、盟友そのものと言えよう。ゲーム観戦だけのファンでなく、内外一体の戦友、全員参加型の応援団と言われる所以である。

また、これを広い外野席からサインブロックで指揮するコンダクターがいて、この人が日中の営業をそそくさと済ませて球場に駆けつける米屋であり、彼からのサインをフィールドを背にして要所要所に立つ伝令が目視のリアルタイムで広い球場を埋める大軍団に伝える、という仕掛けを、先日NHKテレビの特集で目の当たりにした。  

同じ関西圏に、かっては南海や阪急、今も近鉄があるのに、これほどまでに阪神がファンを集める理由は一体何であろうか。私鉄王国と言われ、反官、反中央、反権力の同じ土壌にありながらの阪神への過度のファン集中は、結局、阪神が大手私鉄15社中営業距離で14位の最弱小鉄道ということに尽きそうだ。兄貴分の南海(5位)や模範生の阪急(6位)を差し措く「判官びいき」が働いているように思う。

 
それでも納得のできない向きには、この得体の知れない阪神軍団ないし現象は「鬼」としか言いようのないもの、と言ったらお分かり頂けるのではないか。日本語の「鬼(おに)」は、「怨(おん)」または「隠(いん)」または「陰(いん)」がなまったものだという。何かに対する激しい怒りや怨念の象徴であり、普段は隠れて平静を保っているモノが、ひとたび場を与えられるととてつもない力を発揮する。「アンチ巨人」の阪神は、決して地域限定のものでなく「汎真」と思いますが、どないでっしゃろ。


 おわりに

 阪神が優勝した同じ85年には、夏の選抜高校野球は大阪のPLが、そして社会人都市対抗野球は大阪の日本生命(ニッセイ)が優勝し、大阪のトリプルVが実現しました。たまたま、同社の応援事務局を担当してこの幸運に浴した筆者ですが、今年また、絶好調の阪神に引き摺られて同じ夢が見れないものかと密かに念じています。(03630日記)


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