大学の新キャンパス開設に想う 辻 淳二
私が非常勤講師として関わっている新潟の私立大学が、創立10周年事業の一環として、新潟市街中心部にある旧地方銀行本店ビルを買い取り、「中央キャンパス」として活用することになった。創設以来の「主キャンパス」は、市内ではあるが新潟駅からJR越後線で30分くらい西に下った、越後平野の中にある。まだ設立準備の段階に「講師を・・」と声を掛けて頂いて、「場所は新潟市内」と聞いて応諾し、そのままずっと、新潟駅からバスかタクシーで行ける所と思っていた。そして10年前、開学のお披露目の行事に出掛ける前の日に「さて、最寄り駅はどの辺?」と念のために地図を開いて、「越後赤塚駅か(当時は、名前も知らなかった)。我が大学(以下、当学と略す)はえらい所にあるんだ!」と気が付いたがもう手遅れだったという因縁がある、“稲田の中のキャンパス”である。それが、そういう立地も合わせて、何となく相性が良くて未だに出掛けているのだから、世の中の出会いというのは面白いということになるが。
この新キャンパスが6月上旬の開学記念日に合わせてオープンしたと聞き、ほどなく立ち寄った。出掛ける前にも、「大学にとって、創設期以来の大型投資案件」との関心は持っていたが、やはり“百聞は一見に如かず”、行って見て「これは、面白い可能性を秘めた投資」との感を深めた。それは、建物や設備の価値というようなハードウエア面のことではなく、この活用つまりソフトウエア面において「大学の経営層、教員、職員、在学生、卒業生、そしてキャンパス周辺を通る市民に“変革への揺らぎ”をもたらす可能性」を感じた、という意味合いでだった。
建物の周囲そして中の各階を見て歩きながら思い当たった着想の例を挙げよう。
先ず、地銀本店だったのだから当然とも言えるが、「新潟市のビジネスの中枢」という位置の良さである。デパート等も近くにあるから、週日はビジネス人、週末は家族連れが近くを通る。当然、当学の認知度は上がる。ここで、大学としての好イメージや他大学とは違うとの存在感を感じて貰うことができたら、当学に子弟を入れようと思う親たち、当学の学生を受け入れようと思う企業関係者を増やせる。近くを通る人の中には、当学の卒業生も含まれよう。そこで、当学が世の中に関して確かな感度を持った活用をしていれば、「仕事が終わったら寄ってみよう」、「週末は、あのキャンパスでやっている展覧会や映画会に家族で行こう」等々、繋がりを深める方向に動く人を増やせるだろう。
次に、大学の諸活動の充実という点でも、「2極」となる効用は少なくない。一例を挙げれば、「大学の経営および教育へのネットワークの活用」で県下の最先端大学になるという可能性。1キャンパスでは、ネットワーク活用の幅や用途はどうしても限られてしまう。それが2極となれば、「どちらの教室からでも、同じ便利さで使えるネットワーク環境を持つ」等が求められ、それらは、先端IT技術の利用体験として一歩前進、また、教員や学生のキャンパス間の移動のムダを減らすメリットをもたらし、“大学としての進化”の駆動力になる。
また、卒業研究のテーマ選択や内容の充実の面でも、ビジネス街の中心にキャンパスがあることを活かした“今までは考えられなかった着眼”を採り入れる道が開かれる。建物の中を歩きながら頭を掠めた「夢」は、次のようなものだった。日本国や新潟県の活性化への貢献を視野に入れれば、当学も「教員や学生のアイデアに基づく起業」といった動きの実践に向かい、その時には「市内外の企業との連携による、インキュベーション(孵化)センター」としての新キャンパスの活用が必然となるだろう。そういう筋のアイデアを教員や学生が持ったら、先ずは卒業研究のテーマとして研究開発をスタートさせる、次に、共同研究に参加してくれる企業が見つかったら、連携により開発をスピードアップするために新キャンパスの一室を振り向ける。このように、起業家を当学が育てる流れを作る一翼を新キャンパスが担えるようになったら・・と想像を巡らして、楽しくなった。
そして、こういう動きを始めれば必ず出てくるのが、「行政による規制」というカベ。起業の着想が具体的になればなるほど、諸省庁の「役所と既存産業の既得権を法律で守っている規制」とのぶつかりがあちこちに出てくる。ここに着目すれば、これを予知して対処するといった関心から、別の学生が「規制緩和を卒論テーマとする」という選択肢が見えてくる。これは、具体的な事業プランを意識してのものである故に、リアリティのある研究成果に繋がる可能性が高い。さらに、この2つのテーマを、事業化の促進は情報システム学科が、法規制緩和の方は情報文化学科が、と呼応して取り上げることになれば、「当学が持つ異質の専門力の結集」という“画期的な揺さぶり”の事例ともなる。
このように、新キャンパスは、当学の経営層、教員、職員、卒業生、そして近隣の市民の間に揺らぎをもたらす可能性を秘めている。いくつかの層が相呼応し、力を持ち寄って「協創」に向う動きの“触媒”となれる可能性を秘めている。経営的な視点から見ても、新キャンパスを購入したことでキャッシュフロー上の余裕が小さくなり、この投資を活かしてリターンをもたらすための経営力が問われる段階へと局面が変わっている。この転機をどう活かすか。キーワードは「協創」、つまり、成否のカギは“関わりのある上記の各層の、できるだけ多数を巻き込んだ協創”に持ち込む「当学の中興への強い意志」にあるのではないか。
ところで、上記の各層の動きは?となると、今のところはスロースタートのようである。新キャンパスを見に行った次の週に、私の講義の受講者の学生(3年生)に「新キャンパスの中に入ったことのある人は?」と訊ねた所、「見に行った」と手を挙げた学生はゼロ。教員や職員方も、「取り敢えず、下期から卒論研究で活用を始める」と受身的な反応で、既に決められたことの域を超える高まりにはなっていないようだった。当事者となると、「管理や移動が大変」との目の前の問題の方に目が向いてしまうのだろうか。
非常勤の立場で、この成否に関わる当事者度が低い私がワクワクしていても詮無いことだが、各層の関係者たちが内に暖めている思いと力を信じて、これからどのように進展していくかを強い好奇心を持って見守りたいと思っている。[03.7.27]