アメリカの鏡・日本        黒木 靖生
 
 
 
 「アメリカの鏡・日本(Mirror for Americans:JAPAN)」という題名の本を読みました。著者はヘレン・ミアーズというアメリカ人で、原著は1948年にアメリカで出版されています。私の読んだ日本語版は1995年に初版が出されていますが、私は今年になって書店の店頭で見つけて購入し、しばらく積読状態にあったものを夏休みに引っ張り出して読んで、非常に面白かったので、ご紹介するものです。  

 著者(ヘレン・ミアーズ)は、1900年にニューヨークで生まれ、1925年にアジアを旅行し、中国や日本に興味をいだくようになったようです。そして、第二次世界大戦中、彼女は大学で日本について教えた後、陸軍で日本占領に備えた要員の育成に携わっています。その後、1946年(終戦の翌年)、彼女はGHQ(連合国最高司令官総司令部)労働局諮問委員会11人のメンバーの一人として来日し、戦後日本の労働法の策定作業に従事しています。そして、帰国後すぐにこの本を出版していますが、その年は極東軍事裁判が終了した年でもありました。  

 この本で著者の主張していることを一言で要約すると、「明治維新後の日本の対外膨張行動は、アメリカを始めとする西欧列強の先行する行動を真似たものであり、第二次世界大戦の敗戦国である日本をアメリカ(西欧列強)が処罰する資格は無い」というものです。この「真似た」ということを原題の「Mirror」で表しています。  

 この本で、私が面白かったのは、著者が歴史的事実に基づき、徹底的にロジックで物事を判断しているということです。まさに、「日本は第二次世界大戦の戦犯国として処罰されるべきか」というテーマに関しての息詰るディベートの現場にいるような知的興奮を味わうことができます。著者は、決して日本贔屓の人ではありません。アジアを旅行した時、日本よりも中国が好きになったと、著作の中でも書いています。  

 著者が自分の主張の根拠にしているのは、あくまでも歴史的事実のみです。例えば、「アメリカは日本を歴史的拡張主義者と非難している。しかし、私たち(アメリカ人)は、この地(アメリカ大陸)に移って来てから300年の間に、インディアン、イギリス、メキシコ、スペインを打ち破り、フランスを脅かし、国家統一のための内戦(南北戦争)を戦い、北米大陸の3000万平方マイルを獲得して定着した。その後、国境を越えて進出し、時には北米大陸から7000マイルも外に出て、71万平方マイル(日本列島の5倍に相当する面積)の海外領土を得ている。これに対し、パールハーバー当時、日本が太平洋地域で支配していた面積は、全体の0.2%にすぎなかった。」と書いています。  

 また、「アメリカ人は、日本人をファナティックな軍国主義者と非難する。しかし、日本海軍が1940年2月の帝国議会に提出した海軍近代化5ケ年計画の予算は700万ドルであったのに対し、同じ年の7月に米国議会は総額5億5千万ドルの海軍拡充計画を承認している。」といった具合です。そして、このような多くの数字から、著者は、「アメリカは余りにも富める国なので、日本も同様の富める国と誤解して正面から日本に立ち向かった。日本は資源の乏しい貧しい国なのだから、太平洋戦争では時間をかけて補給路を断てば、多くの人命を犠牲にすることなく日本を打ち負かすことができたのではないか。」とも言っています。  

 また、私は、日本の被占領期間の記憶はほとんど無いのですが、この本に紹介されているニューヨークタイムスの記事は、「日本の1947年の政府予算は1845億円という天文学的数字にのぼったが、その43%以上が占領軍経費に充てられている。日本は、占領軍の一般アメリカ人職員の住宅建設に、1934年度政府関係費総額のほとんど4倍の金額を充てるよう求められた。最も驚くべき支出項目は、占領軍関係者が起こした交通事故で被害を受けた日本人に支払われた補償金の総額6億2千万円である。」と報道しています。現在、アフガニスタンやイラクの復興では、関係諸国が支援金を拠出していますが、日本の場合は自己負担が多く結構苦労したのだなと思いました。  

 最後に、この本の中から、印象的なフレーズを二つご紹介します。これらのフレーズをご紹介したいために、この文章を書いたようなものです。

 「もし、アメリカ人が本当に平和を望むなら、対外政策の在り方にもっと厳しい目を向けなければならない。世界征服の野望を抱いているかのような状況に引っ張って行かれるのは、ひとり日本国民だけではないからだ。」

 (日本は資源に乏しく長期の戦争遂行能力を持っていなかったことをアメリカが認識していなかったので、日本に対する政策を誤ったと述べた後)、「こうした事実は、私たちが日本国民の懲罰を考える上だけでなく、アメリカの将来の安全保障を考える上でも重要である。私たちは正体不明なものの脅威を妄想して、人命と財産を浪費し続けるかも知れないからだ。」

 上の二つのフレーズは、現在のアメリカそしてわれわれの状況を正確に予言しています。私は、この本が1948年に書かれ、そしてその時点で著者がこのような歴史の見通しを持ったということに、本当に驚きを覚えます。この本は、真の意味での「歴史的名著」と言っても過言でないと思います。      (以上)



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