○○日は良かったですか          黒木 靖生
 

 先日、某インターネット回線提供事業者の営業と名乗る男性から会社に電話がありました。用件は、「光回線の新しいサービスを始めたので、その説明に行きたい」と言うものでした。そして、私に面会のアポを取るのに「○○日は良かったですか」と尋ねるのです。私は、かねて、このような「変な日本語」が徘徊していることは風評としては聞いていましたが、直接聞くのは初めてで、一瞬びっくりしてしまいました。

 
私が「○○日は都合が悪い」と答えると、その営業氏は「それでは△△日は良かったですか」と聞いてきます。「おいおい、何日か先のことを聞くのに過去形を使うのか」と心の中で苦笑しながらも、面会の約束をしました。ところが、この営業氏はその後で、「あなたの会社に最適な提案を持って行くために、会社のネットワークシステムについて教えて欲しい」と前置きして、「パソコンの台数は現在何台だったでしょうか」など、私にとっては「過去形」と感じられる表現で「現在」のことを次々と訊いてきました。

そういう類の質問に何問か付き合ったのですが、「過去形」で聞かれるのに精神的に少々疲れ、また、質問が余りにも概要的なもので、それで「当社に最適な提案が考えられるとは到底思えなかった」ため、アポを丁寧に断ってしまいました。  

このような経験をしたので、前から書店の店頭に山積みになっていて気になっていた書籍を衝動的に購入しました。書籍の名前は「問題日本語(大修館書店発行)」です。この本の著者(5名)は、大修館書店から刊行されている「明鏡国語辞典」を編集した人(編集委員)で、この辞書を編集するに当たって、現在どのような言葉が日本語として使われているかを調べ、また多くの人たちからの質問も集め、それらの資料を基にこの本を書いたようです。初版第1刷は2004年12月10日刊行で、私の購入したのは初版第12刷(2005年2月25日刊行)ですから、結構売れているものと思われます。  

この本を購入して、早速に私の遭遇した「問題な日本語」を解説していそうな箇所を調べ、「よろしかったでしょうか」の項を発見して読んで見ました。この表現は、レストランなどで「ご注文は以上でよろしかったでしょうか」という具合に使われていて、「注文が以上でいいか」を訊くのに「過去形」を使うのはおかしいのではないかとの意見が沢山あるとのことです。私も「もっともだ」と思います。ところが、この本の著者の見解は、「過去のこと(上の例では注文)についての現在における評価を訊く表現として理解できる」となっていました。  

著者のこの見解にも私はちょっと釈然としないのですが、私の遭遇した文型は、これとはまた少し違っていて、アポを取るということはあくまで「何日か先(未来)」の日程に対する現在の予定の有無を訊いているのですから、「良かったですか」と「過去形」で訊くのは全くおかしいと思います。  

さらに、この本を読んで薄ら寒く思ったのは、「雰囲気」という言葉が「ふいんき」として通用しつつあるということです。私の感覚からすれば「ウソ!?」という感じでとても信じられないのですが、著者がインターネットで検索したところ、「ふんいき」でヒットしたのが約2千件に対して、「ふいんき」あるいは「フインキ」でヒットした件数は6千件を超えたそうで、それどころか「雰因気」、「不陰気」というような表現も約2千件あったそうです。  

インターネットの世界は「遊び心」で楽しんでいる人も多いので、「ふいんき」あるいは「フインキ」が遊び半分で使われている可能性もあるでしょう。さりながら、私たちが現在当たり前のように使っている「新しい(あたらしい)」も、「あらたしい」が本来の言葉で、伊達者(変わり者)が遊び心で「あたらしい」と使っていたのがいつの間にか定着したわけですから、十何年か後には「ふいんき」が定着しているかも知れないですね。
                                              (以上)
 
05.3.30


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