タック川本さんの講演       黒木 靖生

 

8月25日(折悪しく、午後から台風に見舞われましたが)に開催された富士通さん主催のセミナーで面白い話を聞きましたので、ご紹介します。講師は「タック川本さん(1943年東京生まれ、早稲田大学卒)」で、テーマは「メジャー・リーグに学ぶ経営学」です。なお、川本さんはアメリカのメジャー・リーグのカンザスシティ・ロイヤルズ、モントリオール・エクスポズのマネジメントを経て、現在、ロサンゼルス・エンゼルスというチームの国際編成(スカウト)を担当する傍ら、ビジネス・スポーツアナリストとしても活躍されているかたです。

 また、ロサンゼルス・エンゼルスは、2002年、アナハイム・エンゼルスという名前のときに「ワールド・チャンピオン」になり、その時に選手をはじめ主要な関係者に配られたチャンピオン・リング(大きな指輪)を川本さんは持っており(“kawamoto”という刻印が入っている)、この指輪をはめると幸運になると言って、会場に回して下さいました。  

 話は、まず聴衆を引き込むために、ヤンキースの松井選手がアメリカで一番困ったことは何だったかという話題から始まりました。その答えは、意外にも「野球用語」でした。アメリカでは、ピッチャーのボール・カウント数は「ボール」を先に「ストライク」を後に言うのはよく知られたことですが、それ以外にも、日米の野球用語はかなり違っているとのことです。たとえば、「四球」は日本では「フォア・ボール(four balls)」と言うのに対してアメリカでは「walk」と言い、「死球」は日本では「デッド・ボール(dead ball)」と言うのに対してアメリカでは「hit-by-pitch」と言い、「バック・ホーム」は日本では文字どおり「back home」ですがアメリカでは「throw to the plate」と言うそうです(この他にも、幾つかの言葉の紹介がありました)。  

 野球はアメリカから輸入されたものですから、野球用語もアメリカで使われていた用語を直訳して使っているのではないかと思っていたのですが、どうもそうではないようです。「野球」という言葉は「正岡子規」が作ったと聞いていますが、「base ball」は直訳すれば「塁球」ですから、「野球(英語に直訳すると“field ball”)」という言葉とちょっとそぐいません。しかし、野球場は“field”という言葉を使うようですから、こちらから「野球」となったとも考えられます。ちなみに、中国では「棒球」と言いますが、これは「バット」から来たものでしょうか。  

 インターネットのあるサイトを見たら、「死球」という言葉は、「死球」が先にできて、それが元となって「デッド・ボール」という和製英語ができたと説明してありましたが、これはにわかに信じられません。野球が日本に輸入された頃、ピッチャーの投げたボールがバッターに当たってフェア・グラウンドに落ちた時、そのボールを「デッド(無効)」にするために球審が「デッド・ボール」と宣言したのを誤解して「死球」という言葉が生まれたのではないでしょうか。

 これに対して「バック・ホーム」という言葉は、どう考えても「和製英語」でしょうが、「throw to the plate」という情景描写的な表現に比べると「短くて緊張感があり」とても秀逸と思います。しかし、アメリカでこの言葉を使ったら「帰宅あるいは帰郷」と間違えられるでしょう。  

 タック川本さんの講演の後半のテーマは「メジャー・リーグの人材育成方法」でしたが、印象に残った言葉は、アメリカでは、マイナー・リーグの選手に「一日四食を摂る」ことを勧めているということです。「四食」とは「朝」、「昼」、「晩」の食事の他に、「知識」という食事を摂るということだそうです。これは、メジャー・リーグのチームは毎年50人以上の選手をドラフトで取り、その中でメジャー・リーグの選手になれるのは2〜3人で、他の選手は遅かれ早かれ他の職業を選ばなくてはなりませんから、とても大切なことだと言っていました。  

 また、ドラフトで取った選手に最初にすることは、他の選手に悪影響を及ぼしそうな選手を、どんなに優れた能力を持っていても、辞めさせることだそうです。これを「broken window theory(破れた窓を放置しておくと、そこから犯罪が広がるので、窓の小さな破れを放置しておかないのが大事)」と説明していました。  

 なお、タック川本さんの「一流のリーダになるための5原則」は、次のようなものでした。

(1)   敗北のメッセージを受け付けない(ネガティブにならない)。

(2)   高い理想・理念・夢・目標がある。

(3)   自分が思った以上のことを他人にしてあげる。

(4)   キュリアス・キッズになる(子供の頃と同じように、何にでも興味を持つ)。

(5)   収入の4分の1、もしくは3分の1を、他人のために使う。

 最後の項目はハードルが高そうですが、アメリカのマイナー・リーグの選手も、少ない給料(マイナー・リーグの選手の給料は掛け値なしに少ない)の中から教会への寄付などを行なっているとのことです。
                               
(以上)


 
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