「システム障害」の一考察 黒木 靖生
昨年末から今年年初にかけて、証券関連の会社のシステム障害が連続的に起こりました。これらの障害の報道を見ての感想を以下に記します。ただし、私は証券関連会社のシステム化事情には全くの門外漢ですから、あるいはピントを外しているかも知れません。その場合はご容赦願います。
最近では、コンピュータシステムがビジネスに深く組み込まれていますが、証券関連会社もその一翼である金融業界は、コンピュータシステムを主要設備とする「装置産業」と言っても過言でないと思います。私は以前、典型的な装置産業である鉄鋼業界に勤務していたのですが、鉄鋼業界では、「造船や橋梁用の厚板」とか「自動車用の薄板」のように製品ごとに製造部門を持っていて、新しい工場(設備)を作るときは、その製造部門のエース級のエンジニアを集めて、専任でその工場(設備)の設計を検討させています。
もちろん鉄鋼業の生産設備の設計・製造は、それらの技術を持っているIHIや三菱重工などの機械メーカに外注するのですが、各機械メーカが持っている技術もそれぞれ特徴がありますから、先ずメーカの選定から始めて、メーカを決めた後は、そのメーカのエンジニアと設備仕様の詳細についてそれこそ丁々発止のディスカッションを行い、メーカのオリジナルな仕様を変更して自社に最も適した仕様にして製造を発注します。
鉄鋼会社においては、例えば厚板工場で言えば、同じ会社の中でも複数の工場を持っており、また競合他社も厚板工場を持っていますから、新しい工場を作るときは、既存の工場以上の生産能力・生産性や品質という明確な目標が設定されます。また、工場の建設班のメンバーは、建設が終了した後は自分たちが運転の責務を負いますから、これらの目標を達成するために、設計段階においては、それこそ不眠不休の努力を重ねます。また、工場が稼動した後は、操業しながら目標の達成の確認および更に高い目標の設定が行われます。
金融業界が(金融業界に限らずコンピュータシステムを使う組織全てに言えると思いますが)コンピュータシステムを開発するときは、システム化の対象とする業務に従事している社員の中から「エース級の人材」を選んで、「専任」でシステムの設計に当たらせるようにすべきでしょう。そして、設計にあたっては具体的な目標を設定し、システムの稼動後はその目標が達成されているかの評価も明確に行うことが求められます。もちろん、目標を達成していれば昇進などにおいて特別の配慮がなされるべきでしょう。
鉄鋼会社においては、厚板工場とか薄板工場とかに設備は分かれていますから、仮に厚板工場で多少の失敗があっても全体に対するダメージは致命的ではないかも知れませんが、金融業界においては、例えば銀行の勘定系・情報系は本店および全支店に関係しますから、少しの失敗も致命的なダメージとなる確率はかなり高くなります。このため、システム化の成否が経営に与える影響は鉄鋼業界以上のものがあると思いますので、上述の体制は必須と言えるでしょう。
また、私が気にしている問題の一つに、「システム仕様の継承」があります。恐らく平成になって入社して来た人の多くは、コンピュータシステムを前提に仕事を覚えていますから、システムの中身はブラックボックスになっていると思います。このため、コンピュータシステムを再設計する場合、現在の仕様の詳細をよく理解できていませんから、新しいシステムの設計に難渋することになります。
これを解決する方法は「ドキュメント化」と「そのドキュメントの不断の利用」しかないでしょう。鉄鋼業界においては、例えば「生産管理システム」は生産部門の「技術標準」に基づいて設計されていますが、この「技術標準」はドキュメント化されており、操業技術の改善などで不断に参照・改訂されています。
一般の会社においても、営業など全国に広がっている組織においては「業務管理部門」を設け、その部門が業務の革新を不断に考察しておいて、システムの設計においては新しい業務プロセスを考案すると共に、その業務プロセスをドキュメント化して、システムの改訂・改善の際は、必ずそのドキュメントを参照・改訂するようにして、システムの中身のブラックボックス化を組織として回避する努力を行うべきでしょう。私の考えでは、この「業務管理部門」が前述のエース級を集めた組織と言うことになります。
もちろん、人事・総務部門とか経理部門など社内で広がりの少ない部門は、自分の部門の中に「業務管理機能」を持つことが必要になります。
(以上)
投稿広場 目次へ