WBC(World
Baseball Classic)に思う 黒木 靖生
アメリカで開催されたWBCの第1回大会では、ご存知のように、2次リーグでメキシコ代表チームがアメリカ代表チームを破ったことにより、ほとんど絶望視されていた日本代表チームの決勝リーグ進出が実現しました。そして、我が日本代表チームは、準決勝でそれまで2度対戦していずれも惜敗していた韓国代表チームを完封して退け、決勝ではその余勢を駆って世界最強の名声を誇っていたキューバ代表チームを撃破し、WBC初代チャンピオンの栄誉を獲得しました。
今回のWBCでは、日本・アメリカ戦やアメリカ・メキシコ戦における審判の誤審問題や、2次リーグの1・2位が決勝リーグの準決勝で対戦するという不合理な組み合わせ(これは、アメリカ代表チームが、決勝戦までは強豪の揃っている中南米諸国の代表チームと対戦するのを避けるための苦肉の策と揶揄されました)も話題になりましたが、私が興味を覚えたのは次の2点でした。
1.イチローと松井
今回のWBCで、ヤンキースの松井選手は日本代表チームに参加するよう招請されましたが断りました。これに対して、シアトル・マリナーズのイチロー選手は、それこそ欣喜雀躍するような感じで招請に応じました。私は、大リーグに移った時の経緯などを見て、松井選手はどちらかと言うと「義理人情」を大切にする日本人的な感覚を持ち、イチロー選手は多分に「クール」な人間ではないかと思っていました。そのため、松井選手が日本代表チーム入りを断ったニュースを聞いた時はビックリしました。
もちろん、大リーグにおける松井選手とイチロー選手の現在の立場には、次のような違いがあると思います。
@松井選手の所属するヤンキースは常に優勝争いを繰り広げているのに対し、イチロー選手の所属するシアトル・マリナーズは優勝を争えるだけのチーム力を備えていない。そのため、イチロー選手はWBCくらいでしか優勝を狙えず、WBCに対する思い入れが格段に強い。
Aイチロー選手は、大リーグの中でも不動の地位を占めている(個人タイトル獲得やオールスターゲームに選出されるなど)が、松井選手はまだその域に達していないと本人が思い、早く達するように「求道的」に努力していて、WBCに出場する余裕が無いと感じている。
B松井選手が移籍後のヤンキースは、リーグ優勝はするもののワールド・チャンピオンにはなっていない。松井選手はヤンキースをワールド・チャンピオンにすることを悲願とし、しかもそれを公言しており、それが実現できるまでは他のことには手を出したくないという「禁欲的な精神」を貫いている。
また、日本代表チームの監督が長嶋氏であったら松井選手は出場したという説もありますが、私は、案外Bが真相に近いのではないかと思います。そうすると、松井選手はヤンキースがワールド・チャンピオンになるまでは結婚もできないことになり、興味津々のところです。
それはともかく、今回のWBCにおけるイチロー選手の奮闘ぶりは見事なものでした。韓国戦で負けたときの悔しがりかたなど、本気で勝負している気迫がヒシヒシと伝わって来ました。大リーグの年間ヒット数の新記録を打ち樹てた後のNHKの特別番組などを通して、イチロー選手は感情を表に出さないクールな性格と思っていたのですが、たいへんな熱血漢であることを発見できたWBCでした。
2.最高殊勲選手
今回のWBCのMVP(最高殊勲選手)には、日本代表チームの松坂投手(西武ライオンズ)が選ばれました。これは、決勝のキューバ戦で勝利投手になったのに加えて、2次リーグのメキシコ戦や1次リーグの台湾戦でも勝利投手になったことが評価されたのですが、私は、日本の優勝に最も貢献した選手は福留選手(中日ドラゴンズ)だと思います。
ご承知のように、福留選手は準決勝の韓国戦の7回表にピンチヒッターに起用され、期待に応えて0対0の均衡を破る見事な2ランホームランを打ちました。この回、日本代表チームは、4番の松中選手が無死から2塁打を放ったのですが(松中選手が2塁ベースにヘッドスライディングし、ガッツポーズした姿が印象的でした)、続く多村選手が慣れない送りバント(王監督の采配ミス?)に失敗したあと中途半端なスイングで三振し、ゲームの流れが日本から韓国に傾きかけたかと危惧された時だけに、まさに「起死回生」と言ってもいいほどの価値あるホームランでした。
これで重圧の取れた日本チームはその回に合計5点を取り、次の8回表には多村選手の名誉挽回のホームランで1点を追加し、上原(1回〜7回)・薮田(8回)・大塚(9回)の3投手の完封リレーで韓国チームに快勝したのでした。
福留選手の活躍は韓国戦だけに留まらず、決勝のキューバ戦でも見られました。1回表に4点を上げた(もらった?)日本チームは5回表にも2点を加え、5回裏までは6対1と楽勝ペースでした。ところが、6回裏には連打で2点を返され、8回裏にもホームランで2点を奪われ、6対5と1点差まで追い上げられました。このままでは強打のキューバに9回裏に逆転されるのではないかと誰もが不安になったと思います。ところが、さすが日本代表、9回表に反撃を始め、1死1・2塁のチャンスにイチロー選手がヒットを打って1点を追加しました。この後、この日3安打と絶好調の4番松中選手が敬遠されて1死満塁(キューバも満塁のほうが守りやすい)の好機に、5番多村選手に代わって福留選手が代打に起用され、2ストライクに追い込まれながらもしぶとく2点タイムリー安打を放ち、9対5とキューバを突き放しました。
結果的に、日本チームはこの後も1点を追加し、9回裏のキューバの反撃を大塚投手が1点に抑えて、10対6で逃げ切ることができましたが、もし、福留選手が凡退して7対5のままで9回裏のキューバの攻撃を迎えていたら、日本のピッチャーにかかる重圧は計り知れなく、あるいはキューバが逆転勝利していたかも知れません。その意味で、福留選手の2点タイムリーは、本当に貴重な一打だったと思います。
このように、日本代表チームの韓国戦、キューバ戦の勝利は、福留選手の打撃に負うところが大きく、私が日本チームのMVPと主張する所以です。
(以上)
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