[シリーズ投稿・枚方通信(その20)]
はじめに
昨年11月から米穀商「スカウト・ライス」を始めて、ちょうど半年を経過した。関西には「お米のマルエー」という、電話注文で米を無料で宅配する業者がテレビで盛んに宣伝しているが、同業と言えよう。といってもわが方は、友人の好意で仕入れた玄米(1袋30kg)を、「注文があり次第、5kg乃至10
kg単位で、コイン精米機で精米したてを宅配する」、店舗も玄米貯蔵所も持たない、文字通り小口の小売商。顧客は、私が所属するボーイスカウト団と教会の家庭という小さなclosedマーケット。嬉しいことにおししいと評判で、毎月コンスタントに注文が入ってくる。皮算用すると取扱量が年間ベースでは1.5トンを超える勢いだ。30kgごとに手数料1000円をボーイスカウト貯金に充てるので、年間5万円(皮算用)。ささやかながら、会員減少でジリ貧の財政に有難い収入源となっている。
米穀商のきっかけ
わがボーイスカウト団の得意技は、せいぜい「うどん」「おでん」「炊き込みご飯」「綿菓子」などを年1回のバザーへ出店する程度だが、商品の販売、就中「コメ」という食糧を商うとは異例である。コメという主食は固定客のリピート需要を掴むのがポイント〜この賢明なアイデアは先行していた他のボーイスカウト団を見習ったものであり、当団のオリジナルではない。ただ、この先行団は稲田に地下水を使うというユニークな地元の生産農家からコメを仕入れていて、このルートを使うことを勧められたが、わが方は縁のあるわが大学の同期同窓生から仕入れることに決めた。
大学の同期同窓会の「田植え」・「稲刈り」イベント
1962年(S37年)私が卒業したK大学は、当時全学部で7学部、1学年在籍1,000名という小規模の総合大学(現在は、11学部で1学年4,000人程度と思われる)。同窓会はどこも学部単位やゼミ(又は研究室)単位の活動が活発であるが、わがKUC37会という<全学部同期同窓会>は、卒業後5年毎の周年記念同窓会や十日会と称する<月例同窓会>を<東西(東京・大阪)>で開催するなど活発な活動をしている。ゴルフ、囲碁、麻雀の各部会のほか見学ツアー等のイベントも組んできた。その一つに、「田植え」「稲刈り」イベントがある。〜別途、「同窓会活動について」を04年6月・シリーズ投稿・枚方通信(その11)に投稿済〜
U君(工学部出身)はメーカー勤務を退職後、
泥田に足を取られながら、長時間中腰のまま苗を等間隔に植えつける手植えはキツイ。また、3ヵ月後には、自分たちが植えた実りの成果に感動しながらも、鎌を使って中腰でイネを刈り取るという汗まみれの作業。いずれも、機械の入らない昔の過酷な労働を忍ばせる。終わったあとは、広い客間に上げられ、心づくしのビールと寿司をいただく。息を吹き返すと、食糧自給率の模範生たるコメの農業問題から、試乗させてもらった田植え機やコンバインなどのまさしく日本の絶妙な平和産業機械技術に至る話題がひとしきり。やがて、農業経済を支える石油にテーマが移ると、今度は話題が中東諸国・米・中・露からアジア外交に至る政治経済問題へと談論風発するという次第。この農作業とシンポジウムの会がお開きになると、皆挙っておいしいと評判のコメを土産に買って、夫々車に積んだり、託送便扱いにして貰って、次回の再会を期し別れる。今や、やめられないイベントになっている。
![]() 一列になって「手植え始め!」 |
![]() 終わった後を皆で評価 |
![]() 植え残しは田植え機がアッという間に |
![]() 喉とお腹が潤うと農業問題シンポジウムに |
播州平野が育てる「ヒノヒカリ」
このような縁で友人U君から毎年のイベント毎に楽しみに購入して食べていたコメを、昨年11月から定期的に仕入れて販売することになった。玄米の低温貯蔵所を持たないので、毎週1〜2袋(30〜60kg)単位に宅送便取扱いする極小の小売は、彼にとって煩わしい業務だろうが、その好意に甘えている。このようにして、農協(流通業)抜きの「産直システム」が実現した。銘柄は「ヒノヒカリ」(一部、早生は、「キヌヒカリ」)。「ヒノヒカリ」とは聞き慣れない銘柄だが、全国の水稲作付け状況は、「コシヒカリ」、「ひとめぼれ」に次ぐ第三位という。
![]() 鎌で稲刈り(中腰はあとでこたえる) |
![]() 残りはコンバインが瞬く間に仕上げる |
水稲うるち米品種別作付状況(H17年産・上位20品種抜粋)〜H17年10月3日農林水産省による
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順位 |
品種名 |
作付(面積)比率 |
作付け地域分布ほか |
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第1位 |
コシヒカリ |
38.0% |
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第2位 |
ひとめぼれ |
10.6% |
東北地方を中心に全国30都府県で作付け。H10年以降第2位(東北地方の作付けは全国当該品種作付けの80%を超える) |
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第3位 |
ヒノヒカリ |
10.3% |
九州地方を中心に中国・四国及び近畿地方等の24府県で作付け(九州地方の作付けは全国当該品種作付けの60%を超える)。H11年以降第3位 |
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第4位 |
あきたこまち |
9.0% |
東北地方を中心に29県で作付け(東北地方の作付けは全国当該品種作付けの約80%) |
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第5位 |
キヌヒカリ |
3.4% |
近畿地方を中心に38都府県で作付け |
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上位 5品種計 |
71.3% |
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上位10品種計 |
83.1% |
Eきらら97 Fはえぬき Gほしのゆめ Hつがるロマン Iななつぼし |
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上位20品種計 |
90.4% |
Jゆめあかり Kあさひの夢 Lあいちのかおり M夢つくし Nササニシキ O日本晴 Pハツシモ QハナエチゼンRこしいぶき Sふさおとめ |
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“越の国(福井・富山・新潟)の光り輝く”の意味で名付けられたという「コシヒカリ」は、味では最優良品種と人気の高い銘柄だが、イモチ病に弱く、倒れやすいという弱点を持っているため、各地でコシヒカリの良食味を生かしながらの品種改良が相次いだ。「ヒノヒカリ」は「コシヒカリ」と「黄金晴」が交配されたたもの。“肥国のヒカリ”と思いきや、「陽(九州や西日本)のヒカリ」だそうだ。(なお、「ひとめぼれ」は「コシヒカリ」と「初星」の交配種。「あきたこまち」も「キヌヒカリ」も「コシヒカリ」系統の品種。)
このようにコメの生産は全国的に「コシヒカリ」系品種に集中しているため、コメの同質化が進み、食味の差異がなく没個性的になってきていると言われている。その傾向の中でも“魚沼産コシヒカリ”という地域ブランド志向があるのは、該当地域の土壌の肥沃度や水、そして昼夜の気温と水温の微妙な温度差などがコメのうまさや品質に影響することを意味しよう。
わが「龍野・コシヒカリ」は、中国山脈から大小多くの河川が瀬戸内海に流れ込む中、播磨第3の大河、揖保川の流域の肥沃な播州平野に育つ。揖保川の伏流水が軟水ぎみの水で、これがうまいコメを生産していると言える。最高の酒米という「山田錦」の産地ともなっている。
龍野といえば忘れられないのは、醤油とそうめん。近くの赤穂の塩、北の山間部の大豆、コメの裏作の小麦、そして水が相俟って、醤油を龍野の一大産業に花開かせた。同じく地元の小麦と揖保川の軟水が生み出した「揖保そうめん」は、「龍野うすくち醤油」とともに全国ブランドとなっている。
悩ましい販売価格の設定
わが売価を決めるに当たっては、農協の価格と同一水準の、<10kg当たり4000円><5kg当たり2000円>に設定した。スーパーの目玉商品の、<10kg当たり3,980円>や<10kg当たり2,980円>に比べと、安くない印象を与えると思うが、顧客に常に安定した品質と価格を設定しようと努力している一般の米穀商の商品に比べれば穏健妥当といえないだろうか。
コイン精米所
このコメの直販が可能になった幸運は、もうひとつ、コイン精米所の存在である。玄米10kg当たり百円硬貨でやってくれる無人精米所。
再々利用するので、掃除やメンテナンス担当のアルバイトと思しきおじさんと親しくなった。色々教えてくれる。「旅館のご飯がおいしいのはなぜか知っているか。良いコメを使ってわけではないよ。一番安いコメよ。うまいわけは、旅館が自前の精米機を持っているから。安いコメを仕入れて、予約客が到着する直前に客数分の精米をする。旅館に辿り着きお腹のすいた客が、精米したてのゴハンを食べてうまくないはずはない」と旅館経営のミソを教えてくれた。
![]() コイン精米所 |
![]() コイン精米機の操作盤 |
食事のことを「ご飯ですよ」と呼ぶ米食人種にとって、玄米で保存のきく食糧は有難い。それでもコメは生鮮食品であり、野菜と同じく穫りたて、精米したてが一番おいしく、時間の経過とともに徐々に酸化する。秋に収穫されてから翌年の3月頃までは、鮮度が良く、気温も低いので2ヶ月は保存できる。4、5月は気温も上がって保存環境も悪くなるので1ヶ月、その後の梅雨時期は20日、夏場は2週間を目安にするが、わが顧客には「季節に拘わらず、なるべく<1〜2週間で食べることを目安に、少量ずつの精米>を」と勧めている。
評価と手数料
コメのおいしさは、実際に食べて貰って、味、香り、色、粘り、硬さ、歯ごたえを総合的に評価してもらう<五感による判定>と、コメの粒に近赤外線をあてて、うまさの決め手といわれるアミロースとペクチンという澱粉、たんぱく質、脂質、ミネラル、水分のバランスを食味計で測定する<理化学
顧客は、目下、ボーイスカウト枚方5団とカトリック枚方教会の十数世帯という、顔見知りの小規模マーケット。夫々、1〜3週間分の量の注文をいただいている。この時、30kg毎に1,000円の手数料(売価12,000円の8%強に相当)をスカウト預金に戻入させていただいている。
米穀商「スカウト・ライス」は店舗も低温貯蔵所もなく、あるのはハカリと腰痛防止用の台車と託送用の軽四輪車のみ、新規顧客開拓の必要のない商人にとって、8%の純利益は実に有難い。ただ、玄米から白米に精白する際に10%もロス(ヌカ)がでること、さらに、玄米30kgの生産元から当方への宅急便代が1,500円も掛かるのがいかにも勿体ないと感じている。
おわりに
私は第二次世界大戦勃発の1939年に生まれ、戦中・戦後の食糧難時代にはコメが食べられない悲哀を味わった者として、コメを商うことになったのは感慨深い。今や、多様化した食文化と健康食の時代で、コメの摂取量は少ないがおいしいコメを手ごろな価格で入手したいという消費者主導の時代。他方、生産者も、減反政策に伴う補助金行政や農協(流通経路)へいつまでも依存し続けられない時代。この需給に着目して、ボーイスカウトの資金稼ぎをきっかけにそのほんの一端を担いはじめたわけだが、将来は独居老人の定期訪問(&コメと野菜の宅配)サービスへと結びつかないかなと密かな夢を暖めている。(06年4月30日記)