不思議な体験 黒木 靖生
11月24日(金)の午後7時すぎ、職場から駅に向かう途上の環状7号線の十字路の横断歩道の信号が青になったのを確認して渡り出して真ん中を少し過ぎたところで、突然、耳に「ドカン!」と大きな音が響き、体の左側全体がものすごく大きな重量物に押されるような衝撃を感じました。その瞬間に、道路に横たわっている私の姿が、写真のフラッシュを浴びたように明るくハッキリと見えました。立花隆さんのお書きになった「臨死体験」には、生死の境にある人に、例えば自分はベッドに横たわっており、肉親が必死に名前を呼びかけているのが、自分はあたかも病室の天井に浮かんでいるかのように見えたというような体験が数多く紹介されていますが、それと似ていたなと事故の少し後に思い出しました。
車のドアが閉まる音がして、「すみません!」と言いながら近づいてくる人の声が聞こえて、我にかえりました。気が付くと、私は道路に倒れており、直ぐ横にアイボリー色の車の前部が見えました。そこで、「車にぶつけられた!」と状況が理解できました。付近を見回すと路上にメガネとカバンが転がっていたので慌てて拾い上げ、よたよたと道路を渡りきり歩道に避難しました。歩道にいた女性の人が「アレま〜」と驚きの声を上げるのが聞こえました。
事故車の運転者が110番に電話したので、お巡りさんが来るまで道路の左端に寄せて停車した事故車の中で休むことにしました。車は大型車で、後でセルシオという車種であることが分かりました。車にぶつけられた衝撃で頭がボ〜としてあまり思考できる状況ではありませんでしたが、体の損傷状況を点検して見ると、車のバンパーがぶつかったと思われる左足の膝の外側が痛く、また、車にぶつけられた後、左半身から道路に倒れたようで、左手の小指から手首までの部分にアスファルト道路に強くこすりつけたような傷ができています。また、左腕のヒジも道路に打ちつけたらしく痛みがあります。幸い重大な傷は負っていないようなので安堵しました。事故車は、環状7号線に交差する側道から7号線に出て右折しようとして私にぶつかったものと思われます。
この時点で左手に持ったままだったメガネを改めて確認したのですが、レンズは割れても傷が付いてもいません。ただ、良く確かめると、メガネのレンズを囲むフレームの下部に細かい擦過傷が付いています。その部分のレンズにも細かい傷が付いています。このことから、メガネは、私の顔から飛ばされた後、レンズを囲むフレームの下部から道路に着地したことが想像できました。メガネがほぼ無傷であったので顔にかけてみて、車の外で保険会社と連絡を取っていると思われる運転者の顔を初めて確認しました。
事故車の中で暫く待っていると、やっとお巡りさんがパトカーではなく自転車で現場に現われ、それと相前後して、彼が手配したらしく救急車が到着し、私は直ぐにそれに乗せられて病院に向かいました。救急車の中では、氏名・生年月日・年齢・住所・電話番号が先ず聞かれ、次に、痛みを感じている体の部位の質問と血圧や脈拍の測定が行われました。血圧は背広の上から腕にカフ(腕に圧力をかける器具)を巻いて測定したので、おおまかな状況を把握するためのものかと思いました。また「頭を打っていないか」と念入りに聞かれましたが、幸いなことに打ったような傷みも感じず、また救急隊員に見てもらったところでは頭部の外傷もありませんでした。
そうこうしている内に救急車は病院に到着し、そこで、救急車の中で集めた私に関する情報が救急隊員から病院に伝達されて、救急車は帰りました。病院では、先ず看護婦の手で血圧が標準的な方法で測定され、次いで当直医が事故で受傷した部位3ヶ所(左足の膝の外側、左手の小指から手首まで、左腕のヒジ)を目視で診察した後、骨折の有無を判断するために別室に移動しレントゲン写真を撮りました。その結果、骨折していないことが確認されたので、外傷部位の消毒・塗薬と包帯かけが行われ、治療は終了しました。
その後、病院から、
(1)これから事故を起こした当人が迎えに来るので、その車で池上警察署まで行って事
情聴取を受けて下さい。
(2)明日、病院に診断書を取りに来て、池上警察署に提出して下さい。
との説明を受けました。その時点では、この救急病院がどこにあるか分からなかったので尋ねたところ、JR大森駅の近くと言われ、明日の診察券も渡されました。幸い大森駅は毎日の通勤で使っている駅ですから、今後通院するときは便利と思いました。
少し待っていると加害者が車で病院に到着したので、その車で池上警察署まで向かいました。加害者の車で行くことには若干の心理的抵抗もありましたが、ゴネてもしょうがないと思い車に乗りました。車は池上通りから環状7号線を経て第2京浜国道に入り暫く走って目的地に到着しました。池上警察署は真新しい近代的なビルで、交通課で先ず私が事情聴取を受け、供述書に署名・捺印をした後、加害者が同じく事情聴取を受けました。彼の供述内容は不明ですが、私が再度聴取を受けなかったということは、私の供述内容(事故発生の状況や私には全く落ち度が無いことなど)を加害者も認めたものと思われます。
事情聴取の際、警察から事故の発生日時・場所・事故の相手の氏名・住所などを書いた紙が渡されましたが、その後、その紙にもとづいて私と加害者が初めて名乗りあい、今後の連絡のための電話番号などを相互に伝えました。それらが終わったのが午後9時頃でしたので、私はそこから千葉市内の自宅までタクシーで帰りました。
タクシーの中で、今度の事故を思い返しました。車にぶつけられた時、私は「ドカン!」というものすごく大きな音を聞きました。この音は、車のバンパーが私の脚にぶつかった時に発した音と思われますが、脚にぶつかっただけであんなに大きな音が出るものだろうかと思いました。しかも、脚は打撲傷を負っていますが、骨折はしていません。また、「ドカン!」という大きな音と同時に、体全体に左側から強く押される圧力を感じました。車のバンパーが脚にぶつかったのであれば、脚だけが押される感覚でいい筈です。車にぶつけられた際、車の急ブレーキの音を聞いていませんから、車はそれなりのスピードで私にぶつかって来たものと思われます。それが、これくらいの傷で済んだのは、「何かが、私の体全体を左から強く押した」ため、車のぶつかった衝撃が緩和されたためだとしか理解できません。本当に不思議なことです。
タクシーの中から家内に電話をしましたが、内容は「10時くらいに帰宅する」ということだけで、事故は敢えて伝えませんでした。言うと過度に心配し、帰宅するまでハラハラドキドキさせると思ったからです。10時少し前に自宅に到着し、手や足の包帯を見せて自動車事故に遇ったことを家族に伝えました。案の定、最初はパニック状態になりましたが、負傷した本人が元気で目の前にいるのですから、ほどなく平静に戻ることができたようです。
翌日[11月25日(土)]の朝、診断書を受け取って警察署に届けるため、JR大森駅の近くにある病院に出かけました。その病院では土曜日は診察が午前中だけのため大勢の患者さん(お年寄りが多い)で混雑しており、受診するまでに大分待たされ、また診断書をもらうために再度待たされ、終わった時は12時近くになっていました。診断書には「全治2週間」と書いてありました。病院を出た後、タクシーで池上警察署まで行って診断書を提出しました。
その後、今日[11月28日(火)]で負傷後まる4日を経過しましたが、負傷箇所以外には、車にぶつけられた際に急激に体に力を入れたためと思われる痛みを体の節々に感じる点を除けば、今のところ特に目立った異変は感じていません。手も、右手は使えるので日常生活では大きな不便は無いのですが、左膝や左手に包帯を付けているので、包帯を濡らさないように風呂に入るのが最大の苦労です。
皆さん方も、交通事故に遇わないように十分ご注意下さい。と言っても、私のように車に左後方からぶつけられるような場合、注意のしようもありませんが・・・。
(以上)