松坂騒動に思う「日米野球の差」 黒木 靖生
昨年の11月15日の夕刊に、西武ライオンズの松坂投手のポスティングシステムによる入団交渉権をボストン・レッドソックス球団が獲得したことが報じられ、その交渉権を得るための落札金額が約60億円という巨額のものだったことが大きな話題となりました。その後、松坂投手は代理人を通してレッドソックス球団と入団交渉を行い、交渉期限(30日間)ギリギリの12月15日に、6年で61億円という好条件で入団契約を結びました。
昨年は、この松坂投手の外にも、同じポスティングシステムで、阪神タイガースの井川投手がニューヨーク・ヤンキースと5年で24億円(落札金額30億円)、ヤクルト・スワローズの岩村内野手がタンパベイ・デビルレイズと3年で9億円(落札金額5億円)という条件でそれぞれ入団契約を結びました。
(注)上の文章中の金額は新聞報道に基づくもので、当時の為替レートに基づいてドル表示の契約金額を円換算したものと思われます。
これらの選手の契約金額が明らかになる中で、私は、アメリカの大リーグの選手と日本のプロ野球の選手との間の年俸金額の格差に興味を持ちました。最近の報道によれば、昨年の大リーグ30球団の選手の年俸総額は24億9,185万ドル(約2,866億円/1ドル=115円換算、以下同じ)で、1位のヤンキースは245億円、2位のレッドソックスは158億円、最下位はフロリダ・マーリンズの24億円(なんとヤンキースの10分の1)だそうです。面白いことに、大リーグでは(チーム力の均衡を図るために)チームの年俸の総額に上限があるそうで、昨年はヤンキースとレッドソックスの2球団がこの上限を超えたためヤンキースが30億円、レッドソックスが6千万円の課徴金を払わされており、ヤンキースの課徴金だけでマーリンズの年俸総額を上回っています(このような差があっては、チーム力の均衡は図れないと思うのですが・・・)。
また大リーグの選手の昨年の年俸の平均は3億円だそうで、平均が一番高いのもヤンキースで8.0億円、2位はヒューストン・アストロズの4.9億円、レッドソックスは4.6億円で3位、最下位はマーリンズの68百万円で、岩村選手が入団したデビルレイズが最下位から2番目の86百万円です。このように、大リーグ30球団の間では所属選手の待遇に大きな格差がありますが、昨年の大リーグの観客動員数は7,600万人を超えて3年連続で大リーグ記録を更新中、その結果収益は5,980億円にも達し、下位球団の経営状況も改善されつつあると報道されています。
これに対して、日本のプロ野球12球団の選手会に所属する選手(743人)の年俸総額は約300億円とのことです(対象選手の数に違いがあるため、多寡については日米で単純に比較はできませんが、少ないことは確かです)。また、球団年俸金額では、日本におけるトップ球団の読売ジャイアンツでも35億円と言われ、片や、松坂投手の所属していたライオンズでは21億円にとどまり、大リーグ最下位のマーリンズにも及びません。そして、ライオンズは毎年20億円近い赤字を出しているとも報道されています。
大リーグが上記のような大きな年俸を選手に与えられるのは、それだけの収益基盤を持っているからということですが、その基盤はいったい何でしょうか。球団の収益基盤の第一は試合の入場料金(=座席料金)でしょうから、先ずそれを見てみました。大リーグの球場の座席料金は、例えば松坂投手が入団したレッドソックスのフェンウェイ球場の場合、一番安い席は外野席の奥のほうで12ドル(1,380円)、一番高い席は内野のダッグアウト・ボックスで312ドル(35,880円)、一番数が多い席は内野のグランド・スタンドで45ドル(5,175円)です。この45ドルを全ての座席料金の平均、フェンウェイ球場の観客席数は38,805で各回とも満員(フェンウェイ球場は席数が少ないのでいつも満員とのことです)と仮定すると、1試合の観客収入は2.0億円、年間の観客収入の総額は、大リーグは各チームが年間162試合戦いますから、その半分がフェンウェイ球場で行われるとして、162億円となります。
これに対し日本では、例えば東京ドームの場合、料金の一番高い席は指定席Sで5,900円、一番安い席は外野席の1,700円です。こちらも、席数が一番多い指定席Bの料金3,700円を平均と考えると、東京ドームが満員になった時の席数は45,600ですから、入場料金の合計は1億6,872万円、また、観客収入の総額は、1年130試合の半分がここで行われるとして110億円となります。これは、一番人気の高い「東京ドームでのジャイアンツ戦」を想定した場合で、他の球団(球場)ではこの数分の1の収入になるでしょう。
ちなみに、前出のように大リーグの昨年の観客数は7,600万人だそうですから、これを全試合数2,430(162試合×30チーム÷2=2,430)で割ると、大リーグの1試合の平均入場者数は31,276人となります。日本のプロ野球の平均の入場者数は手元にありませんが、感覚的には大リーグの半分の1.5万人くらいではないでしょうか。このように考えると、大リーグと日本のプロ野球の収益基盤の差の第一は、@観客数、A入場料金(座席料金)、B試合数の差と見ることができます。しかし、@の観客数については、野球を国技とみなすアメリカとの差は如何ともしがたく、またAの入場料金についても、日本のプロ野球で入場料金を今より高くした場合、観客数が激減すると予想され、高くすることは不可能と思います。
また、大リーグの収益基盤の一つにテレビの放映権があります。アメリカでは、大リーグのテレビの全国放送の権利は大リーグ機構が持っており、それをテレビ会社に売ってその収益をチームの順位に応じて分配しているそうですが、昨年7月に大リーグ機構は7年間で30億ドル(3,450億円)の契約を結んだと報道されています。
また、大リーグでは、各チームは上記の大リーグ機構の契約と抵触しない範囲でテレビ局と放映権の契約を結ぶことができ、例えばロサンゼルス・エンゼルスは昨年2月に10年間5億ドル(575億円)で契約しています。
これに関しても、日本では、テレビの野球放送はNHKを除いては特定球団に偏っており、他の球団はアメリカにおけるエンゼルスのような収益を期待することはできません。
このような条件を考えると、大リーグと日本のプロ野球の選手の待遇(年俸)の差を埋めることは、かなりの難事と思われます。
(以上)